薬剤部

令和4年度の薬剤部の人員体制は、教員2名、薬剤師GRM1名を含む薬剤師定員55名であり、前年度からの増員はなかった。4月1日時点では、教員2名、薬剤師54名(新採用者2名を含む、欠員1名)、薬剤師以外の者として事務補佐員3名、技能補佐員(薬剤師の調剤業務補助者)7名の総勢65名であった。

薬剤部では前年度同様に、調剤部門と病棟部門、臨床支援部門の横断的な業務体制を継続した。これにより、業務の効率化、職員の休暇取得を容易にするとともに各薬剤師の基本業務(調剤、混注、服薬指導、医薬品管理業務等)のスキル維持にも繋がっている。また、全員が基幹業務に携わることは、新型コロナウイルス感染拡大を含む災害時にも対応可能な体制と考える。

1.医薬品管理業務、医薬品情報管理業務

令和4年度の本院採用医薬品については、新規仮採用63品目、院外処方限定採用58品目であった。ジェネリック医薬品については、合計38品目(内服薬20品目,外用薬5品目,注射薬13品目)の切り替えを実施した。高額薬品を中心に切り替えを実施した結果、令和4年度切替分による増収効果は7,021万円と令和3年度の増収額(4,526万円)を大きく上回った。後発医薬品使⽤体制加算については、令和4年4月より、加算1の後発医薬品使用割合の算定基準が85%から90%に引き上げられたが、これまでの継続的に取り組みが功を奏し、加算1を取得し、年間約682万円(令和3年度約677万円)と前年同様の収入を得ることができた。ジェネリック医薬品への切り替えの際には、患者や医師・看護師などの混乱が最小限となるよう、システム上の設定、ならびに各種媒体を用い情報提供を行った。また、切り替えに伴う廃棄金額を抑えるために、各部門と連携を図り効率的な医薬品の切り替えに取り組んでいる。

薬事委員会では、有効性・安全性と経済性を総合的に評価し、令和元年度より医薬品の使用指針(フォーミュラリー)を作成している。令和4年度は神経障害性疼痛緩和薬、フィブラート系薬剤、帯状疱疹治療薬、ESA製剤、インフリキシマブ、静注鉄剤の計6種類について新たに作成した。睡眠薬のフォーミュラリーでは、転倒・転落減少を目的としたオレキシン受容体拮抗薬、メラトニン受容体アゴニストの使用促進並びにベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用抑制が推進され睡眠薬の適正使用が図られた。医薬品情報等の院内周知を目的とし、月1回配布する「DIニュース」に加え、医薬品適正使用の観点から製薬会社や公的機関(PMDA等)から得た情報提供は49件(前年度53件)と前年度と同程度であった。また、直接薬剤師が医局等に出向き、医薬品安全管理に関する研修を行っている。令和4年度は医師に対して延べ24回、看護師に対し延べ8回の出前研修を実施した。安心・安全な医薬品の適正使用には適正な情報が必要不可欠であり、今後も質の高い情報提供を推進する必要がある。

2.病棟業務(病棟薬剤業務および薬剤管理指導業務)

当院では、平成27年度より集中治療領域を含む全病棟(22病棟)に薬剤師を配置し、病棟薬剤業務実施加算の算定を行っている。病棟薬剤業務により、ハイリスク薬投薬前の患者への説明、用法用量等の確認業務、医療安全を伴う医薬品の情報共有及び管理の質が向上している。さらに病棟への薬剤師常駐により、タイムリーな病棟スタッフとの情報共有の充実にも繋がっている。薬剤管理指導業務については、20,735件と前年度の20,455件を上回った。

また、薬剤部では医療安全の向上、医師の負担軽減を目的とし、病棟における処方仮登録業務へ積極的に介入している。入院処方に関しては、定期処方仮登録業務を1B病棟にて開始後、7A、7B、6A、8A、8B病棟に対象を拡大してきた。また、持参薬仮登録業務に関しては、令和元年3月に血液内科にて開始後、徐々に対象診療科を拡大、令和3年6月には全診療科を対象とした。持参薬鑑別件数は前年度(10,811件)と同等の10,655件であった。今後、病棟業務においても更なる医療安全の推進、医師の業務負担軽減に伴うタスクシフティングを進めていきたいと考えている。

また、地域における継続的な薬学的管理指導を支援するため、医療機関から保険薬局に対して、情報提供する『退院時薬剤情報連携加算』の令和4年度算定件数は216件(前年度239件)であった。今後も地域包括的な薬学的管理実践のため、さらなる連携強化を目指していきたいと考える。加えて、ポリファーマシー解消のため、入院時の内服薬の総合的な評価および見直し等を行うことで算定可能な『薬剤総合評価調整加算』は85件(前年度128件)、また本取り組みにより内服薬が2種類以上減少した際に算定可能な『薬剤調整加算』は11件(前年度27件)であり、医薬品の適正使用の推進に寄与している。

医薬品安全性情報報告(医薬品の使用によって発生した健康被害について、薬機法に基づき厚生労働大臣に報告する制度)は、令和4年度は7件(前年度13件)と薬物療法の発展と患者の利益に繋げる報告ができた。また、プレアボイド報告(薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的患者ケアを実践して副作用、相互作用、治療効果不十分などの患者の不利益を回避あるいは軽減した事例)については、令和4年度は265件(前年度333件)であった。今後も薬学的患者ケアの実践のために、さらなる報告の推進をしていきたいと考えている。

3.注射薬調製業務

平成26年から薬剤師が全ての抗がん薬の調製を全日行っている。令和4年度の調製件数は22,170件(外来13,150件、入院9,020件)と前年度21,063件(外来11,869件、入院9,194件)、休日の調製件数957件(前年度941件)といずれも前年と同程度であった。本業務により、抗がん薬の安全な調製が行えるだけでなく、医師・看護師の負担軽減や医療従事者の曝露防止にも貢献していると考える。また、当院では調製者の曝露防止を目的とした閉鎖式接続器具を利用している。令和4年度の閉鎖式器具使用実績は6,901件(前年度6,590件)と前年と同程度であった。また、抗がん薬の廃棄薬剤の減少を目的としたDVO(薬剤バイアルの最適化)システムを令和2年5月より導入しており、効率的な抗がん薬管理を行っている。令和4年7月には対象薬剤に新たにオニバイド点滴静注を追加したこともあり、調製件数は715件と前年の646件より増加した。

さらにがん薬物療法に対し、薬剤部では抗がん薬の調製のみならず、レジメンの登録・審査にも関わっており、投与前のレジメンチェックや薬歴管理から投与前後の服薬指導(外来化学療法室でも実施)まで抗がん薬治療の一連の流れに対し、常に薬剤師が関わり、医療安全や薬物治療の適正化に貢献している。

また、高カロリー輸液(TPN)調製業務にも薬剤師が関与しており、重症病棟ではサテライトで調製し、一般病棟では全病棟の予定オーダーを製剤室にて調製している。調製件数は令和4年度2,459件(前年度2,749件)となっている。

4.薬物治療モニタリング

薬剤部では抗真菌薬のボリコナゾール、免疫抑制薬のミコフェノール酸およびアミノグリコシド系抗菌薬のアミカシン及びトブラマイシンの4剤の薬物血中濃度をLC-MS/MSにて測定している。令和4年5月より、アセトアミノフェンの血中濃度測定を開始し、令和4年度の測定件数は339件と前年度の255件に比べ増加した。また、測定値に関して、一般社団法人TDM品質管理機構が実施しているTDMコントロールサーベイ(外部精度管理)へ参加し、薬物血中濃度測定の品質保証体制の維持を行っている。血中濃度解析は抗MRSA薬および移植時の免疫抑制薬を中心に実施している。移植件数の増加に伴い、解析ならびに処方設計件数は、令和4年度は1,453件と前年度の1,265件に比べ増加した。令和4年5月より医師の業務負担軽減や検査漏れの回避を目的に、バンコマイシンやテイコプラニン等のTDM関連薬の検査仮オーダーを開始し、令和4年度は170件であった。

5.調剤業務

令和4年度の調剤業務実績として、入院処方せん枚数146,175枚(前年度146,797枚)、予定注射薬セット件数325,785件(前年度315,036件)であった。入院注射業務は、全て一施用毎の払い出しとし、これまで予定注射薬のみを対象としてきたが、令和元年8月より、臨時注射薬業務の対象を拡大した(一部の重症系病棟を除く)。令和4年度の臨時注射薬セット供給件数は25,912件(前年度26,182件)であった。また、予定手術時に使用する薬剤のセット件数は13,380件(前年度13,181件)と前年度と同程度であった。

令和2年11月より薬剤部では全自動PTPシート払い出し装置(搭載医薬品数:352品目)、散薬調剤ロボット(搭載医薬品数:30品目搭載)を導入し、調剤業務をおこなっている。このことから薬剤部全体の業務効率化、調剤業務における医療安全のさらなる向上が期待される。

医薬分業、地域連携のさらなる強化を目的とし、前年度に引き続き積極的に外来患者に対する院外処方せん発行を推進した。その結果、月当たりの院外発行率は平均94.8%(前年度95.3%)と発行率を維持することができた。また、外来院内処方せん枚数は7,860枚(前年度7,029枚)と増加した。令和3年2月より、ジェネリック医薬品の使用推進や保険薬局の在庫負担軽減等を目的として処方頻度の高い28品目を対象に院外処方せんの一般名処方を開始した。令和4年6月から全ての錠剤・カプセル剤に対象薬剤を拡大した。また、システム改修を行い、9月からは外用剤・水剤・散剤に対象薬剤を拡大した。この結果、令和4年度の算定実績は一般名処方加算1:40,447件、加算2:53,107件(前年度加算1:64件、加算2:2,461件)大幅に増加した。一般名処方加算による令和4年度の増収額は、約55万円であった。

血清カルシウム、血清マグネシウム、薬物血中濃度について、院外処方せんに従来の固定検査値(12項目)に加え、処方薬と紐づいた検査値表示を11月から開始した。本取り組みの有用性を検証するとともに、対象となる検査値の拡大等を検討する予定である。

また、疑義照会について、平成29年度より特定の項目においてプロトコルに基づく疑義照会の簡略化と、処方変更時の薬剤師による処方修正を開始し、医師の外来業務の負担軽減に大きく寄与している。令和4年6月からは従来の院外処方に加え、新たに入院処方を含む院内処方に対象範囲を拡大した。令和4年度のプロトコル対応145件/月(前年度135件/月)、薬剤師による処方修正も280件/月(前年度255件/月)と増加した。

6.診療支援外来

平成27年6月より、医師の業務負担軽減や患者のQOL向上を目的とした、薬剤師による「診療支援外来」を開始した。術後補助化学療法の患者を対象に、医師の診察前に薬剤師が面談し、「副作用モニタリング」や「プロトコルに基づいた仮処方入力」等を行っている。当初は乳腺内分泌外科のみであったが、平成28年度に泌尿器科、平成30年度には消化器内科の分子標的薬服用患者に対象を拡大している。令和4年度の患者指導件数は714件(昨年度641件)であった。

また、平成30年度より算定開始となったサリドマイド及びその誘導体が処方された患者に対する特定薬剤治療管理料2の取得実績は248件(昨年度207件)であった。病院薬剤師が病棟だけではなく、外来診療にも積極的に介入している。令和4年4月より手術予定の患者に対し、周術期医療の質向上および麻酔科医師の負担軽減を目的とした、看護師と薬剤師による「術前スクリーニング外来を開始した。薬剤師による常用薬、アレルギー歴の確認、手術室看護師の問診でハイリスクが疑われる症例に対して麻酔科と協議するシステムを導入し、早期にハイリスク患者に介入できるようになった。令和4年度の外来件数は1,439件であった。

7.周術期業務

令和4年度診療報酬改定による周術期薬剤管理加算、術後疼痛管理チーム加算に薬剤師が積極的に関与し、質の高い周術期医療に貢献している。令和4年度の加算実績は周術期薬剤管理加算59件(令和5年2月より算定開始)、術後疼痛管理チーム加算は874件(令和4年11月より算定開始)であった。また、麻酔科医の業務負担軽減を目的として、術後鎮痛を目的とした持続硬膜外麻酔と持続静脈麻薬注射の混注も行っている。令和4年度の混注実績は硬膜外麻酔混注は628件、持続静脈麻薬注射の混注は364件であった。次年度以降も他組織、多職種と連携し、質の高い周術期における薬学的管理を目指していきたいと考える。

8.地域連携

鳥取県西部地域の病院薬剤師と保険薬局薬剤師の会合を当院薬剤部にて毎月開催し、院外処方に関する様々な問題点について議論を交わし、相互連携に努めている。新型コロナウイルス感染症の影響により、集合会合を取りやめOnline会議へ移行し、継続開催している。このような状況において、近年大きな問題となっている製薬会社からの出荷調整や自主回収依頼に伴う病院、薬局間の処方・在庫調整に関して、本会合を中心に卸業者も交え情報共有の徹底、運用の再確認などを行い、地域において卸業者、病院、薬局間でスムーズに連携を図れるよう対応した。また、電話診察やOnline診察への対応について適宜情報共有を行い、外来診療に影響しないよう、地域の医療機関、薬局が一丸となって取り組んでいる。さらに、入院から外来診療において、シームレスかつ安全で有効的な薬物療法を提供する目的で、平成28年9月より院外処方せんへの医師と保険薬局薬剤師の連絡欄の掲載を開始した。薬局薬剤師の勉強会や役員会等で当院薬剤師が説明を行い、積極的な活用を依頼した。その結果、令和4年度の活用実績は442件と前年度(257件)より増加した。次年度以降も薬局薬剤師とさらなる連携強化に努めていきたいと考える。

その他、令和2年度に新設された、質の高い外来がん化学療法を目的とした「連携充実加算」の算定も開始した。令和4年度は814件(前年度848件)を算定し、地域の医療機関、薬局と連携を図り、より安全ながん化学療法の実施に取り組んでいる。

9.教育及び研究

令和4年度に受け入れた薬学部実務実習生は5名だった(前年度6名)。実習カリキュラムの一環として、地域における急性期から慢性期までのシームレスな薬剤師の加入を体験することを目的とし、日野病院へ実習生を派遣している。このように地域施設と連携することで、地域包括医療の一端を実習カリキュラムに取り入れ、地域連携について学べる環境を作っている。

部内教育体制として実践的なキャリアアップ体制の構築を目指し、部署リーダー制を導入し、若い薬剤師が積極的に業務マネジメントへ介入できる体制を構築している。また、管理者育成においても、幅広い視野を持った業務マネジメント能力が身に着けられるよう、部署横断的な課題解決型のワーキングリーダー制を導入し、新たな課題に対しての対策提案を積極的に行える環境を提供している。学術教育体制については、前年度に見直しを行った新たな臨床研究管理体制の下、学会発表11演題を発表し、原著論文5編、総説1編を報告した。また、科研費採択1件、院内講演1件、院外講演1件であった。

薬剤師認定制度の有資格者として、令和4年度末時点で、当院薬剤部には日病薬病院薬学認定薬剤師14名、日本医療薬学会認定医療薬学専門薬剤師3名、日本医療薬学会認定がん専門薬剤師4名、日本医療薬学会認定がん指導薬剤師1名、日本病院薬剤師会認定感染制御認定薬剤師2名、日本病院薬剤師会認定妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師1名、日本薬剤師研修センター認定小児薬物療法認定薬剤師2名、日本糖尿病療養指導士認定機構認定糖尿病療養指導士5名をはじめとする、多数の有資格者が在籍している。また、未取得者が取得を目指しやすくするために、各種専門グループ制を導入し、様々な専門資格について組織的かつ計画的に取得することを進めている。

10.地域薬剤師不足に対する人的支援

鳥取県西部地域および島根県東部地域の薬剤師不足は深刻であり、現在までに、日野病院、山陰労災病院、安来市立病院、安来第一病院、済生会境港総合病院より薬剤師不足解消のための派遣要望が当院にあった。令和2年度からは日野病院へ週1回の兼業として1名の薬剤師派遣を開始している。今後も地域基幹病院の薬剤部として薬剤師不足に対し、可能な限り人的支援を含めた支援体制の構築を目指す予定である。

11.新型コロナウイルス対応

コロナ禍も3年目を迎え、薬剤部においては、未承認治療薬の使用に関する体制の確立や感染患者の受け入れ(入院、手術、検査等)に対する医薬品管理対応、外来患者に対する電話再診等に関与した。また、臨時入院病床に重症患者を受け入れる際には、管理薬剤を含む医薬品管理体制の構築や薬剤師による特殊薬(新型コロナウイルス治療薬、麻薬、筋弛緩薬等)の混注業務等の役割を担った。これらの日々状況が変化していく中、混乱する院内への支援を状況に応じて迅速に対応した。現在も感染状況に応じた臨機応変な部内体制を継続している。

(椎木 芳和)