皮膚科

皮膚科では、第一に皮膚腫瘍の診断・治療に重点を置き、経験豊富な医師が診療にあたっています。附属病院の鳥取県におけるがん医療の拠点病院化の動きにあわせ、山陰地方の皮膚腫瘍・がんセンターとしての役割を担うべく、努力を重ねております。また、鳥取県では数少ない皮膚悪性腫瘍の標準的治療を一貫して行える施設です。また、内臓の病気に伴う皮膚病の診療にも力を入れており、皮膚病変より数々の内蔵の病気を発見するという、皮膚科医にしかできない“技"の研鑽を続けております。
当科の最大の特色は、皮膚病理組織診断(顕微鏡による細胞や組織の検査)に力を入れていることです。現在までの症例の蓄積だけでなく、病理を熟知した医師による十分な検討・討論が行われており、前医療機関で診断のつかなかった皮膚病を数多く診断しております。この病理診断は、皮膚腫瘍の治療においても、適切な術前診断というだけでなく、病理所見に基づいた手術方法の選択にも役立てられています。
皮膚病は目に見える分、診断が下しやすいように思われます。診断はついていなくても、時に、ある種類の内服や外用剤を使用することによりたまたま小康状態を得られる場合もあります。しかし、実は同じ様な発疹に見えても診断が難しい場合が多く、皮膚科学的な根拠に基づいて臨床診断と治療を行っていくためには、皮膚科の研鑽を十分積まなければなりません。皮膚科診療の力が求められているレベル以上に達しているかどうかの指標に「皮膚科専門医」制度があります。皮膚に現れた病気(熱傷・火傷を除く)は、是非皮膚科専門医に相談して下さい。鳥取大学附属病院皮膚科勤務の医師のうち日本皮膚科学会認定皮膚科専門医の免状を持つスタッフは現在9名です。

以下に、当科での診療内容について具体的に記します。

皮膚疾患診療

アトピー性皮膚炎において重症の患者さんに対してデュピルマブやJAK阻害薬による治療を行うことがあります。改善後は再び外用薬を中心とした治療を行います。また、既存の治療では十分効果がない尋常性乾癬や関節症性乾癬、膿疱性乾癬では、炎症をもたらす特定の因子に直接作用して症状を改善することのできるいわゆる生物学的製剤による治療も行っています。難治性多発性円形脱毛症においては副腎皮質ホルモン(ステロイド)の局所注射、DPCP・SADBEによる局所免疫療法や発症6カ月以内であればステロイドパルス療法を行うこともあります。 

皮膚腫瘍診療

悪性黒色腫(ホクロのがん、あらゆる臓器のがんの中でも最もたちが悪い)、基底細胞がん(最もありふれた皮膚がん)、日光角化症(お年寄りの顔面に多い早期の皮膚がん、鳥取県に非常に多い)、ボーエン病(早期皮膚がん)、有棘細胞がん、パジェット病(湿疹に酷似した陰部に多いがん)などの診療に豊富な経験を持ちます。皮膚がんは早期発見により生命への危険を回避できます。しばしば良性の他の皮膚疾患に間違えられることもありますので、少しでもおかしいなと思われたら、大学病院を受診されることを勧めます。いずれの癌も初期であれば完治に近い状態が得られますので、ごく早期に精確な診断をつけることに心がけております。経験豊富なスタッフが丁寧に診察いたします。皮膚に生じたこのようないわゆる「デキモノ」は皮膚専門医が診療すべき対象であることを強調いたします。また、悪性黒色腫においては腫瘍周囲に放射性同位元素及び色素を注射し、センチネルリンパ節(最初に転移するリンパ節)を同定し摘出を行うセンチネルリンパ節生検を行っています。摘出したセンチネルリンパ節は病理組織学的検査を用いて、がん転移の有無を確認します。腫瘍が非常に巨大かつ深部に進行していた場合、あるいは深部のリンパ節郭清が必要な場合は、耳鼻科、消化器外科、婦人科、形成外科の応援をいただいて手術を行うこともあります。進行期では抗PD-1抗体等による治療を行っています。このように皮膚悪性腫瘍の標準的治療を行える数少ない施設です。皮膚がんに限りませんが、皮膚病に対し妥当と思われた治療を行っても全く反応がない場合、専門医に受診されることをお勧めします。早期発見が極めて重要です。

その他特殊治療

陥入爪に対するワイヤー治療(自費)も行っております。これは特殊な金属でできたワイヤーで、手術等の苦痛を伴う手技を駆使することなく弯曲した爪を矯正する方法です。また、難治性皮膚疾患に対する光線療法も行なっております。

FAX予約制度

当科ではFAX/WEB予約制度を積極的に導入しています。開業医の先生から紹介を受ける時に、予め診察時間の予約をしていただく制度で、待ち時間の短縮など円滑な診療が実施できる体制をとっています。症状が落ち着いた方については、大学病院に比べ比較的患者さんの都合の良い時間に受診が出来る一般医療機関(原則としてご紹介元)にその後の治療継続をお願いします。もちろん何か症状に変化が生じ、必要と判断された時には再度ご紹介頂くなど、密接に連携をとっています。実際にご経験いただいた患者さんに大好評の制度ですので、是非ご利用下さい。
入院治療の対象疾患は、皮膚腫瘍(良性からがんまですべて)や母斑(ほくろ、あざ)をはじめ、アトピー性皮膚炎、水疱症、乾癬などの難治性疾患、重症の感染症まで多岐にわたります。特に皮膚外科治療に力を入れています。

当科では鳥取県西部・中部および島根県東部地域のみならず、山陰地方全域および岡山県北部をも対象地域としており、地域機関病院皮膚科が担うべき役割を認識し、高齢化や複雑化する社会環境・医療環境のなかで皮膚科医に要求される医療を効率的に提供できるよう、スタッフ一同努力していきたいと考えております。

診療実績

入院患者統計・解説

入院病名
病 名 患者数(人)
湿疹/皮膚炎群(アトピー性皮膚炎を除く) 4
アトピー性皮膚炎 2
じんま疹 5
痒疹群 0
紅斑症 2
血管炎 4
薬疹 中毒疹 10
天疱瘡 15
類天疱瘡 17
その他の水疱症 0
紅皮症 1
乾癬 0
その他の角化症 0
膠原病 0
細菌性感染症 25
ウイルス性感染症 5
真菌性感染症 1
熱傷、外傷 5
母斑・母斑症 16
皮膚付属器疾患 90
上皮性良性腫瘍 41
上皮性悪性腫瘍 日光角化症 ボーエン病 22
有棘細胞癌 28
基底細胞癌 33
パジェット病 4
付属器癌 6
その他 5
悪性黒色腫 38
間葉系良性腫瘍 35
間葉系悪性腫瘍 8
菌状息肉腫 5
成人T細胞性白血病リンパ腫 0
その他の悪性リンパ腫 4
その他 2
合計 433

入院患者統計と解説

入院患者数は昨年に比べ100程度減少しました。新型コロナウイルスの影響で不要不急の入院を極力避けるようにしていたため、炎症性疾患の患者さんも極力外来で対応し、また手術の患者さんも可能な限り外来での切除に切り替えていたことなどが理由と考えます。

記:後藤寛之(病棟医長)

手術統計・解説

手術室手術 術式
手術術式 手術件数(件)
組織試験採取 6
デブリードマン・植皮術 5
皮膚,皮下,粘膜下血管腫摘出術 5
皮膚,皮下腫瘍摘出術 87
皮膚,皮下腫瘍摘出術(植皮術・皮弁作成術を伴う) 5
皮膚悪性腫瘍切除術(リンパ節郭清術を含む) 1
皮膚悪性腫瘍切除術(単純切除) 48
皮膚悪性腫瘍切除術(植皮術・皮弁作成術を伴う) 52
植皮術(独立手術として行ったもの) 3
その他 12
総計 224
外来手術 術式
手術術式 手術件数(件)
皮膚切開術 40
皮膚,皮下,粘膜下血管腫摘出術 18
皮膚,皮下腫瘍摘出術 161
皮膚悪性腫瘍切除術(単純切除) 14
陥入爪手術 4
全層・分層植皮術 3
皮弁形成術 3
総計 243

解説

新型コロナウイルス感染症の影響もあり、2020年は手術室での手術は敬遠され、全体の手術件数は昨年に比較して約50件減少しました。一方外来手術件数は昨年並であり、良性腫瘍を中心に先延ばしにする傾向が影響したことが考えられます。

記:後藤寛之(病棟医長)

過去15年の鳥取大学皮膚科の入院患者数と疾患分類の推移
病名 年 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31/R1 R2
湿疹・皮膚炎 10 18 19 22 22 8 6 3 11 10 10 10 3 2 6
蕁麻疹・痒疹 4 4 11 14 15 11 8 2 2 7 5 4 1 5 5
薬疹・中毒疹 4 4 19 17 21 20 12 13 15 31 6 10 12 23 10
紅斑・紫斑症 9 14 10 15 14 5 2 3 6 12 3 5 3 8 7
水疱症 2 6 13 17 22 14 9 15 13 13 19 20 18 31 32
角化症 10 15 13 24 14 16 15 6 6 13 16 17 2 5 0
膠原病 1 0 1 0 0 0 1 1 2 0 4 0 1 1 0
母斑・母斑症 14 16 25 41 27 14 29 24 15 14 12 11 21 25 16
細菌性疾患 4 19 25 24 23 25 24 11 15 23 19 26 13 16 25
ウィルス性疾患 5 9 28 43 21 22 11 11 4 15 12 3 4 10 5
真菌性疾患 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1
熱傷 16 14 15 11 13 16 6 4 8 7 6 10 13 9 5
良性腫瘍 50 55 69 74 60 53 53 51 40 53 67 55 73 82 76
悪性腫瘍 97 113 156 126 147 136 147 118 165 155 187 201 169 219 153
その他 6 10 30 18 26 35 22 18 40 55 80 97 91 91 92
(うち附属器疾患) (46) (76) (88) (88) (87) (90)
合計(人) 233 298 434 446 426 375 345 280 342 408 446 469 424 527 433

表1:令和2年 皮膚科外来患者統計

外来患者数(人) 新患患者数(人) 再来患者数(人) 新患割合(%) FAX予約患者
1月 980 140 840 14 71
2月 925 141 784 15 72
3月 1025 157 868 15 88
4月 963 161 802 17 82
5月 809 115 694 14 51
6月 970 163 807 17 75
7月 1065 167 898 16 87
8月 1026 182 844 18 100
9月 994 162 832 16 82
10月 1058 188 870 18 97
11月 993 127 866 13 69
12月 1012 129 883 13 68
11820 1832 9988 15 942

表2:令和2年 疾患別新患患者数

疾 患 計(人) %(約)
1 湿疹 237 13
2 蕁麻疹・痒疹・皮膚掻痒症 85 5
3 紅斑症・紫斑・血管炎・血行障害 70 4
4 物理・化学的皮膚障害・壊疽 73 4
5 中毒疹・薬疹 132 7
6 水疱症および膿疱症 34 2
7 紅皮症 1 0
8 炎症性角化症・非炎症性角化症 70 4
9 膠原病 17 1
10 代謝異常症 4 0
11 皮膚形成異常・萎縮症 7 0
12 肉芽腫・肉芽腫症 26 1
13 色素異常症 12 1
14 母斑・母斑症・奇形 99 5
15 上皮性良性腫瘍 221 12
16 上皮性悪性腫瘍 132 7
17 非上皮性良性腫瘍 146 8
18 非上皮性悪性腫瘍 40 2
19 発汗異常症 6 0
20 毛包脂腺系疾患 26 1
21 毛髪・爪甲疾患 120 7
22 細菌性疾患 61 3
23 ウイルス性疾患 57 3
24 真菌症 65 4
25 抗酸菌症 3 0
26 粘膜疾患 4 0
27 動物性皮膚疾患・性病 19 1
28 その他 65 4

表3:令和2年 地域別初診患者分類

地域 計(人) %(約)
米子市 755 41
鳥取県西部(米子市を除く) 380 21
鳥取県中部 245 13
鳥取県東部 50 3
島根県東部 334 18
島根県西部 6 0
隠岐 34 2
岡山県北部 14 1
その他県外 14 1
1832

表4:紹介状持参患者内訳

皮膚科(専門医) 出張病院皮膚科 関連病院皮膚科 他科 総計
平成19年 438(47%) 363(38%) 11(1%) 134(14%) 946
平成20年 471(48%) 340(35%) 5(1%) 161(16%) 977
平成21年 457(44%) 392(38%) 13(1%) 173(17%) 1035
平成22年 448(46%) 344(35%) 13(1%) 175(18%) 980
平成23年 494(53%) 253(27%) 12(1%) 169(18%) 928
平成24年 545(56%) 215(22%) 34(3%) 181(19%) 975
平成25年 531(57%) 171(18%) 12(1%) 220(23%) 934
平成26年 536(62%) 185(21%) 22(3%) 128(15%) 871
平成27年 717(67%) 177(17%) 30(2%) 148(14%) 1072
平成28年 694(60%) 225(19%) 62(5%) 185(16%) 1166
平成29年 645(57%) 256(23%) 89(8%) 147(13%) 1137
平成30年 579(55%) 261(25%) 60(6%) 152(14%) 1052
平成31年/令和元年 675 (55%) 302 (25%) 66 (5%) 174 (14%) 1217
令和2年 590 (53%) 320 (29%) 65 (6%) 145 (13%) 1120

(文責 : 森裕美)