放射線治療科

放射線治療科の概要

放射線治療科は、文字通り放射線治療を行う科であり、その対象のほとんどが悪性腫瘍です。そして、全身の悪性腫瘍を治療するのが当科の役割です。放射線治療にもいくつかの種類がありますが、その代表が外部放射線治療です。電子からX線を発生させる、リニアックと呼ばれる装置を使って体外からX線の照射を行うもので、患者様の多くがこの外部放射線治療の対象となります。その他には、小線源治療という特殊な治療があります。こちらは微小な線源を体内に挿入・刺入して、患部に対して直接放射線(γ線)を当てるものです。対象は限られていますが子宮頚癌や前立腺癌に対する根治的治療に対して欠かせない照射法です。その他当科では放射性物質を含む薬剤を内服や注射するRI治療も積極的に行っています。

令和2年度の活動

放射線治療科は令和2年6月に放射線科から完全に独立しました。そしてそれと同時にこれまで半年以上をかけて更新していた新たなリニアックが稼働し、2台体制が再開しました。これによって、さらに多くの患者様に対して放射線治療の提供が可能となりました。2台体制となって以降、特に重要視したことは高精度放射線治療の普及に対して力を注ぐと言うことです。高精度放射線治療とはすなわち、外部照射では強度変調放射線治療(IMRT)、及び定位放射線治療(SRS / SRT)、小線源治療では画像誘導小線源治療(IGBT)と呼ばれる3つです。その特徴を以下に簡単に記します。

① IMRT:これまでの通常照射で避けることの出来なかった、リスク臓器の線量を完全コンピューター制御により低下させることが可能となった、現在の放射線治療によって欠かすことの出来ない照射法であり、ほぼ全身の癌に対して応用できる方法です。IMRTが定着したことによりリスク臓器の線量の有意な低下に加え、ターゲットへの線量増加や、治療期間の短縮など、様々な選択肢が出てきています。

② SRS / SRT:いわゆるピンポイント照射と言われる照射法です。2-3 mmの精度で、1回大線量が照射可能であり、転移性脳腫瘍や孤立性肺癌に対して適応となります。転移性脳腫瘍では最短で1回、肺癌では4回という非常に短い期間で終わるのも特徴です。

③ IGBT:3次元的小線源治療(腔内照射)のことであり、対象は子宮頚癌を代表とする婦人科腫瘍です。これまで腔内照射は長年X線写真を用いて2次元的に行われていましたが、CT / MRIを用いることにより、リスク臓器やターゲットの線量把握が可能となり、より正確な腔内照射の提供が出来るようになっています。

鳥取大学医学部附属病院では、IMRTは行われておりましたが施行率が低く、まずはそちらを改善すべく取り組んできました。その結果約20%弱であったIMRT施行率は、令和2年度末には約40%となり、その後も上昇しています。しかし、SRS / SRTについては現在転移性脳腫瘍に対して行うことが出来ません。従って肺がほとんどですが、こちらもコンスタントに施行されています。IGBTに関しては、最初に行われた令和2年7月以降、全ての症例で行われています。当院のIGBTの特徴は画像としてMRIを用いることであり、CTに比べて精度の高い治療が期待できます。

今後の展望

このように令和2年度の1年間は放射線治療科には大きな変化がもたらされました。さらに、令和3年10月より、古い方のリニアックを更新するための工事に入りました。今回新しく導入されるリニアックについても、より高精度な放射線治療を提供可能とする、と言うことをコンセプトとして選択しました。当科が克服しないといけない領域の第一は、SRS / SRTであり、転移性脳腫瘍に対する治療が出来ないと言うことを大きな問題と考えています。そのため、よりSRS / SRTに特化したリニアックを選定し、導入することといたしました。来年6月に稼動予定ですがもちろん定位照射だけでなく、通常照射からIMRTまで全てに対応可能な装置です。今年度は一台体制が長くなり、皆様にご迷惑をおかけすることになるかとは思いますが、更新が済み再度2台体制となった際には、さらに高精度かつ最新の治療を提供し、県の放射線治療を牽引してゆきますのでよろしくお願いします。

文責:吉田賢史(診療科長)