薬剤部

令和3 年度の薬剤部の人員体制は、教員2名、薬剤師GRM1名を含む薬剤師定員55名であり、前年度からの増員はなかった。4月1日時点では、教員1名(准教授 欠員)、薬剤師55名(新採用者5名を含む)、薬剤師以外の者として事務補佐員3名、技能補佐員(薬剤師の調剤業務補助者)7名の総勢65名であった。12月より准教授が着任した。

薬剤部では前年度同様に、調剤部門と病棟部門、臨床支援部門の横断的な業務体制を継続した。これにより、業務の効率化、職員の休暇取得を容易にするとともに各薬剤師の基本業務(調剤、混注、服薬指導、医薬品管理業務等)のスキル維持にも繋がっている。また、全員が基幹業務に携わることは、新型コロナウイルス感染拡大を含む災害時にも対応可能な体制と考える。

1. 医薬品管理業務、医薬品情報管理業務

令和3年度の本院採用医薬品については、新規採用21品目(代替削除21品目)、院外処方限定採用22品目であった。ジェネリック医薬品については、合計30品目(内服薬13品目,外用薬9品目,注射薬8品目)の切り替えを実施した。高額薬品を中心に切り替えを実施した結果、平成25年3月以降の後発医薬品切替による、令和3年度単年の増収効果(購入額差益-外来薬価減収)は約4憶4,768万円となり、令和2年度の増収額(約3億3,980万円)を大きく上回った。後発医薬品使⽤体制加算については、令和2年度に引き続き、加算1(後発医薬品使用割合85%以上)を申請することができている。その結果、約677万円(令和2年度約669万円)と前年同様の収入を得ることができた。次年度からは加算1の算定基準が使用割合85%以上から90%以上に引き上げになることから、ジェネリック切り替えを一層進めていく必要がある。ジェネリック医薬品への切り替えの際には、患者や医師・看護師などの混乱が最小限となるよう、システム上の設定、ならびに各種媒体を用い情報提供を行った。また、切り替えに伴う廃棄金額を抑えるために、各部門と連携を図り効率的な医薬品の切り替えに取り組んでいる。

薬事委員会では、有効性・安全性と経済性を総合的に評価し、令和元年度より医薬品の使用指針(フォーミュラリー)を作成している。令和3年度は整腸剤、尿酸生成抑制薬、経口消炎鎮痛薬、高カリウム血症治療薬、経口鉄剤、睡眠薬の計6種類について新たに作成するとともに、PPI・P-CAB内服薬について改訂を実施した。フォーミュラリーの作成およびその後の同種同効薬絞り込みによる医薬品購入費の削減効果は、年間約168万円と試算された。医薬品情報等の院内周知を目的とし、月1回配布する「DIニュース」に加え、医薬品適正使用の観点から製薬会社や公的機関(PMDA等)から得た情報提供は53件(前年度50件)と前年度と同程度であった。また、直接薬剤師が医局等に出向き、医薬品安全管理に関する研修を行っている。令和3年度は医師に対して延べ19回、看護師に対し延べ7回の出前研修を実施した。安心・安全な医薬品の適正使用には適正な情報が必要不可欠であり、今後も質の高い情報提供を推進する必要がある。

2. 病棟業務(病棟薬剤業務および薬剤管理指導業務)

当院では、平成27年度より集中治療領域を含む全病棟(22病棟)に薬剤師を配置し、病棟薬剤業務実施加算の算定を行っている。病棟薬剤業務により、ハイリスク薬投薬前の患者への説明、用法用量等の確認業務、医療安全を伴う医薬品の情報共有及び管理の質が向上している。さらに病棟への薬剤師常駐により、タイムリーな病棟スタッフとの情報共有の充実にも繋がっている。薬剤管理指導業務については、20,455件と前年度の19,419件を上回った。

また、薬剤部では医療安全の向上、医師の負担軽減を目的とし、病棟における処方仮登録業務へ積極的に介入している。入院処方に関しては、定期処方仮登録業務、および与薬カートの導入を1B 病棟にて開始後、3B、5A、7A、7B、6A、8A、8B病棟に対象を拡大してきた。また、持参薬仮登録業務に関しては、システム調整を行ないながら、令和元年3月から血液内科より開始した。システム改修が進み、令和2年4月から循環器内科を皮切りに、令和3年6月には全診療科を対象とした。持参薬鑑別件数は前年度(10,655件)と同等の10,811件であった。今後、病棟業務においても更なる医療安全の推進、医師の業務負担軽減に伴うタスクシフティングを進めていきたいと考えている。

また、地域における継続的な薬学的管理指導を支援するため、医療機関から保険薬局に対して、情報提供する『退院時薬剤情報連携加算』の令和3年度算定件数は239件(前年度17件)と大幅に増加した。今後も地域包括的な薬学的管理実践のため、さらなる連携強化を目指していきたいと考える。加えて、ポリファーマシー解消のため、入院時の内服薬の総合的な評価および見直し等を行うことで算定可能な『薬剤総合評価調整加算』は128件(前年度33件)、また本取り組みにより内服薬が2種類以上減少した際に算定可能な『薬剤調整加算』は27件(前年度7件)といずれも増加しており、医薬品の適正使用の推進に寄与している。

医薬品安全性情報報告(医薬品の使用によって発生した健康被害について、薬機法に基づき厚生労働大臣に報告する制度)は、令和3年度は13件(前年度6件)と薬物療法の発展と患者の利益に繋げる報告ができた。また、プレアボイド報告(薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的患者ケアを実践して副作用、相互作用、治療効果不十分などの患者の不利益を回避あるいは軽減した事例)については、令和3年度は333件(前年度177件)と大幅増となった。今後も薬学的患者ケアの実践のために、さらなる報告の推進をしていきたいと考えている。

3. 注射薬調製業務

平成26年から薬剤師が全ての抗がん薬の調製を全日行っている。令和3年度の調製件数は21,063件(外来11,869件、入院9,194件)と前年度21,289件(外来11,549件、入院9,740件)、休日の調製件数941件(前年度941件)といずれも前年と同程度であった。本業務により、抗がん薬の安全な調製が行えるだけでなく、医師・看護師の負担軽減や医療従事者の曝露防止にも貢献していると考える。また、当院では調製者の曝露防止を目的とした閉鎖式接続器具を利用している。令和3年度の閉鎖式器具使用実績は6,590件(前年度6,390件)と前年と同程度であった。また、抗がん薬の廃棄薬剤の減少を目的としたDVO(薬剤バイアルの最適化)システムを令和2年5月より導入しており、効率的な抗がん薬管理を行っている。令和3年度は対象薬剤に新たにアバスチン、トレアキシン、ゲムシタビンの3剤を追加したこともあり、調製件数は646件と前年の298件より倍増した。

さらにがん薬物療法に対し、薬剤部では抗がん薬の調製のみならず、レジメンの登録・審査にも関わっており、投与前のレジメンチェックや薬歴管理から投与前後の服薬指導(外来化学療法室でも実施)まで抗がん薬治療の一連の流れに対し、常に薬剤師が関わり、医療安全や薬物治療の適正化に貢献している。

また、高カロリー輸液(TPN)調製業務にも薬剤師が関与しており、重症病棟ではサテライトで調製し、一般病棟では全病棟の予定オーダーを製剤室にて調製している。調製件数は令和3年度2,749件(前年度2,272件)となっている。

4.薬物治療モニタリング

薬剤部では抗真菌薬のボリコナゾールと免疫抑制薬のミコフェノール酸の2剤の薬物血中濃度をLC/MS/MSにて測定している。令和3年11月より、新たにアミノグリコシド系抗菌薬のアミカシン及びトブラマイシンの血中濃度測定を開始したこともあり、令和3年度の測定件数は255件と前年度の210件に比べ増加した。また、測定値に関して、一般社団法人TDM品質管理機構が実施しているTDMコントロールサーベイ(外部精度管理)へ参加し、薬物血中濃度測定の品質保証体制の維持を行っている。これまで抗MRSA薬を中心に実施してきた血中濃度解析に、令和4年1月より医師の業務負担軽減や高度な移植医療の提供を目的に移植時の免疫抑制薬に対する血中濃度解析を開始し、解析ならびに処方設計件数は、令和3年度は1,265件と前年度の826件に比べ大幅に増加した。

5.調剤業務

令和3年度の調剤業務実績として、入院処方せん枚数146,797枚(前年度140,294枚)、予定注射薬セット件数315,036件(前年度297,070件)であった。入院注射業務は、全て一施用毎の払い出しとし、これまで予定注射薬のみを対象としてきたが、令和元年8月より、臨時注射薬業務の対象を拡大した(一部の重症系病棟を除く)。令和3年度の臨時注射薬セット供給件数は26,182件(前年度24,735件)であった。また、予定手術時に使用する薬剤のセット件数は13,181件(前年度13,058件)と前年度と同程度であった。

令和2年11月より薬剤部では全自動PTPシート払い出し装置(搭載医薬品数:347品目)、散薬調剤ロボット(搭載医薬品数:30品目搭載)を導入し、調剤業務をおこなっている。このことから薬剤部全体の業務効率化、調剤業務における医療安全のさらなる向上が期待される。

医薬分業、地域連携のさらなる強化を目的とし、前年度に引き続き積極的に外来患者に対する院外処方せん発行を推進した。その結果、月当たりの院外発行率は平均95.3%(前年度95.3%)と発行率を維持することができた。また、外来院内処方せん枚数は7,029枚(前年度6,945枚)と増加した。令和3年2月より、ジェネリック医薬品の使用推進や保険薬局の在庫負担軽減等を目的として処方頻度の高い28品目を対象に院外処方せんの一般名処方を開始した(令和3年度実績 一般名処方加算1:64件、加算2:2,461件)。今後、対象医薬品の拡大を図る予定である。

また、疑義照会について、平成29年度より特定の項目においてプロトコルに基づく疑義照会の簡略化と、処方変更時の薬剤師による処方修正を開始し、医師の外来業務の負担軽減に大きく寄与している。令和3年11月よりプロトコル適用範囲を拡大したことで、令和3年度のプロトコル対応135件/月(前年度88件/月)、薬剤師による処方修正も255件/月(前年度178件/月)と増加した。これまで、薬剤師による疑義照会支援については院外処方を対象に実施してきたが、今後は入院処方を含む院内処方に拡大を図る予定である。

6.診療支援外来

平成27年6月より、医師の業務負担軽減や患者のQOL向上を目的とした、薬剤師による「診療支援外来」を開始した。術後補助化学療法の患者を対象に、医師の診察前に薬剤師が面談し、「副作用モニタリング」や「プロトコルに基づいた仮処方入力」等を行っている。当初は乳腺内分泌外科のみであったが、平成28年度に泌尿器科、平成30年度には消化器内科の分子標的薬服用患者に対象を拡大している。令和3年度の患者指導件数は641件(昨年度523件)であった。

また、平成30年度より算定開始となったサリドマイド及びその誘導体が処方された患者に対する特定薬剤治療管理料2の取得実績は207件(昨年度245件)であった。病院薬剤師が病棟だけではなく、外来診療にも積極的に介入している。

7.地域連携

鳥取県西部地域の病院薬剤師と保険薬局薬剤師の会合を当院薬剤部にて毎月開催し、院外処方に関する様々な問題点について議論を交わし、相互連携に努めている。新型コロナウイルスの影響により、昨年度より集合会合を取りやめOn line会議へ移行し、継続開催している。このような状況において、近年大きな問題となっている製薬会社からの出荷調整や自主回収依頼に伴う病院、薬局間の処方・在庫調整に関して、本会合を中心に卸業者も交え情報共有の徹底、運用の再確認などを行い、地域において卸業者、病院、薬局間でスムーズに連携を図れるよう対応した。また、電話診察やOn line診察への対応について適宜情報共有を行い、外来診療に影響しないよう、地域の医療機関、薬局が一丸となって取り組んでいる。さらに、入院から外来診療において、シームレスかつ安全で有効的な薬物療法を提供する目的で、平成28年9月より院外処方せんへの医師と保険薬局薬剤師の連絡欄の掲載を開始した。薬局薬剤師の勉強会や役員会等で当院薬剤師が説明を行い、積極的な活用を依頼した。その結果、令和3年度の活用実績は257件と前年度(154件)より増加した。次年度以降も薬局薬剤師とさらなる連携強化に努めていきたいと考える。

その他、令和2年度に新設された、質の高い外来がん化学療法を目的とした「連携充実加算」の算定も開始した。令和3年度は848件(前年度569件)を算定し、地域の医療機関、薬局と連携を図り、より安全ながん化学療法の実施に取り組んでいる。

8.教育及び研究

令和3年度に受け入れた薬学部実務実習生は6名だった(前年度3名)。実習カリキュラムの一環として、地域における急性期から慢性期までのシームレスな薬剤師の加入を体験することを目的とし、日野病院へ実習生を派遣している。このように地域施設と連携することで、地域包括医療の一端を実習カリキュラムに取り入れ、地域連携について学べる環境を作っている。

部内教育体制として実践的なキャリアアップ体制の構築を目指し、部署リーダー制を導入し、若い薬剤師が積極的に業務マネジメントへ介入できる体制を構築している。また、管理者育成においても、幅広い視野を持った業務マネジメント能力が身に着けられるよう、部署横断的な課題解決型のワーキングリーダー制を導入し、新たな課題に対しての対策提案を積極的に行える環境を提供している。 学術教育体制については、前年度に見直しを行った新たな臨床研究管理体制の下、学会発表2演題、シンポジウム1演題を発表し、原著論文2編、総説1編を報告した。また、科研費採択1件、院内講演1件であった。

薬剤師認定制度の有資格者として、令和3年度末時点で、当院薬剤部には日病薬病院薬学認定 薬剤師11名、日本医療薬学会認定 医療薬学専門薬剤師3名、日本医療薬学会認定 がん専門薬剤師3名、日本医療薬学会認定 がん指導薬剤師1名、日本病院薬剤師会認定 感染制御認定薬剤師1名、日本病院薬剤師会認定 妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師1名、日本薬剤師研修センター認定 小児薬物療法認定薬剤師2名、日本糖尿病療養指導士認定機構認定 糖尿病療養指導士5名をはじめとする、多数の有資格者が在籍している。また、未取得者が取得を目指しやすくするために、各種専門グループ制を導入し、様々な専門資格について組織的かつ計画的に取得することを進めている。

9.地域薬剤師不足に対する人的支援

鳥取県西部地域および島根県東部地域の薬剤師不足は深刻であり、現在までに、日野病院、山陰労災病院、安来市立病院、安来第一病院、済生会境港総合病院より薬剤師不足解消のための派遣要望が当院にあった。令和2年度からは日野病院へ週1回の兼業として1名の薬剤師派遣を開始している。今後も地域基幹病院の薬剤部として薬剤師不足に対し、可能な限り人的支援を含めた支援体制の構築を目指す予定である。

10.新型コロナウイルス対応

令和2年1月に国内で初の新型コロナウイルス感染患者が確認されてから、徐々に国内に感染が広がり、鳥取県においても令和2年4月に初めての感染者が確認された。以降、県内各医療施設で感染者への対応が始まり、当院においても受け入れが開始された。薬剤部においては、未承認治療薬の使用に関する体制の確立や感染患者の受け入れ(入院、手術、検査等)に対する医薬品管理対応、外来患者に対する電話再診体制確立に関与した。また、臨時入院病床に重症患者を受け入れる際には、管理薬剤を含む医薬品管理体制の構築や薬剤師による特殊薬(新型コロナウイルス治療薬、麻薬、筋弛緩薬等)の混注業務等の役割を担った。これらの日々状況が変化していく中、混乱する院内への支援を状況に応じて迅速に対応した。現在も感染状況に応じた臨機応変な部内体制を継続している。

(椎木 芳和)