精神科
令和4年度の精神科の活動状況を、入院診療、外来診療、精神科リエゾン診療、研究に分けて報告致します。
1.入院診療
大学病院としての高度医療を担うべく、当科病棟の中心的役割は単科精神科病院で対応困難な入院患者さんの診断・治療にあります。令和4年度の新規入院患者数は77人と前年度比で6人増加しました。令和2年度は3月から12月までCOVID-19の蔓延による施設改修に伴い病棟を閉鎖したため、新規入院患者数が大幅に減少しました(対前年度比89人減)。令和3年度は病棟を再開したものの、病床数が改修前から大幅に削減されたため、以前ほどの新規入院患者に対応できなくなっていますが、令和4年度は微増しました。主な疾患は、治療抵抗性を示す統合失調症や気分障害、体重減少が顕著な重症の神経性やせ症、発作または精神症状が顕著な症候性局在関連てんかん、発達障害の特性が関係する抑うつ状態や適応障害などです。また、身体合併症を併せもった精神科患者さんの入院治療も当病棟の重要な使命と認識しております。
従来の抗精神病薬では症状の改善が乏しい統合失調症の患者さんには、非定型抗精神病薬クロザピンの適応があります。令和4年度にクロザピンによる治療を新規導入した方はありませんでした。また、統合失調症やうつ病の昏迷状態等では緊急の治療的介入が求められます。そうした場合には、麻酔科との協働の下、修正型電気痙攣療法(mECT)を行っています。今年も、地域の連携病院からの御紹介例を含む3人の患者さんに実施し、多くの場合に著効を得ており、薬物療法が奏功しにくい方2人には退院後に維持mECTを実施しています。
また令和4年度からは反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)を中国地方で開始しました。新たなうつ病患者さんの治療選択肢が広がりました。
2.外来診療
令和4年度の外来の新規患者数は267人と前年度とほぼ同数で推移しています。課題としまして、病院・診療所の役割分担だけでなく、初診患者さんの診察待ち時間の長さなどの接遇上の問題があります。予診の効率化等の対策を考えて参ります。
疾患別では、今年度も、高齢者のうつ病、神経発達症の特性と関係する抑うつ状態や適応障害の患者さんの受診が多い傾向が続いています。特に、神経発達症の特性を持つ方においては、明確に診断基準を満たさない「閾値下特性」であっても、対人関係や学業・仕事に困難をもたらすため、適切な心理検査を行い、その結果に基づき必要な支援につながることに焦点を当てた診療を心掛けております。幸い、薬物療法が可能な認知機能の問題もありますので、担当医にご相談ください。
3.リエゾン診療
精神科リエゾンチームの立ち上げから6年が経過しました。看護師、精神保健福祉士、薬剤師、精神科医で構成される本チームは、身体科病棟に入院中の患者さんのこころの問題のケアを担当しております。せん妄や抑うつ状態などの精神疾患が合併すると入院期間が長引く等の影響が生じるため、迅速に対応して参りたいと考えております。
当科は、今後も精神科救急を含む地域の中核医療機関としてその診療やリハビリテーションに取り組んで参りたいと考えております。
令和4年度の主要発表論文
- Shirayama Y, Iwata M, Fujita Y, Oda Y and Hashimoto K. The Toll-like receptor 4 antagonist TAK-242 induces antidepressant-like effects in a rat learned helplessness model of depression through BDNF-TrkB signaling and AMPA receptor activation. Behav Brain Res. 2022; 423: 113769.
- Wahba NE, Nishizawa Y, Marra PS, Yamanashi T, Crutchley KJ, Nagao T, Shibata K, Nishiguchi T, Cho H, Howard MA, 3rd, Kawasaki H, Hefti M, Kanazawa T, et al. Genome-wide DNA methylation analysis of post-operative delirium with brain, blood, saliva, and buccal samples from neurosurgery patients. J Psychiatr Res. 2022; 156:245-251.
- Yamanashi T, Anderson ZE, Modukuri M, Chang G, Tran T, Marra PS, Wahba NE, Crutchley KJ, Sullivan EJ, Jellison SS, Comp KR, Akers CC, Meyer AA, et al. The potential benefit of metformin to reduce delirium risk and mortality: a retrospective cohort study. Aging (Albany N Y). 2022; 14(22):8927-8943.
- Yamanashi T, Crutchley KJ, Wahba NE, Nagao T, Marra PS, Akers CC, Sullivan EJ, Iwata M , Howard MA, 3rd, Cho HR, Kawasaki H, Hughes CG, Pandharipande PP, et al. The genome-wide DNA methylation profiles among neurosurgery patients with and without post-operative delirium. Psychiat1y Clin Neurosci. 2023; 77(1):48-55.
- Yoshioka D, Yamanashi T and Iwata M. Adequate diagnosis of the cause of Parkinsonism and treatment in an elderly patient with schizophrenia: A case report. Psychiat1y and Clinical Neurosciences Reports. 2023; 2(1):e71.
- 岩田正明
【精神科臨床と脳科学の距離は縮まったか?-最新研究の現場から】炎症を治療標的とした新しいうつ病治療法の開発の現状.精神科治療学. 2022; 37(11):1247-1253. - 岩田正明
【精神疾患診療】(第2部)さまざまな場面で遭遇する精神疾患 思春期から成人期によくみられる精神疾患 うつ病.日本医師会雑誌. 2022;151(特別2):S195-S197. - 岩田正明
Psychiatric Lecture 炎症を基盤としたうつ病 成因・危険因子.精神科臨床Legato. 2022;8(2):90-95. - 岩田正明
【臨床医が一度は考えてみたい治療終結のポイント】抗うつ薬の中止・休薬のエッセンスと最新のエビデンス. 精神科.2022;40(5):650-655. - 林皓章,岩田正明.
【精神科診療におけるたとえ話の効用】信頼関係構築のためのたとえ話.精神科治療学. 2022;37(7):751-753.
文責 岩田 正明