がんセンター

鳥取大学医学部附属病院がんセンターは、令和3年度より組織改組し、①化学療法部門、②緩和ケア部門、③がん教育部門、④がん相談支援部門、⑤がん診療連携部門、⑥がん登録部門の計6部門の集合体としてリニューアルした。

各部門の令和3年度の活動状況と今後の展望について報告する。

①化学療法部門

令和3年度の活動状況

1. 外来化学療法室

令和3年4月~令和4年3月の1年間で、のべ7747件の治療を施行した。化学療法件数の総数および各診療科別の年次推移を以下に示す。

治療件数の増加に対応するため、より効率的な運用を目指し下記の取り組みを実施した。

1) 前日採血による9:00~10:00 枠の活用。

前日午後に待ち時間なく採血を行い、翌朝診察後に外来化学療法を実施することで、大幅な待ち時間削減が可能となった。(精算は翌日の化学療法後に合算)
この取り組みを開始した6月から3月までの間で午前9時台の入室が、前年度の1213件から1399件に増加した。(+186件:前年比+15%)

2) 認定看護師による起壊死性薬剤の穿刺を開始。

看護師の穿刺数が前年の3810件(全体の49%)から4826件(全体の62%)に増加した。(前年比+1016件)

2. irAE 対策チーム

irAE 対策チームにおいて定期的なカンファレンスを開催し、免疫チェックポイント阻害薬投与症例の確認、irAE の発症状況および適正なirAE 対応の評価を行っている。令和3年1 月~12 月の1 年間で計22 回のカンファレンスを行った。この1 年間で当院では、新規に150例の免疫チェックポイント阻害薬が導入され、68 件の中等症以上のirAE を認めた。非常に多彩でいつ起こるかわからない irAE を早期に発見し、迅速かつ適切に対応し、安全な治療を行うためirAE 対策マニュアル初版を作成し、令和4年3 月末に全職員へ配布を行った。

3. レジメン審査

レジメン審査ワーキングでは今年度32 件のレジメン審査を行い、カテゴリーA(がんセンター枠)19件、カテゴリーB(診療科枠)2件、カテゴリーC(患者限定枠・未承認)6件、カテゴリーD(臨床試験)5件を承認した。

今後の展望

外来化学療法室のさらなる効率的運用を目指して、看護師によるCVポート穿刺に向けた体制作りに取り組む予定である。またirAE対策チームの活動をより強固にし、当院だけにとどまらず地域拠点病院へirAE 対応の周知を図り、鳥取県全体のがん診療レベル向上を果たすことを目標とする。

②緩和ケア部門

令和3年度の活動状況

1. 緩和ケアチーム

身体担当医:消化器内科2名、呼吸器内科1名、麻酔科1名、精神担当医:精神科2名と、がん看護専門看護師2名、緩和ケア認定看護師1名、薬剤師2名、臨床心理士1名、MSW1名、歯科衛生士1名、管理栄養士2名による多職種で緩和ケアチームを構成している。カンファレンス・回診を週1回実施し、患者の苦痛を全人的苦痛としてあらゆる角度からアセスメントし、各専門的見解を以て患者の症状緩和に努めている。緩和ケアチーム紹介件数および依頼内容の年次推移を以下に示す。

2. 研修会、講演会開催

令和4 年1 月8 日に緩和ケア研修会(PEACE 研修会)を開催し医師21名が研修を修了した。その他各種講演会を開催することで緩和ケアのレベルアップを図った。

3. 緩和ケアマニュアル

緩和ケアポケットマニュアル2022年版を発行し、令和4年3月に全職員への配布を完了した。

今後の展望

令和3年度9月より病棟担当看護師から緩和ケアチーム看護師への直接紹介を可とし、その結果、紹介患者数がわずかに増加したが、依然として目標紹介数(120件/年)を下回っているのが現状である。次年度からは緩和ケア専門医の専門外来を新規に立ち上げ、より強固な緩和ケアチーム活動を推進していく方針である。

③がん教育部門

令和3年度の活動状況

1. がん薬物療法専門医育成

がん薬物療法専門医育成のためのプログラムを作成し、登録医を募集し、がんセンター内での研修を開始した。新専門医制度への対応を開始し、研修カリキュラム作成等準備中である。

2. 学生教育

医学科「臨床腫瘍学」計8コマ、生命科学科「基礎腫瘍学」計15コマの授業を、それぞれ5名、12名の教官で担当した。

3. がんセミナー

令和3年度は計5回開催した。(演題、講師は以下参照)

開催日 演題 診療科 講師
6月30日 1当院におけるirAE対策チームの取り組みについて がんセンター 矢内 正晶
2膵管癌・胆道癌診療の最近の話題 がんセンター 山下 太郎
8月25日 1進行性腎癌に対する1stライン薬物療法の最前線 泌尿器科 岩本 秀人
2遺伝性乳癌卵巣癌症候群に関連した乳癌診療について 乳腺内分泌外科 若原 誠
10月27日 1胃癌診療UP TO DATE 消化器・腎臓内科 八島 一夫
2当院の進行肝細胞癌に対する全身化学療法の現状 消化器・腎臓内科 永原 天和
12月22日 1大腸癌化学療法の現状と未来 消化器・小児外科学分野 山本 学
2頭頸部癌治療について 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 藤原 和典
3月9日 1婦人科がん治療のトピックス 女性診療科 佐藤 慎也
2造血器腫瘍における造血幹細胞移植 血液内科 河村 浩二
4. 骨転移キャンサーボード

令和3年度は計11回開催し、各科の医師で治療方針について積極的なディスカッションを行った。

今後の展望

今後3年以内に4名のがん薬物療法専門医育成を目標にしている。がんセンター内での研修だけでなく効率よく入院患者を担当するシステムを構築中であり、今後稼働予定である。新専門医制度サブスペ「腫瘍内科専門医」を育成する取り組みを準備中である。2 年以上5 年以内の専門研修で90 症例以上を受け持ち、専攻医登録評価システム(J-OSLER Oncol.)に登録し、指導医からマンツーマン指導を受ける体制を構築する。当がんセンターが鳥取県の基幹病院として専門研修管理委員会を設置し、研修サポート、終了判定を行う予定である。

学生教育、がんセミナー、骨転移キャンサーボードは今後も同様に継続予定である。

④がん相談支援部門

令和3年度の活動状況

患者支援のために、医療福祉支援センターと協力してがん相談を行っている。がん相談は、患者さんやご家族のほか、地域の方々は誰でも無料で利用でき、がんに関する治療や療養生活全般、地域の医療機関などについて相談することが可能である。令和3年度の相談対応件数は863件と年々増加傾向である。相談内容では、「不安・精神的苦痛」「転院」「在宅医療」の相談が多く、この3つで半分を占めている。

令和3年度は小児・AYA世代のがん患者等の妊孕性温存療法研究促進事業の開始により公的助成制度ができたことから、12月にがんセンター特別企画として、『若年がん患者等の妊孕性温存に関する勉強会』、3月には鳥取県看護協会とともに『AYA世代のがん患者支援研修会「がん患者の妊孕性温存療法支援に関する研修会」』を開催した。

また、がん患者サロン(さくらサロン)を運営し患者のサポートを行っている。2008年4月に開設され、令和3年度で開設14年目を迎えた。令和3年度は、オンラインさくらサロンを12回(月1回)、子育て世代のがん患者サロン「さくらカフェ」を3回開催した。また昨年に引き続き、さくらサロン通信「さくらだより」Vol.11~Vol.18を発行した。

特別企画としては、がん患者サロンオンライン勉強会『がんと就労~がんと診断されて就労のことで迷っておられる方へ~』、外来ギャラリーを利用した、がんセンター作品展『つながりを力に~がんとともに生きる~』を開催した。また、今までのさくらサロンの活動内容を1冊にまとめた、冊子つながりを力に『さくらサロンへようこそ』を発刊した。

今後の展望

各部門と連携して今後も包括的ながん患者の相談・支援を推進していく。

⑤がん診療連携部門

令和3年度の活動状況

1. 鳥取県がん診療連携協議会関係
  • 鳥取県がん診療連携協議会 令和3年11月19日開催
  • 鳥取県がん診療研修会 令和3年5月30日開催
2. 市民公開講座、セミナー等
  • 第一回市民公開講座「がんと共に自分らしく生きる」令和3年11月6日開催
  • 若年がん患者等の妊孕性温存に関する勉強会 令和3年12月23日開催
  • がんと就労オンライン勉強会 令和4年1月14日開催
  • 緩和ケア講演会「~がん患者さんとご家族の“心のケア"できていますか?~」 令和4年2月10日開催
  • 公開セミナー「がん患者の妊孕性温存療法支援に関する研修会」 令和4年3月5日開催
  • 第二回市民公開講座「そこが知りたい!“がん免疫療法"」 令和4年3月26日開催
  • がん征圧月間特集記事「コロナ禍でもがん検診を」(がんセンター、鳥取県、鳥取県健康対策協議会)令和3年9月3日新聞掲載
3. WEB 診療カンファレンス(当院―鳥取県立中央病院間)
  • 第一外科診療科群(14 回)
  • 泌尿器科(9 回)
  • 女性診療科(3 回)
  • 放射線診療科(5 回)

今後の展望

次年度も鳥取県がん診療研修会を令和4年5月に、鳥取県がん診療連携協議会を令和4 年11 月に開催予定である。
次年度以降も各種市民公開講座、セミナー等を企画、開催する予定である。(緩和ケア研修会、市民公開講座、公開がんセミナー、がん相談員等研修会等)

⑥がん登録部門

令和3年度の活動状況

がん登録は、がんの罹患や転帰、進行度や治療内容などの状況を登録・分析する仕組みであり、がん罹患数・罹患率、がん生存率、治療効果など、がん対策の基礎となるデータを把握するために必要なものである。本院では、2007年に院内がん登録を開始し、2011年には鳥取県院内がん登録情報センターを開設した。現在、がん登録室(データセンター)では、3名の専任スタッフが情報の登録・管理・解析を行っている。令和3年度のがん登録状況を以下に示す。

今後の展望

今後も引き続き正確ながん登録を行っていくとともにがん登録情報の有効活用に努めていく。

小谷昌広