先進内視鏡センター
消化器内視鏡部門
2022年度の消化器系内視鏡検査件数は6399件(上部消化管内視鏡3608件、下部消化管内視鏡検査1604件、小腸内視鏡47件(小腸カプセル内視鏡32件)、専用機EUS492件、EUS-FNA137件、ERCP469件、DB-ERCP42件)で内視鏡を用いた治療では食道ESD30件、胃ESD119件、十二指腸ESD5件、大腸ESD83件でした。合併症予防のため、鎮静下の検査・治療の術前には手術室と同様のレベルで医師・看護師によるタイムアウトを行っています。検査中は酸素飽和度、血圧、脈拍をモニターし、安全・安心な検査・治療ができるようにしています。2019年9月より病院で統一した内視鏡の確実な洗浄・高水準消毒を実施するため、新たな内視鏡洗浄センターを併設しました。以上、最新の内視鏡診療にて質の高い診療サービスを患者様に提供できる状況となっています。
1)消化管疾患
消化管内視鏡検査では上部消化管・大腸内視鏡検査が中心となりますが、病変の的確な診断に役立つ超音波内視鏡(内視鏡的超音波下穿刺も含む)、苦痛の少ない経鼻内視鏡、さらにダブルバルーン式小腸内視鏡、カプセル内視鏡(2017年10月より大腸カプセルも導入)、食道アカラシアなど機能性食道疾患が疑われるときの高解像度食道内圧検査(high resolution manometry: HRM,2017年12月より導入)、逆流性食道炎の精密検査である24時間pHモニタリング検査、また2019年4月より中国地方でも先駆けとなる超拡大内視鏡による検査など行っています。消化管癌の診断・治療方針決定のために、画像強調・拡大内視鏡・超拡大内視鏡を用い詳細な観察を行い、診断精度が向上しています。さらに2022年4月よりAI技術を用いた大腸ポリープなどの病変検出および腫瘍性・非腫瘍性の鑑別を支援する内視鏡診断支援システム(EndoBRAIN:Olympus, CAD EYE:Fujifilm)を導入しています。治療内視鏡では、早期食道癌・胃癌・大腸癌に対して低侵襲治療で治療効果が高い内視鏡的粘膜下組織剥離術(endoscopic submucosal dissection; ESD)を積極的に行っています。他院でのESD困難症例など、難易度の高いESDも当院で対応しております。特記すべきこととして当院では2016年1月に中国地方では初となる局所再発食道癌に対して光線力学的療法(PDT)が可能な施設となり、1例目を施行しました。現在でも様々な施設からご紹介いただいております。また、食道アカラシアの治療法である「POEM (ポエム)」と呼ばれる内視鏡治療が2016年4月から保険収載となり、2017年10月に山陰地方で1例目のPOEMを行っております。POEMも低侵襲で有効性の高い治療であり、現在約60例に施行し、症状の改善を認めています。その他、各種の内視鏡的治療用器具を用いて、胃・食道静脈瘤、消化管出血、消化管・胆道狭窄、消化管悪性腫瘍、消化管内異物など低侵襲で安全な治療を目指して行っています。
2)胆膵疾患
胆膵グループでは、近年進歩の著しい胆膵内視鏡を用いた低侵襲で、確実な診断、適切な治療を提供できるよう努めています。膵癌、胆道癌に対しては早期発見を目標に精力的に取り組んでいます。CT・MRIで指摘された膵管拡張、膵嚢胞性病変や胆管拡張から、超音波内視鏡(EUS)を活用して小さな腫瘍を見つけ出します。また腫瘍が指摘されている場合には、膵癌では超音波内視鏡下穿刺吸引法(EUS-FNA)と膵液細胞診を併施することで、95.9%の診断能を実現しています。胆道癌に対しては、経口胆道鏡(POCS)を施行し、治療前の病変を確実に診断し、癌であれば範囲診断を行うことで、適切な治療方針を提案しています。POCSについては国内でも有数の施行件数を誇っています。
胆管結石に対する治療では、入院、絶食期間が短くなる事を目指し、安全な乳頭処置(内視鏡的乳頭切開術や拡張術)に続き、標準的な結石除去術を行うほか、巨大結石や積み上げに対してはPOCSによる直視下に電気水圧衝撃波胆管結石破砕装置(EHL)を用いた除石術を行います。胆管ステント留置による姑息的治療は可能な限り行わず、完全結石除去を目標とします。術後再建腸管に合併した胆管結石や吻合部狭窄、胆道癌に対しては、ショートタイプダブルバルーン内視鏡を導入し、以前は外科的に治療されていた病態に対しても、患者さんにより負担の少ない診断、治療を行っています。
EUS関連手技においては、EUS-FNAはもちろんのこと、膵炎後の嚢胞に対するEUSガイド下嚢胞ドレナージ(EUS-CD)、経乳頭的アプローチが困難な悪性胆道狭窄による閉塞性黄疸に対する胆道ドレナージ(EUS-BD)、コントロール不良となる癌性疼痛に対する腹腔神経叢融解術(EUS-CPN)など最新の技術を提供しています。
胆膵グループでは常に内視鏡技術を研鑽し、最新で確かな知識を探求し、研究会や学会などで得られた見識を共有しあうことで、内視鏡医の世代を越え地域に根差す文化的技術を醸成することを最大の目標としています。
文責: 八島一夫、池淵雄一郎、武田洋平
呼吸器内視鏡部門
2022年度の呼吸器内視鏡検査件数は329件でした。内訳は、肺末梢病変に対する生検(気管支腔内超音波断層法-ガイドシース: EBUS-GS、または気管支腔内超音波断層法-極細径内視鏡:EBUS-UT)134件、超音波内視鏡下リンパ節生検(EBUS-TBNA)57件、気管支肺胞洗浄(BALまたはBAL+TBLB/TBLC)24件、凍結生検(クライオ生検)24件、局所麻酔下胸腔鏡1件、内視鏡手術8件(APC焼灼術4件、スネア摘出術3件、異物除去術1件)、気管支内視鏡的放射線治療用マーカー留置術4件、、その他77件でした。
EBUS-GSは、2010年度より本格的に導入し、すでに1300件以上の検査をこなしておりますが、常に80%以上の高い診断率を維持しております。EBUS-UTは外径3mmの極細径スコープを5次気管支以降まで挿入し、肺末梢病変を外径1.4mmのエコーで描出後に鉗子およびブラシで生検する検査法であり、全国に先駆けて2017年度より新規導入し、現在まで300件以上実施しました。従来の気管支鏡では到達が困難であった肺末梢の非常に小さな病変も診断可能となるケースが増えており大きな手応えを感じています。早期肺癌の内視鏡診断が得られれば低侵襲な手術を実施することが出来ますし、合併症等により根治手術が適応外となった場合でも定位放射線治療を実施することが可能となります。
進行肺癌においても呼吸器内視鏡は非常に重要な役割を果たしています。「がんゲノム医療時代」において遺伝子解析は必須であり、EBUS-GS/UT、EBUS-TBNA等で診断時に採取された腫瘍組織検体の凍結保存がより重要となってきました。当科においては呼吸器内視鏡検査で十分な検体を確保し、-80℃で冷凍保存しバンキングしていくシステムを以前より構築しており、稀少な遺伝子異常を検出する全国規模の診断ネットワークにも積極的に参加しています。EGFRのようなメジャー変異のみならず、ALK、RET、ROS1、BRAF、MET、HER2といった稀少な遺伝子異常を効率よく見つけ出し、適切な分子標的治療の導入を行う「プレシジョン・メディシン(精密医療)」を広く実践しています。
2021年度から新規に経気管支凍結生検法(クライオ生検:TBLC)を開始しました。クライオプローブという器具の先端を瞬時に冷却し、凍結された組織がプローブの先端部と強固に接着するため、プローブをそのまま引き抜くことで挫滅が少ない良質な検体を採取することができる最新の生検法になります。通常の生検鉗子で採取される検体サイズが0.5mm~2.0mm四方くらいである一方、クライオ生検では3.0~5.0mm四方くらいの非常に大きな検体を採取することが出来ます。間質性肺疾患など、びまん性肺疾患の診断において今後中心的な役割を担う検査法と位置づけられており、また悪性疾患においても網羅的な遺伝子解析に適した生検法であり、当院においても積極的に実施する方針としています。
文責: 小谷昌広