泌尿器科
泌尿器科で最も精力的に取り組んでいる領域はロボット支援手術に代表される低侵襲手術である。当院ではロボット支援手術、腹腔鏡手術、内視鏡手術を、診療科の垣根を超えた横断的組織である低侵襲外科センターの枠組みの中で施行している。当センターでは低侵襲手術を施行している外科系8診療科を中心に、麻酔科、看護師、臨床工学技士等、低侵襲手術に関わる全診療科、全職種に門戸を開いたカンファレンスを月2回行い、術前および術後の症例検討を行っている。令和2年1月から令和2年12月までのロボット支援手術実績は、前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術72件、腎癌に対するロボット支援腎部分切除術14件、膀胱癌に対するロボット支援膀胱全摘除術19件、腎盂尿管移行部閉塞症に対するロボット支援腎盂形成術3件であった。また、保険未収載術式である腎癌に対するロボット支援腎摘除術を1件、腎盂尿管癌に対するロボット支援腎尿管全摘除術を2件、副腎腫瘍に対するロボット支援副腎摘除術を3件施行した。ロボット支援腎摘除術およびロボット支援腎尿管全摘除術は令和元年度から開始しており、令和2年度からロボット支援副腎摘除術を開始した。近年はロボット支援手術、腹腔鏡下手術、内視鏡手術などの低侵襲手術件数が全手術件数の約90%を占めており、今後もこの傾向は続いていくものと考えている。副腎疾患に対する手術に関しては、内分泌内科と2か月に1回、副腎カンファレンスを行い術前および術後症例の検討を行っている。また、器官病理学教室、放射線科と1か月に1回、病理カンファレンスを行い術前診断や手術手技のさらなる向上を目指した検討会を行っている。
尿路性器悪性腫瘍に対する治療では、手術療法以外にも精力的に取り組んでいる。前立腺癌に対しては、放射線科との合同治療である密封小線源療法、IMRT(強度変調放射線治療)を、ロボット支援前立腺全摘除術とともに限局性前立腺癌に対する三大治療法として、個々の症例に応じた適応のもとで施行している。令和元年度から開始した前立腺癌放射線治療の直腸障害予防を目的とした「space OAR hydrogel」の使用を、放射線治療科と協力し積極的に行っている。尿路上皮癌に対しては、高齢者に対しても多剤併用全身化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療を積極的に行い、かつ可能な限り外来化学療法を行っている。去勢抵抗性前立腺癌に対しては従来の全身化学療法に先行し、新規内分泌療法や新規抗癌剤を用いた全身化学療法を積極的に導入し予後の延長を図っている。進行性腎癌に対しては、手術療法とともに、各種分子標的薬および免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療を行っている。副作用対策として薬剤師、他科医師の協力のもと全身管理を行い、多職種によるチーム医療により、安全かつ有効な治療に努めている。
前立腺癌診断に必須となる前立腺生検においては、新規超音波診断装置「KOELIS UROSTATION TRINITY」を平成29年8月から山陰地方で初めて導入している。本機器導入により、事前に撮影した骨盤部MRI画像を生検時の超音波画像に融合させることが可能となり、前立腺癌の診断精度のさらなる向上につながっている。
良性疾患に関しては、腎尿管結石に対する最新鋭の体外衝撃波破砕術、ホルミウムレーザーによる経尿道的尿管結石摘出術、細径腎盂鏡・超音波砕石器・レーザーによる経皮的腎結石摘出術を行っており、サイズの大きな腎結石では経皮的腎結石摘出術と経尿道的尿管結石摘出術を同時に行うTAPという術式も導入している。前立腺肥大症に対しては、ホルミウムレーザーによる経尿道的前立腺核出術を基本術式として施行している。また、男性不妊領域では精索静脈瘤に対する顕微鏡下手術、腹腔鏡下手術、女性泌尿器科領域では腹圧性尿失禁に対する尿道スリング手術を行っている。また、難治性神経因性膀胱および難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は国内で最も早く開始しており、経験症例数も国内有数で高い安全性とともに良好な治療効果を得ている。令和元年末から、女性特有または女性に多い骨盤臓器脱、腹圧性尿失禁、過活動膀胱等を専門に診療する「女性泌尿器科外来」を開設しており、これに伴い令和3年度は骨盤臓器脱に対するロボット支援仙骨膣固定術を開始する予定である。
さらに、移植医療として生体腎移植を行っている。腎臓内科や院外の血液透析施設と協力し移植医療の啓蒙にも努めている。当科の果たすべき重要な領域として、今後、徐々にその症例数を増やしていくとともに、献腎移植認定施設として献腎移植にも取り組んでいく予定である。
鳥取大学医学部附属病院 泌尿器科 本田正史