形成外科
昨年度の主な活動状況と今後の展望
形成外科は、熱傷、悪性腫瘍切除後の再建、外傷、瘢痕拘縮、難治性潰瘍、褥瘡、先天奇形、良性腫瘍などの種々の組織欠損や醜状変形を対象として、整容的あるいは機能的な観点に基づいて治療する外科系分野の一つです。当科は平成15年4月1日の開設以来、数少ない山陰地方の形成外科施設として診療、教育、研究を行ってきました。
令和2年度に行った手術件数は380件で、その内訳は悪性腫瘍の再建を筆頭に、良性腫瘍、ケロイド、褥瘡、難治性潰瘍から美容手術に至るまで多岐に渡っています。形成外科手術には、非常に高度な技術が要求されます。その中でも、特に難易度の高いものとしてマイクロサージャリーによる遊離皮弁移植術があります。令和2年度には20例に遊離皮弁移植術を行い、100%の成功率を納めることができました。その内訳は、舌、中咽頭、下咽頭再建を主体に、四肢の再建や乳房再建など幅広い疾患を対象としています。遊離皮弁移植術の世界のトップクラスの手術成績は98%前後の成功率と言われております。また、乳がんや婦人科領域の悪性腫瘍治療後に生じるリンパ浮腫に対して、1ミリ以下のリンパ管と静脈を吻合する治療を行っています。これは特にスーパーマイクロサージャリーと呼ばれ高度な技術を要します。
われわれ形成外科は、様々な診療科との合同手術を行うことが多いことも特徴の一つです。令和2年度には他科と合同手術は42例(11%)にのぼり、その多様性は年々増加しています。また近年、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病が増加するに従い、糖尿病性足病変、末梢血行障害による難治性潰瘍の患者数が増加しています。さらに高齢化に伴い褥瘡治療の需要が高まってきています。これらの治療は創傷を見るスペシャリストである形成外科が中心となり、他科の医師やスタッフとも連携して原疾患の治療を含めた包括的な医療を行っています。
褥瘡治療においては、院内で褥瘡対策委員会を設置し、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、栄養士、薬剤師など他職種で協力して院内の褥瘡患者、褥瘡ハイリスク患者の対策を行なっています。また、当科は日本褥瘡学会在宅褥瘡医療ネットワーク委員会の鳥取県代表であり、年1回鳥取県在宅褥瘡セミナーを開催し、地域の褥瘡予防、治療の普及と啓蒙に努めています。
さらに、鳥取大学形成外科は、山陰地方で唯一の新専門医制度の基幹施設であり、鳥取大学独自の形成外科専門研修プログラムを有し、後進の育成に力を入れています。
形成外科は創を治すだけではなく、より良く、綺麗に治す、そして生活の質の向上を目指しています。形成外科の役割は従来から行なっている再建術、乳房再建、顔面外傷、熱傷、難治性潰瘍、ケロイドなどの治療はもちろんのことリンパ浮腫、再生医療など常に新しい分野への挑戦を行い、より広く形成外科が認知されるよう努めていきます。
文責 八木俊路朗