がんセンター
鳥取大学医学部附属病院がんセンターは、令和3年度より組織改組し、①化学療法部門、②緩和ケア部門、③がん教育部門、④がん相談支援部門、⑤がん診療連携部門、⑥がん登録部門の計6部門の集合体としてリニューアルした。
各部門の令和4年度の活動状況と今後の展望について報告する。
①化学療法部門
令和4年度の活動状況
1. 外来化学療法室
令和4年4月〜令和5年3月の1年間で、延べ8135件の治療を施行した。化学療法件数の総数および各診療科別の年次推移を以下に示す。
治療件数の増加に伴い、令和2年度より効率的なベッド運用のために前日採血による8:30〜10:00枠の活用を推進している。過去3年同時期の件数推移は以下の通りである。
末梢静脈のルート確保は主に看護師が行っており、医師の業務削減に貢献している。
2. irAE 対策チーム
irAE 対策チームにおいて定期的なカンファレンスを開催し、免疫チェックポイント阻害薬投与症例の確認、irAE の発症状況および適正なirAE 対応の評価を行っている。令和4年1 月〜12 月の1 年間で計23 回のカンファレンスを行った。この1年間で当院では、新規に153例の免疫チェックポイント阻害薬が導入され、95 件の中等症以上のirAE を認めた。非常に多彩でいつ起こるかわからない irAE を早期に発見し、迅速かつ適切に対応し、安全な治療を行うためirAE 対策マニュアルを作成している。令和5年3 月末には第2版を全職員へ配布を行った。
3. レジメン審査
レジメン審査ワーキングでは令和4年度48件のレジメン審査を行い、カテゴリーA(がんセンター枠)20件、カテゴリーB(診療科枠)7件、カテゴリーC(患者限定枠・未承認)7件、カテゴリーD(臨床試験)10件を承認した。
今後の展望
外来化学療法室のさらなる効率的運用を目指して、看護師によるCV ポート穿刺に向けた体制作りに取り組む予定である。またirAE対策チームの活動をより強固にし、当院だけにとどまらず地域拠点病院へirAE 対応の周知を図り、鳥取県全体のがん診療レベル向上を果たすことを目標とする。
②緩和ケア部門
令和4年度の活動状況
1. 緩和ケアチーム
緩和ケア認定医1名(常勤・専従)、緩和ケア専門医1名(非常勤)、身体担当医2名(消化器内科1名、呼吸器内科1名)、麻酔科医1名、精神担当医2名(精神科2名)と、がん看護専門看護師2名、緩和ケア認定看護師1名、薬剤師3名、MSW1名、歯科衛生士1名、管理栄養士3名、理学療法士2名で多職種による緩和ケアチームを構成している。カンファレンス・回診を週1回実施し、患者の苦痛を全人的苦痛としてあらゆる角度からアセスメントし、各専門的見解を以て患者の症状緩和に努めている。緩和ケアチーム紹介件数および依頼内容の年次推移を以下に示す。
2. 研修会、講演会開催
令和5年2月11日に緩和ケア研修会(PEACE 研修会)を開催し医師20名が研修を修了した。その他各種講演会を開催することで緩和ケアのレベルアップを図った。
3. 緩和ケアポケットマニュアル
緩和ケアポケットマニュアル2023年版を発行し、令和5年3月に全職員への配布を完了した。
今後の展望
令和3年9月より病棟担当看護師から緩和ケアチーム看護師への直接紹介を可とするなど積極的な働きかけにより、令和4年度は目標件数(120件/年)を大幅に上回る137件のチーム紹介を得ることが出来た。令和4年度から緩和ケア認定医・緩和ケア専門医による専門外来を新規に立ち上げており、今後もより強固な緩和ケア診療を推進していく方針である。
③がん教育部門
令和4年度の活動状況
1. がん薬物療法専門医育成
がん薬物療法専門医育成のためのプログラムを作成し、登録医を募集し、がんセンター内での研修を開始した。4名在籍のうち1名が令和4年度がん薬物療法専門医試験を受験し、病歴要約等の書類審査、筆記試験、面接試験を経て合格した。新専門医制度への対応を開始し、研修カリキュラム作成等準備中である。
2. 学生教育
医学科「臨床腫瘍学」計8コマ、生命科学科「基礎腫瘍学」計15コマの授業を、それぞれ5名、12名の教官で担当した。
3. がんセミナー
令和4年度は計4回開催した。(演題、講師は以下参照)
開催日 | 演題 | 診療科 | 講師 |
---|---|---|---|
6/29 | 「がん相談支援室」でできること 〜情報提供と相談支援について〜 |
がんセンター | 吉岡 奏 |
6/29 | 地域連携〜多職種連携して在宅緩和ケアにつながった一事例を通して考える〜 | がんセンター | 成相 好恵 |
10/12 | 腫瘍循環器診療〜基礎知識から学ぶ入門編〜 | 循環器内科 | 中村 研介 |
10/12 | 婦人科癌治療における合併症と対策 | 女性診療科 | 小松 宏彰 |
10/26 | 骨転移の診断と治療 -当院の現状をふまえて- | 整形外科 | 山家 健作 |
10/26 | 当院におけるがん患者リハビリテーション | リハビリテーション科 | 尾﨑 まり |
12/14 | がん患者の栄養管理 | 栄養管理部 | 牧山 嘉見 |
12/14 | がん薬物療法における薬剤師外来について | 薬剤部 | 秦 英司 |
4. 骨転移キャンサーボード
令和4年度は計11回開催し、各科の医師で治療方針について積極的なディスカッションを行った。
今後の展望
今後3年以内に計4名の「がん薬物療法専門医」育成を目標にしている。複数診療科の入院患者を担当する研修システムを構築し、専門医育成のための支援を継続している。
新専門医制度サブスペ「腫瘍内科専門医」を育成する取り組みも準備している。2年以上5年以内の専門研修で90症例以上を受け持ち、専攻医登録評価システム(J-OSLER Oncol.)に登録し、指導医からマンツーマン指導を受ける体制を構築中である。当がんセンターが鳥取県の基幹病院として専門研修管理委員会を設置し、研修サポート、終了判定を行う予定である。
学生教育、がんセミナー、骨転移キャンサーボードは今後も同様に継続予定である。
④がん相談支援部門
令和4年度の活動状況
患者支援のために、医療福祉支援センターと協力してがん相談を行っている。がん相談は、患者さんやご家族のほか、地域の方々は誰でも無料で利用でき、がんに関する治療や療養生活全般、地域の医療機関などについて相談することが可能である。
令和4年度の相談対応件数は1358件と年々増加傾向である。
相談内容は、「不安・精神的苦痛」「転院」「がんの治療」の相談が多く、この3つでおよそ半分を占めている。
また、がん相談部門ではがん患者サロン(さくらサロン)を運営し患者のサポートを行っている。2008年4月に開設され、令和4年度で開設15年目を迎えた。令和4年度は、オンラインさくらサロンを12回(月1回)開催した。また昨年に引き続き、さくらサロン通信「さくらだより」Vol.19〜Vol.22を発行した。さらに、患者さんから要望を受け、がん患者さん&ご家族の体験交流会「抗がん剤治療中の食事のこと」を開催した。
その他、特別企画として、6月から7月に昨年度発刊したさくらサロンの活動をまとめた冊子、つながりを力に『さくらサロンへようこそ』の発刊記念パネル展を開催した。また、3月に「AYA week 2023」期間中のAYA世代のがんに関する啓発ポスター展示を開催した。
⑤がん診療連携部門
令和4年度の活動状況
1.鳥取県がん診療連携協議会関係
- 鳥取県がん診療研修会 令和4年5月30日(月)
- 鳥取県がん診療連携協議会 令和4年11月28日(月)
2.市民公開講座、セミナー等
日 付 | テーマ | 対 象 | 参加者 |
---|---|---|---|
令和4年7月27日 | 放射線治療の現状と今後の展望 | 医療従事者 | 45名 |
令和4年9月24日 | ―未来の命を守るために―正しく知ろう!子宮がんの検診と予防 | 一般 | 70名 |
令和4年10月20日 | 切らずに治せる高精度放射線治療と放射線治療の三位一体について | 医療従事者 | 35名 |
令和5年1月21日 | 患者にとって最高のがん治療とは | 一般 | 189名 |
令和5年2月11日 | 緩和ケア研修会 | 医療従事者 | 20名 |
令和5年2月18日 | 進化を続けるがん医療〜がんと内視鏡について〜 | 一般 | 191名 |
令和5年3月11日 | 検診から治療まで知って欲しいすい臓がんのこと | 一般 | 295名 |
3.WEB診療カンファレンス(当院―鳥取県立中央病院間)
診療科 | 実施回数 |
---|---|
第一外科診療科群 | 7回 |
泌尿器科 | 7回 |
頭頸部診療科群 | 3回 |
放射線診療科 | 1回 |
今後の展望
次年度も鳥取県がん診療研修会を令和5年5月日に、鳥取県がん診療連携協議会を令和5年11月6日に開催する。市民公開講座を3回、市民向けの勉強会や医療従事者向けの研修会などを予定している。がんに関する情報の普及啓発に引き続き取り組んでいく。
⑥がん登録部門
令和4年度の活動状況
がん登録は、がんの罹患や転帰、進行度や治療内容などの状況を登録・分析する仕組みであり、がん罹患数・罹患率、がん生存率、治療効果など、がん対策の基礎となるデータを把握するために必要なものである。本院では、2007年に院内がん登録を開始し、2011年には鳥取県院内がん登録情報センターを開設した。現在、がん登録室(データセンター)では、4名の専任スタッフが情報の登録・管理・解析を行っている。令和4年度のがん登録状況を以下に示す。
今後の展望
今後も引き続き正確ながん登録を行っていくとともにがん登録情報の有効活用に努めていく。