看護部

1.看護部目標

「そばにいて気づき、行動し、期待に応える看護の実践」

令和元年度は、看護師が患者のそばにいる時間を増やすための看護システムを再構築し、患者の観察やケア、患者・家族とのコミュニケーションなどの本来の看護業務に時間を使い、患者のそばにいる価値を見出し、患者・家族の期待に応える看護の実践により、さらに看護師のやりがいに繋げていけるように取り組んだ。

1)教育・人材育成

平成30年度に再構築した「看護師のクリニカルラダー(鳥取大学医学部附属病院版)」の運用を開始した。また、労務管理・労働環境改善に向けた看護管理者の資質向上を目指し、段階的な育成プログラムの構築を行った。管理者育成研修の具体的内容としては、看護管理に必要な知識・技術を習得することを目的としたマネージメント研修1、組織の理念・経営目標を達成するための人材育成を目的としたマネージメント研修2、副看護師長としての役割を再認識するための副看護師長研修などである。看護部全体の質向上と病院組織への貢献に向け、構築した育成プログラムを有効活用した人材育成が今後の課題である。

2)看護実践

令和元年度は看護提供システムとして、患者の心身の状況をタイムリーにキャッチして対応し、あらゆる場面で患者の思いを引き出し支援するための「セル看護」の導入に取り組んだ。各部署の状況の中で、主に作業環境の整備・業務配分・残務調整等を行うことにより、「患者のそばにいることが出来る」鳥大版のセル看護の構築を行ってきた。患者のそばにいることで患者の変化にいち早く対応し、インシデント回避、患者の要求にすぐ対応できる等の成果を得ることができた。

今後は更にセル看護体制の充実を図り、患者のそばにいる看護を定着させることで、安全・安心な質の高い看護サービスの提供に繋げていきたい。

3)意思決定支援

看護師の重要な役割であるIC同席、退院支援の場面などにおいて、看護師が患者の意思決定のプロセスを支援できるよう取り組んだ。院内のIC同席基準に基づき、各部署における具体的な同席対象患者を医師と共に明確にして同席するよう働きかけた。また、IC同席記録のテンプレート修正、外来~入院~外来と繋がる看護を記録でわかるよう、記録のフロー図を作成し提示した。その結果、IC同席件数は前年度より増加し、病棟では5056件/年、外来では4745件/年となった。

今後は、継続した意思決定支援が行える体制の構築や看護記録の充実に向けた取り組みが必要である。

4)患者・家族満足度

患者満足度調査では、「期待を大きく・少し上回っている」と「期待通り」を合わせた割合が97%であり、昨年度より0.3%上昇し、「期待を大きく・少し上回っている」のみの結果は52.9%で、昨年度と比較して1.4%増加した。「医師・看護師やその他の医療者が一緒にあなたの治療に関わっていると実感できましたか」が特に増加しており、各部署における意思決定支援の取り組みの成果であると考える。また、「患者のそばにいることが出来る」ような看護提供方式の構築に取り組んでおり、このことが「看護師が患者を思いやり、大切にして尊重する」に関する満足度に繋がっていると考える。さらに、IC同席手順の見直しや部署毎に患者の状況に応じて、患者の思いを引き出し、意思決定を支援する取り組みを行ってきた。今後は、患者・家族の思いを支える看護を提供する仕組みを検討する必要がある。

5)職務満足度

職務満足度調査では、改善不要の割合は年々上昇していたが、令和元年度は62.6%で平成30年度より2.7%低下した。平成30年度と比較し、改善不要割合が上昇したのは、「進捗状況・達成度について上司と定期的に話し合う場が設定されている」「出張業務時の連絡・支援のためのシステムが整備されている」「職場の分煙は適切に行われている」「残業や休日出勤が多くなり過ぎないよう配慮されている」で、最も上昇したのは「年休・リフレッシュは取りやすい」で3.18%の上昇であった。これは、年休5日取得が義務化になり、確実な休暇取得が実施できたことが影響していると考える。ぜひ改善必要の項目別では「本来の業務を圧迫するほどの余分な仕事はない」23.5%(H30;21.1%)で2.4%低下、「『ノー残業デー』が設置され、活用されている」21.6%(H30;18.1%)で3.5%低下している。今後、ノー残業デーを全部署に定着させ、本来の業務を圧迫するほどの余分な仕事とは何かを把握し、対策を実施していきたい。

6)医療安全 

前年度、転倒・転落件数は474件で、骨折件数が21件と大きく増加した。そこで今年度は、入院中の安全な療養を整えるために転倒転落予防チームとともに骨折件数の減少に取り組んだ。「転ばせん隊 まくれんジャー」(未然防止ラウンド)を実施、転倒要因分析の結果から判断不足の改善を図るために(豆にまかせねば)ま:麻酔、め:めまいに:入眠剤、ま:麻酔、か:化学療法、せ:せん妄、ね:熱発、ば:バイタルサイン変化に注意することに取り組んだ。その結果、転倒転落件数446件、骨折件数に至っては7件まで減少を図ることができた。今後も入院目的が順調に果たせるよう、療養中の安全な環境づくりに努めていきたい。

7)病院機能評価

10月9日~11日に、病院機能評価「一般病院3」を受審した。審査結果は、89項目中S評価が4項目、A評価が62項目、B評価が20項目、C評価が3項目であり、条件付き認定(6か月)となった。看護師に関連する評価内容においては、「看護師が医師と連携して活動するRRSの成果としてスタットコールが減少していること」「入院前から退院を見据えた入退院支援看護師の活動や退院後の自宅訪問実施」等で高い評価を得ることができた。一方で、「患者が理解できるような説明を行い、同意を得ている」はC評価であった。この結果を受け、IC同席マニュアルを改訂し、改善に向けた取組みを開始した。

2.看護部の主な取り組み

1)外来看護の質の向上に向けた取り組み

入院前から退院支援に関わり、退院後も在宅療養が継続できるよう地域との連携を強化できる体制作りに取り組んだ。地域担当者との連携方法について学習会を開催し、入退院支援センターでキャッチ&リリース(他部署研修)を経験することで、実践で の学びを各部署での取り組みに活かす事ができた。

2)入退院センター看護師の応援業務について

外来で限られた人員を効果的に活用するため、各診療科外来において医師または看護師が実施していた処置及び検査(上部内視鏡、CT、MRI)説明業務を、入退院センター看護師が外来受付のスペース内に説明ブースを設け実施した。説明件数は1270件/年となり、各診療科の医師や看護師の業務軽減に貢献できた。

3)自部署の人的資源を豊かにするキャッチ&リリース研修

看護部には、多様な人材育成のシステムとして、新人のローテーション業務、3AD・3B・3CEフロア間の人事交流、4A・4BDフロア間のリリーフ研修、専門性の高い看護を自病棟に持ち帰るための短期人事交流(ローテーション・ジャーニー)、キャッチ&リリース研修、院内他部署研修がある。

令和元年度の研修実績は、他部署研修は13件、キャッチ&リリース研修は224件であった。院内他部署研修は実践者が少なく、キャッチ&リリース研修へシフトしてきている。令和元年度は全部署が入退院センターで研修を行い、退院支援の意識向上につながった。次年度は、戦略的に部署ごとに研修を計画し、個々の看護師のキャリアアップに繋げていきたい。

<言葉の定義:キャッチ&リリース研修=自部署の人材をアセスメントし、人的資源を 有効に活用し他病棟へのリリーフ研修を勤務計画の段階で計画し実践する院内研修>

4)看護部経営・質評価会議活動および労働と看護の質データ―ベース(DiNQL)参画による看護の質向上への取り組み

看護部では毎年インジケータ―を決定し、データを把握し分析することで病院経営への貢献、看護の質向上に繋がる取り組みを行っている。DiNQL指標における結果は以下の通りであった。

  • 労働状況
    超過勤務時間は平均10.8時間であり前年度ほぼ同様であった。ノー残業デー取得推進や業務改善を行う等の対策を講じ、大幅に減少している部署があった。
  • 看護情報
    他職種との退院ケアカンファレンス実施状況は974件であり、前年度と横ばいであった。医師がカンファレンスに参加する体制が整っている部署の実施件数が多くなっていた。
  • 転倒・転落
    転落件数は103件で、前年度から27件減少し、転倒件数は360件で34件増加した。転倒・転落に対する看護師のアセスメント能力を向上していくことが課題である。
  • 患者情報
    身体抑制率は、3.3%であり前年度と同値であった。看護部全体で身体抑制率の低下に向けて取り組んでいるが、診療科の特殊性もあり、身体抑制率が高い部署と低い部署で2極化している。
  • 医療安全
    インシデント・アクシデント発生件数は、減少傾向にあり、今年度は前年度から4件減少し2524件であった。影響度レベルでは、レベル0とレベル1が増加したが、影響度の高いレベル2以上は減少した。患者誤認は、92件発生しており前年度から2件増加した。書類の間違いが25件と最も多く、次いで記録の間違いが11件であった。確認行動の徹底は引き続き課題である。

5)RRSチームの活動

RRS( Rapid Response System)とは、『患者の状態が通常と異なる場合に、現場の定められた基準に基づき、直接専門チームに連絡し早期に介入・治療を行うことで、ショックや心停止といった致死性の高い急変に至ることを防ぐシステム』である。ICU2 ではRRS(院内迅速対応システム)を導入し、前年度のRRS要請件数は46件で、今年度は124件に増加した。RRS基準による要請件数は、「収縮期血圧90mmHg以下または220mmHg以上」が37件、「呼吸数8回以下、25回以上」が24件であった。RRSチームのスタッフ一人一人の急変対応スキル向上を図り、フィジカルアセスメント能力をスキルアップすることが今後の課題である。スタットコールが39件と前年度の55件から減少したのはRRSの成果であった。

6)身体拘束に頼らない看護へのチャレンジ

金沢大学の「身体拘束を当たり前としない医療・ケア」を参考に身体拘束に頼らない看護の実践に向けた取り組みを始め、今年度は3か年計画の2年目を迎えた。師長検討会、看護サービス委員会、倫理委員会、医療安全管理部が協働し、各部署において身体拘束をやりっぱなしにしないために事例カンファレンスを重ね、3要件を考えて身体拘束減少に向け重点的に取り組んだ。身体拘束が回避できた事例を発表し、各部署の取り組みを共有した。また、身体拘束となった場合も適切にアセスメントし、実施できているか記録の監査を行った。実際の拘束率は前年度7.2%から今年度6.4%にわずかに減少が図れた。しかし、拘束をしない看護を実践する過程で生じた問題やジレンマ等も発生しており、看護部としての取り組みだけではなく、医師を始め、他職種も巻き込んだ活動に発展させていくことが課題である。

7)働きやすさへの取り組み

WLB支援センターとの連携によるメンタル・フォロー:

看護部では、これまでもスタッフの変化に早く気づき、速やかに対応を行い、メンタル不調に陥らないようにメンタルヘルスシステム・フロー(鳥大看護部)に則ってサポートしてきた。今年度、公認心理師である大羽先生がWLB支援センターに配属されたことを機会にさらに連携を図り、新採用者の定期的な面談、不調者への関わりはもちろん、重大インシデント発生時、暴言暴力を受けた当事者は速やかに面談をうけ、早い段階からメンタル・フォローができるよう、専門家と協働し強化する仕組みを作り、取り組み始めた。

8)キャリアアップ支援 

院内研修は90研修を開催し、延べ7482名が受講した。院外施設からの参加者は延べ1678名(新人研修460名・コース研修1123名・全体研修95名)であった。看護部の目標達成に向けた研修を企画しており各部署の取り組みにも繋がる研修となった。また、院外の看護職員へ研修を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップにも貢献できた。

認定看護師・専門看護師等によるコース研修は、13コース研修で、参加者延べ人数は3398名であり専門的な知識・技術の習得に努めた。また、看護管理者研修には外部講師による合計4回のリフレクション研修を追加し、看護管理者間の相互作用により看護管理者の質向上に繋がった。

全国学会・地方学会・研修会参加は合計721回で、出張701回、出張外20回であり昨年度より出張研修参加が増加傾向にあった。今後も計画的な人材育成を目的とした院外研修参加・看護研究発表を推進していくことが必要である。

専門認定看護師と特定看護師による新たな活動

認定看護師は3名の専門看護師、15領域30名の認定看護師が臨床において実践モデルとして質の高い看護サービスを提供している。また、院外の看護職員へも研修会を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップにも貢献している。 特定行為研修終了者は5名であり、呼吸器(気道確保に係るもの)関連・呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連・循環動態に係る薬剤投与関連・動脈血液ガス分析関連・術後疼痛管理関連の5区分での実践が可能となっている。今後も引き続き特定行為研修修了者が高い看護の専門性を発揮した活動が展開できるよう体制を整えていく必要がある。

9)1日看護体験・看護サマーセミナー研修報告 

1日看護体験は、中学生67と高校生66名の合計123名の参加があり、看護師の仕事を理解する機会となった。看護学生が参加するサマーセミナーは70名の参加があり、就職先を検討する目的で参加した人が多かった。参加人数の増加や研修生の振り返りより、将来の就業先として医療職への関心の高さが伺えた。

10)自宅訪問・他施設訪問:看護サービスの取り組み

患者が退院後も住み慣れた自宅で暮らせるよう、地域と連携し退院支援を行っている。

退院前または後に自宅訪問を行い、自宅環境の確認や患者の生活状況を確認する事で、より効果的な支援が行えるよう努めている。自宅訪問した患者数は134名(訪問した看護師は195名)であった。また、他施設転院時に看護師が同行し、患者情報を直接伝える事で転院先施設が安心して患者を受け入れる事に繋がった。他施設訪問件数は34件(訪問した看護師は36名)であった。今後も継続した退院支援を実施するとともに、入院前から情報収集を行い必要な患者への退院支援を推進していく。

11)ものづくりWG活動

企業、新規医療研究推進センターと協同し、ものづくりに取り組んでいる。令和元年度は、新たに小児の手術後(例えば口唇裂、口蓋裂の術後)の両手の可動を一時的に制限するためのサポーターとして「スーパー守るんじゃ-」を開発した。その他、「死後の処置で着用する浴衣」「ベッドに置くテーブル」等の開発を進めている。