歯科口腔外科

当科は口腔、顎、顔面、頸部に発生する種々の疾患を対象とし、外科のみならず口腔全般にわたる、いわゆる「口腔科」として診療しています。具体的な疾患としては、歯の疾患はもとより、口唇・口蓋裂などをはじめとした先天異常、口腔悪性腫瘍、顎顔面外傷、顎変形症、顎骨腫瘍および嚢胞、口腔粘膜疾患、感染症・炎症、唾液腺疾患、顎関節疾患、神経性疾患、歯科心身症、歯牙・義歯関連の疾患など多岐にわたります。

口唇・口蓋裂は外表奇形として最も高頻度に認められる疾患で、日本人は約1/500人の頻度で発症します。当科で加療した口唇・口蓋裂患者は昭和42年の当科開設以来、令和2年までに約820例に達しています。口唇・口蓋裂では、2014年よりPNAM(術前鼻歯槽矯正)治療を開始し、早期より鼻・口唇および顎の形態を整えてから手術を行い、これによって術後により良い鼻・口唇および顎の形態が獲得できるようになっています。体重増加や歯の萌出程度をみながら口蓋閉鎖術を行った後、小児に特化した言語聴覚士による言語発達の評価と言語訓練を行います。また口唇・口蓋裂患者は上顎劣成長による咬合不全や審美障害をきたすことが多いため、矯正専門医による歯列・顎矯正も行っています。このように一貫した治療を行えることが当院の大きな特徴です。

近年顎変形症患者に対する顎矯正(上顎および下顎の外科的治療を含む矯正)は増加傾向にあります。当院は自立支援法顎機能診断施設基準の届出医療機関であり、保険診療で顎矯正治療が行えます。また顎矯正と連携した外科矯正(骨切り術)を行っており、顎顔面の機能的、審美的な回復に努めています。

口腔がんの治療に関しては、口腔癌診療ガイドラインに基づいた標準的治療を行っています。術後は経口摂取(固形物摂取)を目指し,口腔内全体の管理を行っています。機能温存が困難な場合でも、遊離皮弁や顎補綴、インプラントやエピテーゼを用いることで、機能および整容的な回復に努めています。
また当科では口腔がん患者様のみならず,骨髄炎や外傷等による広範囲の顎骨欠損患者様に対しても、骨移植および再建後のインプラント義歯の作製を行っています。

齲蝕や歯周炎による歯の欠損に対しては、ブリッジや義歯による補綴以外に、社会的ニーズの高まりとともにデンタルインプラントも私費診療で行っています。近年インプラントによる咬合回復は一般的となってきましたが、おとがい部の知覚異常や、上顎インプラント埋入による上顎洞炎などの問題も増えています。当科では歯科用CTを用いて顎骨内の重要な神経の走行や上顎洞の形態を把握し,安全に手術を行うことができます。

現代はストレス社会であることから、生活習慣病である顎関節症も増加しています。当科では顎関節疾患に対してまず薬物療法や理学療法を行い、場合によってはスプリント療法なども行っています。また超高齢化社会となり,顎関節脱臼も増加してみられます。習慣的に顎関節脱臼をきたす場合には,自己血を顎関節腔に入れる自己血注入療法なども行っています。

最後に、当科は歯科衛生士を中心に、入院患者様(糖尿病、心・血管疾患、化学療法・化学放射線療法、嚥下障害や人工呼吸器管理中,などの患者様)の口腔ケアを医師・看護師などの多職種との連携の下に積極的に行っております。口腔ケアを行うことで口腔由来の合併症を予防し、入院患者様の早期退院に貢献しています。

このように当科の果たすべき役割は幅広く,今後さらに重要になると考えています。

土井理恵子