眼科
令和元年度の当科の現況を振り返る。
令和元年度の眼科総手術件数は、3162件であった。年度末に新型コロナウイルス感染拡大により診療上少なからず制約があったものの、前年度の3198件とほぼ同数の手術件数を維持することができた。
例年通り、手術の内訳で大きなウエイトを占めているのは、白内障手術と加齢黄斑変性などに対する硝子体内注射であった。
硝子体注射はほとんどの症例が血管内皮増殖因子(VEGF; Vascular endotherial growth factor)を標的とした治療である抗VEGF抗体の注射で、加齢黄斑変性などの眼内新生血管抑制以外にも、視力低下の原因となる黄斑浮腫に対しても効果があり、黄斑浮腫を引き起こす糖尿病網膜症や、網膜静脈閉塞症に対しても適応となっている。そのため、高齢化や糖尿病患者の増加に伴い、注射件数は年々増加しており、今後も増加していくと思われる。
さらに上記のような薬物治療では対処できない黄斑上膜、黄斑円孔などの外科的な硝子体手術が必要な網膜疾患に対しては、極小切開硝子体手術に対応できる機器を用いて、低侵襲の硝子体手術を行っており、入院期間の短縮や患者さんの早い社会復帰に貢献している。
そして、角膜疾患においては、従来主流であった全層角膜移植に加えて、近年注目されている角膜内皮移植を当院でも行っている。角膜内皮細胞を含む深層角膜側のみを移植する角膜内皮移植の利点は、全層移植に比べ、角膜上が無縫合であるため大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクが軽減できることにあり、移植後の問題点を軽減できる術式を選択することで患者さんの負担を減らすことへと結びついている。
また当施設では、手術治療以外にも、臨床所見のみでは診断のつきにくい前眼部感染性疾患に対し、real-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。微量なサンプルからも病原体を検出でき、病原体の量を数値化できることから治療効果の判定にも非常に役立っている。そのため県内のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例を多数紹介いただいており、山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も担っている。
以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域を偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。白内障のような基盤的手術のみならず、新規あるいは先進医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。高齢化に伴い白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の疾患はさらに増加すると予想され、今後のさらなる患者数・手術件数の増加に対応するためには十分な施設投資と検査員の増員・関連病院との連携が不可欠である。
当科の新しい取り組みとして、今年度よりロービジョン外来を設立している。今年度はのべ70名の方に受診いただいた。視覚障害により日常生活で不自由を感じておられる方々へ、少しでも生活面で改善が得られる器具の紹介等のサポートを行う。近隣眼科より紹介を頂いて予約受診していただくシステムである。治療を要する方のみでなく、視覚障害と上手く付き合っていく方法をアドバイス・サポートすることで、さらに地域社会に貢献できるよう今後も精進していきたい。
(文責:唐下千寿)
2019年度手術実績
白内障手術 | 924 |
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後発白内障手術 | 86 |
硝子体内注射(抗VEGF抗体) | 1192 |
硝子体関連手術 | 306 |
網膜復位術(強膜内陥術) | 22 |
網膜光凝固術(PDTも含む) | 153 |
緑内障手術 | 141 |
虹彩光凝固術 | 11 |
眼瞼手術(下垂、内反) | 17 |
斜視手術 | 15 |
角膜移植 | 23 |
エキシマレーザーによる角膜切除術 | 52 |
翼状片手術 | 39 |
涙点プラグ挿入術 | 20 |
涙道狭窄関連手術 | 45 |
角膜・強膜異物除去術 | 29 |
角膜・強膜縫合術 | 7 |
腫瘍手術 | 18 |
その他 | 62 |
合計 | 3162 |