脳神経外科

脳神経外科の主な対象疾患は、脳腫瘍(良性、悪性、間脳下垂体腫瘍)、脳血管障害(脳出血、脳梗塞、くも膜下出血、もやもや病)、頭部外傷、脊髄脊椎疾患である。加えて、痙性麻痺、難治性てんかん、不随意運動、三叉神経痛、顔面痙攣などのいわゆる機能的脳神経外科疾患に対する治療も積極的に行っている。

医療圏は、鳥取県のみならず、島根県東部、岡山県北部、兵庫県北部にわたり、他院で治療困難な紹介患者を受け入れている。主に鳥取県西部の救急医療に関して、1次から3次救急の患者を、救急科の協力のもと、ドクターヘリやドクターカーで積極的に受け入れている。

スタッフは、日本脳神経外科学会専門医を中心として、日本脳神経血管内治療学会専門医/指導医、日本脳卒中学会専門医、日本がん治療認定医、日本内分泌学会内分泌代謝科指導医、日本小児脳神経外科認定医などが在籍しており、週3回のカンファレンスで決定された治療方針に基づいたチーム医療を行っている。

外来部門

外来患者は1日20-50人程度、初診、再診ともに毎日受診可能である。専門外来では、術後の患者さんの良好なQOLを目的とした長期経過観察および指導を行っている。救急患者に関しては、救急科および脳神経内科と協力し、24時間365日受け入れを行っている。

専門外来は以下の通りである。

月曜日:
脊髄脊椎(第2 宇野哲史、第4 非常勤医師 赤塚啓一)
火曜日:
血管内治療(坂本誠)
水曜日:
小児脳神経(第4 非常勤医師 吉岡裕樹)
木曜日:
脳腫瘍(神部敦司)、機能的脳神経(第1・3 非常勤医師 近藤慎二)、血管内治療(第1・3・5 坂本誠)
金曜日:
下垂体・頭蓋底(黒﨑雅道)

入院部門

病院内で規定された当診療科病床数は約20床(変動あり)で、手術を目的とする患者の入院が主体である。令和3年度に施行された総手術件数は372件であった。手術の内訳は下記の一覧のとおりである。

脳動脈瘤の治療に関しては、治療対象の動脈瘤に合わせて、開頭クリッピング術か脳血管内手術かを検討し、治療選択するようにしている。ステント併用コイル塞栓術は中国・四国地方でもトップクラスの症例数があり、新規デバイスである血流改変ステントを用いた治療も始まり,これまで開頭手術では治療困難な動脈瘤に対しても積極的に治療を行っている。治療の低侵襲化に伴い、入院期間短縮と治療成績向上が得られている。

また、急性期脳梗塞に関しても、救急科や脳神経内科との共同診療を行い、rt-PA静注療法に加え、急性期血栓回収療法により、これまで成しえなかった患者予後の改善が得られている。さらに、院内に多職種連携による脳卒中チームを立ち上げ、治療成績向上による患者予後改善に努めている。

小児・成人例のもやもや病や閉塞性動脈硬化性疾患に対するバイパス術も行っており、良好な成績を得ている。

脳腫瘍手術も年間60-70件と、中国・四国地方でトップクラスの症例数がある。なかでも間脳下垂体腫瘍に対する経鼻的手術は、症例数・手術成績が評価され、日本間脳下垂体腫瘍学会に、経蝶形骨下垂体手術見学実習可能施設として推奨されている(全国で25施設)。 現在,国内では限られた施設でしか行われていない、耳鼻咽喉科との合同による内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術を行っており、より低侵襲な手術が可能となっている。

悪性脳腫瘍に関しては、手術用ナビゲーションシステムを導入し、覚醒下手術を含む術中脳機能モニタリングを駆使した最先端の手術を行っている。また、術後に放射線治療、化学療法を含めた集学的治療まで一貫して行うことで、患者さんの生命予後の改善が得られている。近年は、光線力学療法(レーザー光を照射して化学反応を引き起こし、腫瘍細胞を変性させる治療法)や交流電場療法(電場の力で細胞分裂を阻害し、腫瘍細胞が死滅するよう作用)など、新たな治療法も取り入れ、さらなる予後改善を目指している。

開頭術に関しては、低侵襲な治療を考え、患者さんの手術創をできるだけ最小限にし、外からは目立ちにくい開頭範囲も小さくしたいわゆる鍵穴手術を行っている。対象としては、三叉神経痛、顔面けいれんに対する微小血管減圧術(神経減圧術)や、高血圧性脳内出血に対する内視鏡下血腫除去術を行っており、術後成績も良好で患者さんの満足度も高くなっている。

地域医療

医療圏内の各病院には、脳神経疾患で対応困難な場合には当院へ紹介をしていただいている。また、24時間体制での脳神経外科救急患者への対応は、救急科および脳神経内科の多大なる協力のもと行っている。ドクターヘリを含む高次救急体制の集約化にともない、今後より充実した受け入れ態勢の構築は責務と考え対応している。

また2ヶ月に1回程度、関連施設の脳神経外科医と症例検討会を行い、当該地域の脳神経外科疾患の診断および治療成績向上を図っている。

今後の展望

  • 治療困難動脈瘤に対する血流改変ステントとコイル塞栓術の併用による治療成績の向上
  • 急性期脳梗塞に対する院内体制強化および経皮的血栓回収術の技術向上
  • 脳機能画像のMRIおよびCTでの描出とその手術利用
  • 覚醒下手術による機能温存下での最大限の脳腫瘍摘出手術
  • 間脳下垂体腫瘍をはじめとする内視鏡下低侵襲手術
  • 悪性脳腫瘍に対する個別化集学的治療
  • 外視鏡など新たな手術機器の導入による低侵襲治療

年間疾患別手術件数

2021年度の1年間で372件

件数
脳腫瘍 67 開頭腫瘍摘出術 41
経蝶形骨洞手術 17
脳腫瘍生検 3
栄養血管塞栓術 6
脳血管障害161 未破裂脳動脈瘤 36(血管内手術33、開頭術3)
破裂脳動脈瘤 24(血管内手術14、開頭術10)
脳内出血 15(内視鏡3、開頭12)
脳動静脈奇形,海綿状血管腫 6(血管内手術3、開頭術3)
硬膜動静脈瘻 4(頭蓋内3、脊髄1)
主幹動脈狭窄・閉塞 29 (EC-ICバイパス術14、頭蓋内/外ステント留置3、CEA 0、CAS 12)
血栓回収術 47
頭部外傷 70 急性硬膜下/外血腫 12
慢性硬膜下血腫 58
水頭症 36 シャント術 23
脳室ドレナージ術 12
リザーバー留置術 1
ETV 0
頭蓋骨腫瘍 1
脊髄脊椎 5(うち小児1)
機能的 6 脳神経減圧術 6
ITB 0
その他 26

(文責: 宇野哲史)