看護部
1.看護部目標
「そばにいて気づき、行動し、さらに期待に応える看護の実践」
看護部では「そばにいる看護」の看護体制を定着させ、特定機能病院の役割である、高度な医療の提供に対応できる看護師を育成するために、看護師が患者の重症化の兆候を見逃さない観察力とアセスメント能力を習得し、医師へ適切な報告と対応ができるように看護師の観察力とアセスメント能力の向上に取り組んだ。さらに高齢者や認知症・せん妄などの患者の看護を充実のために多職種連携によるせん妄予防ケア、認知症ケア加算取得、高齢者の嚥下機能低下やフレイルなどの問題による摂食機能の適切なアセスメントと摂食リハビリテーションを推進した。また外来からのIC同席を推進し、当院看護部の特徴である「病棟外来一元化」を有効活用した外来継続看護を充実させ、地域関係者を含めた意思決定支援のプロセスの質向上に取り組んだ。
1)教育・人材育成
鳥取大学医学部附属病院版の「看護師のクリニカルラダー及び「看護管理者ラダー」を運用し、看護実践能力及び看護管理能力の向上に努めている。また、看護部目標の達成に向けた研修や、管理者育成を目指した研修を開催している。研修受講や学会などで役割発揮したものに対しては、評価点数を算定している。さらに、コロナ禍の令和2年度は、学会及び研修会はweb開催がほとんどであったため、web対応できる環境を整えた。
2)看護実践
患者の心身の状況をタイムリーにキャッチして対応するとともに、あらゆる場面で患者の思いを引き出し支援することができるように、患者さんの「そばにいる看護」を実践する体制整備に取り組んでいる。各病棟で、作業環境の整備・業務配分の工夫・残務調整等を行うために、様々なツールの活用を推進している。患者のそばにいることで患者の変化にいち早く対応し、インシデント回避、患者のニーズを察知しすぐ対応できる等の成果に繋がっている。 「そばにいる看護」の実践のため、取り組みを継続し、患者の「そばにいる看護」を定着させることで、安全・安心な質の高い看護サービスの提供に繋げていく。
3)意思決定支援
患者・家族の意思決定を支える看護師の役割は重要である。看護師が、患者・家族の意思決定のプロセスについて理解し、継続的な支援を行うための体制づくりや、看護記録の充実に取り組んでいる。今後もさらに、患者・家族の意思決定に看護師が関わり、外来~入院~地域へとつないでいくことができるよう努めている。
4)患者・家族満足度
これまで、患者満足度調査は、看護部と病院委員会で別々に実施していた。調査の効率化を図り、課題を共通認識するために合同で行う体制に変更した。それに伴い、満足度調査項目の見直しを行った。調査項目を整理し、病院の環境に関すること、医療・看護の質に関することの2本柱とし、外来と病棟それぞれで調査を実施した。具体的な項目とともに、10段階での総合評価の項目を設けた。入院患者対象の結果は、環境が8.3、医療の質が8.9であり、外来患者対象の結果は、環境が7.6、医療の質が8.7であった。看護部における課題を抽出するとともに、次年度以降も調査を継続し、患者サービスの改善を図る。
5)職務満足度
看護職員全員を対象にメンタルヘルス改善意識調査(MIRROR)を用い職務満足度調査を実施した。職務満足度(改善不要割合)は、令和元年度は平成30年度より2.7%低下し、過去5年間で最も低い結果であったが、令和2年度は2%アップし64.6%であった。令和元年度と比較し、改善不要割合が上昇した項目は45項目中34項目であった。年休5日取得義務化やノー残業デーの取り組み等により残業や休暇取得に関する項目は改善がみられた。ぜひ改善が必要の回答が上昇したのは、45項目中8項目であり、昨年度の15項目より減少した。昨年度より最も上昇したのは、「8.職場では誰でも自由に意見や考えを述べることができる」であった。対人関係の項目が低下してきており、対応が必要である。
6)医療安全
確認行動の徹底の推進として、「確認行動の匠」の認知度アップに各病棟の実践をまとめて提示した。さらに目標管理でモチベーションアップに取り組んだ。今年度匠の育成は84名、総数は197名となった。その結果、インシデント数は前年度より144件減少、そのうち内服インシデントは50件減少、患者誤認は17件減少した。看護職1人あたりの平均インシデント数としては0.23件で変化はなかった。
薬剤では、ハイリスク薬に注意を集中出来る環境として、同時交差ダブルチェックを導入した。その代わりハイリスク薬以外でも平均4.5回と複数回の点検をしていた。薬剤部で点検された薬剤に関してはミキシング直前の1回のみに削減することとした。
転倒転落予防では、病状変化「豆に任せねば」を浸透させるため、インシデントレポートの内容に追加記入をし、発生頻度の高い病状変化の項目を提示した。転倒転落予防チームと協働した結果、患者影響度レベル3b以上の件数が10件から6件に減少することができた。
今後も薬剤、転倒転落、チューブ・ドレーン、患者誤認の予防対策を実践し、患者影響度レベル3b以上のインシデント割合の減少を図っていく。
7)感染対策
世界的な規模での新型コロナウイルス感染症による緊急事態が発生した。多くの感染者が発生し、重点医療機関に指定されている当院においても令和2年4月に第1例目を受け入れることとなった。特に重症患者の受け入れやPCR検査の実施など県や地域と協力しながら感染対策に対応してきた。精神科病棟に24床の軽症用の感染症病床を改築し準備を行い、精神科看護師と応援看護師とでコロナチームを立ち上げ看護体制を整備した。重症患者には、感染症病床2床と病棟4階Bをコロナ病棟とし対応した。3月末までには重症患者5名を含む45名の患者を受け入れることができた。
対応する中で自らが感染するかもしれない不安や恐怖を軽減するためにも感染制御部指定の研修を受講したスタッフが対応することとした。さらに、対応スタッフ全員のメンタルサポートに公認心理士の面談の実施、不安やもやもやした気持ちを持ち帰らないよう語りの時間を設定した。幸いにも職員からの感染者やメンタル不調者の発生には至らなかった。終わりの見えない状況のなかさらに医療スタッフが協力して「コロナに負けないチーム医療」を推進する。
2.看護部の主な取り組み
1)入院前からのフレイル予防に向けた取り組み
近年、健康寿命の延伸のためフレイル予防の取り組みが重要となっている。そこで、医療福祉支援センターでは、入院前の患者のフレイル状態を把握し、入院後の筋力低下を極力軽減するために、身体の弱りに対し指導を行う取り組みを開始した。
「基本チェックリスト」を用いて患者のフレイル状況を把握し、「フレイル予防」の啓発活動を推進している。
2)自部署の人的資源を豊かにする多様な研修
看護部には、多様な人材育成のシステムとして、新人のローテーション業務、3AD・3B・3CEフロア間の人事交流、4A・4BDフロア間のリリーフ研修、専門性の高い看護を自病棟に持ち帰るための短期人事交流(ローテーション・ジャーニー)、キャッチ&リリース研修、院内他部署研修がある。
令和2年度の主な研修の実績は、他部署研修は13件、キャッチ&リリース研修は258件であった。短期人事交流(ローテーション/ジャーニー)は22件であった。次年度以降も、看護師の実践能力向上に向け、多様な研修を支援していきたい。
<言葉の定義:キャッチ&リリース研修=自部署の人材をアセスメントし、人的資源を有効にするために、他病棟への研修を勤務計画の段階で計画し実践する院内研修>3)看護部経営・質評価会議の運営による看護の質向上への取り組み
看護部では毎年インジケータ―を決定し、データを把握し分析することで病院経営への貢献、看護の質向上に繋がる取り組みを行っている。
看護師が診療報酬について理解を深め、役割発揮することで算定に繋げることができるよう体制づくりを行い成果に繋げることができた。また、診療報酬を算定することで看護の質を担保することに繋がった。
4)RRSチームの活動
RRS( Rapid Response System)とは、『患者の状態が通常と異なる場合に、現場の定められた基準に基づき、直接専門チームに連絡し早期に介入・治療を行うことで、ショックや心停止といった致死性の高い急変に至ることを防ぐシステム』である。RRS要請件数は175件で、前年度の124件に対し51件増加し、活動が定着した。
5)身体拘束に頼らない看護へのチャレンジ
身体拘束ゼロに向けた取り組みを始め、3か年計画の3年目を迎えた。師長検討会、看護サービス委員会、倫理委員会、医療安全管理部が協働し、各部署において身体拘束が最小限に抑えられるよう取り組んだ。しかし、拘束をしない看護を実践する過程で生じた問題やジレンマ等が発生し、看護部としての取り組みだけではなく、医師を始め、多職種も巻き込んだ活動に発展させていくことが必要であると考えた。患者の尊厳を大切にしている看護部の取り組みを紹介し、医師・薬剤師・リハビリセラピストにアンケート調査をすることで、それぞれの役割を発揮し協力したいと活動への理解を得ることができた。今後も日々の困りごとを相談しながら、病院職員全員で患者の安全と尊厳を大切にした医療の提供に取り組んでいく。
6)働きやすさへの取り組み
これまでに経験したことのない新型コロナウイルス感染症の発生によって、4月に初めて入院患者を収容することとなった。当院スタッフにとっては、感染への不安や恐怖を抱えての就業、応援業務による業務負担が増え、また過度な情報に翻弄される1年となった。看護部ではメンタル不調に陥らないように、これまでもスタッフの変化に早く気づき、速やかに対応を行い、メンタルヘルスシステム・フロー(鳥大看護部)に則ってサポートしてきた。今年度、公認心理師である大羽先生をはじめWLB支援センターと連携を図り、これまでの新採用者の定期的な面談、不調者への関わりはもちろん、重大インシデント発生時、暴言暴力を受けた当事者は速やかに誰もが面談をうけ、早い段階からメンタル・フォローできるよう、専門家と協働し強化する仕組み作りに取り組んできた。さらに今年度は、新型コロナウイルス感染症病棟での勤務者全員に公認心理士の協力を得て面談を実施、メンタル不調者の発生を防ぐことができた。
7)キャリアアップ支援
院内研修は93研修を開催し、延べ5437名が受講した。看護部の目標達成に向け企画しており各部署の取り組みへ繋がる研修となった。
認定看護師・専門看護師等によるコース研修は、19コース研修で、参加者延べ人数は2249名であり専門的な知識・技術の習得に努めた。また、看護管理者研修としては、マネジメント研修1、マネジメント研修2、副看護師長研修、看護師長研修を開催し、全113名が受講した。
さらに、学会などの参加者は、全国学会79名、地方学会35名、研修会145名であった。院外発表者数は32名であった。令和2年度はコロナ禍にあり、ほとんどがwebでの参加であった。今後も計画的な人材育成を目的とした院外研修参加・看護研究発表を推進していく。
8)特定看護師の育成と活動による新たな活動
特定行為研修終了者は10名であり、呼吸器(気道確保に係るもの)関連・呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連・血糖コントロールに係る薬物投与関連・循環動態に係る薬剤投与関連・動脈血液ガス分析関連・術後疼痛管理関連・創傷管理関連の7区分での実践が可能となっている。今後も引き続き特定行為研修修了者が高い看護の専門性を発揮した活動が展開できるよう体制を整えていく必要がある。
9)自宅訪問・他施設訪問
患者が退院後も住み慣れた自宅で暮らせるよう、地域と連携し退院支援を行っている。
退院前または後に自宅訪問を行い、自宅環境の確認や患者の生活状況を確認する事で、より効果的な支援が行えるよう努めている。自宅訪問した患者数は41名であった。また、転院先施設職員へのスムーズな情報伝達に向けた他施設訪問件数は16件であった。コロナ禍であり、前年度に比べ件数は減少した。今後も継続した退院支援を実施するとともに、入院前から情報収集を行い必要な患者への退院支援を推進していく。
10)ものづくりWG活動
企業、新規医療研究推進センターと協同し、ものづくりに取り組んでいる。鳥取県での「ものづくり活動」を広めるために、鳥取県東部の病院を訪問し、これまでの活動を紹介した。現在は、認定看護師から相談を受け、酸素チューブから皮膚を保護するツールの開発に取り組んでいる。1回/月のペースでWGを行い、現場で「あったらいいな」という製品開発に取り組んでいく。