遺伝子診療科

遺伝子診療科では、遺伝に関する不安や心配を感じておられる方、遺伝性の病気や症状をもつ患者さんやそのご家族に対して遺伝カウンセリングを行っています。担当は、臨床遺伝専門医(3名)と認定遺伝カウンセラー(2名)が中心となり、必要に応じて他診療科の臨床遺伝専門医や各診療科の主治医が加わったチームで対応しています。

平成30年度に保険適用の遺伝学的検査が全て実施できる体制を整え、令和2年度には173件の遺伝学的検査を実施しました。

令和2年度は、週12枠、各60~90分で、393件(初診209件/再診184件)の遺伝カウンセリングを実施しました(昨年度比144件増)。来談者は山陰に居住されている方がほとんどですが、鳥取、島根両県を除く中国、近畿地方にお住いの方もおり、全国から来られています。従来、当院では小児領域の疾患に対する遺伝カウンセリングの割合が多かったのですが、最近では遺伝性腫瘍、周産期領域の遺伝カウンセリング数が増加しており、令和2年度はこれら2つの領域の遺伝カウンセリング件数が全体の5割以上を占めました。

現在、本邦におけるがんゲノム医療推進の認識が広がる中、当院でもより充実した体制で対応していく必要があることから、関連する診療科と協力し、遺伝性腫瘍患者の拾い上げとフォローアップのための連携体制を構築しています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)診療にあたっては女性診療科、乳腺外科、泌尿器科、消化器内科、消化器外科医師、看護師と連携し、平成29年2月から毎月HBOC診療ミーティングを行い、HBOC診療にあたっています。平成30年度に再発・転移性乳がん、令和元年に進行卵巣がん、令和2年に去勢抵抗性前立腺がん、および治癒切除不能な膵癌におけるBRCAコンパニオン診断が保険診療となり、当院では検査前後の遺伝カウンセリングを当科で実施しています(令和2年度103件)。また、一般社団法人日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構の施設認定である「遺伝性乳癌卵巣癌総合診療連携施設」に認定されており、データ登録研究に参加しています。昨年度は96件の登録を行いました。

「新型出生前診断(NIPT)」は全国で臨床研究として実施されており「母体血中cell-free DNA胎児染色体検査」とも呼ばれています。本検査を行うためには、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが検査前後に適切な遺伝カウンセリングを提供できること、そして日本医学会の認可を受けている必要があります。日本医学会の認可を得て、「母体血中cell-free DNA を用いた無侵襲的出生前遺伝学的検査の臨床研究(代表;NIPTコンソーシアム)」を平成26年3月から実施しています (令和2年度31件)。

平成28年度から日本医療研究開発機構(AMED)が主導で行っている、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の山陰唯一の拠点病院として、未診断疾患症例に対する医療体制構築研究に携わっています。具体的には、院内外から未診断症例の紹介を受け、遺伝カウンセリングの上、同意が得られた家系の検体を解析センターへ送っています(令和2年度15家系41人)。また、遺伝子診療科が中心となり院内23診療科の委員からなるIRUD診断委員会を組織し、症例の適応の可否の検討や情報共有などを行っています。

遺伝子解析技術、遺伝医療の進歩により、ゲノム医療の推進が様々な分野で急速に進められています。疾患の原因が遺伝子レベルで解明されるようになってきており、遺伝カウンセリングのニーズは今後も増加すると考えられます。遺伝子診療科の受診者数は2009年の開設以来毎年増加傾向にあります。最新の情報、医療を確実に提供するのみならず、今後も地域の皆様のニーズにお応えしながら、ご相談に対して細やかな対応ができるよう、遺伝子診療科一同、真摯に取り組んでまいります。