精神科
令和元年度の精神科の活動状況を、入院診療、外来診療、精神科リエゾン診療、研究に分けて報告致します。
1.入院診療
大学病院としての高度医療を担うべく、当科病棟の中心的役割は単科精神科病院で対応困難な入院患者さんの診断・治療にあります。令和元年度の新規入院患者数は133人と前年度比で11人増加しましたが、最近5年間の平均値128人に近い値となっています。主な疾患は、治療抵抗性を示す統合失調症や気分障害、体重減少が顕著な重症の神経性やせ症、発作または精神症状が顕著な症候性局在関連てんかん、発達障害の特性が関係する抑うつ状態や適応障害などです。また、身体合併症を併せもった精神科患者さんの入院治療も当病棟の重要な使命と認識しております。令和元年度の平均在院日数は54.6日で、最近5年間の平均値68.2日を大きく短縮することが出来ました。病棟スタッフによる効率的な治療に加えて、患者さんご自身およびご家族のご努力に負うところもあると考えております。
従来の抗精神病薬では症状の改善が乏しい統合失調症の患者さんには、非定型抗精神病薬クロザピンの適応があります。令和元年度にクロザピンによる治療を新規導入した方は4人で、全例で重篤な副作用なく有効性を認めました。また、統合失調症やうつ病の昏迷状態等では緊急の治療的介入が求められます。そうした場合には、麻酔科との協働の下、修正型電気痙攣療法(mECT)を行っています。今年も、地域の連携病院からの御紹介例を含む5人の患者さんに実施し、多くの場合に著効を得ており、薬物療法が奏功しにくい方2人には退院後に維持mECTを実施しています。
2.外来診療
令和元年度の外来の新規患者数は292人と前年度比で19人減少しました。2年連続での減少であり、病院・診療所の役割分担だけでなく、初診患者さんの診察待ち時間の長さなどの接遇上の問題に起因する可能性が考えられます。予診の効率化等の対策を考えて参ります。
疾患別では、今年度も、高齢者のうつ病、神経発達症の特性と関係する抑うつ状態や適応障害の患者さんの受診が多い傾向が続いています。特に、神経発達症の特性を持つ方においては、明確に診断基準を満たさない「閾値下特性」であっても、対人関係や学業・仕事に困難をもたらすため、適切な心理検査を行い、その結果に基づき必要な支援につながることに焦点を当てた診療を心掛けております。幸い、薬物療法が可能な認知機能の問題もありますので、担当医にご相談ください。
3.リエゾン診療
精神科リエゾンチームの立ち上げから3年が経過しました。看護師、精神保健福祉士、薬剤師、精神科医で構成される本チームは、身体科病棟に入院中の患者さんのこころの問題のケアを担当しております。令和元年度も、前年度とほぼ同様に497人の方を担当しました。せん妄や抑うつ状態などの精神疾患が合併すると入院期間が長引く等の影響が生じるため、迅速に対応して参りたいと考えております。
当科は、今後も精神科救急を含む地域の中核医療機関としてその診療やリハビリテーションに取り組んで参りたいと考えております。
令和元年度の主要発表論文
Pu S, Nakagome K, Satake T, Ohtachi H, Itakura M, Yamanashi T, Miura A, Yokoyama K, Matsumura H, Iwata M, Nagata I, Kaneko K. Comparison of prefrontal hemodynamic responses and cognitive deficits between adult patients with autism spectrum disorder and schizophrenia. Schizophr Res. 2019 ;206:420-427.
文責 兼子 幸一