看護部
1.看護部目標
「患者・家族・医療者・地域の強みを引き出し、その人らしさを支える看護の実践」
私たちはこれまで、患者が持つ夢や希望の実現に役立つ強み、患者に関わる家族・医療者・地域の持つ強みを引き出し、その人の価値を尊重し、尊厳を擁護し、その人自身がよりよく生きる力を引き出す、「その人らしさを支える看護」に取り組んできた。
平成30年度も、「患者・家族・医療者・地域の強みを引き出し、その人らしさを支える看護の実践」を看護部スローガンとして、入院前から退院困難患者・家族に介入する体制の構築と患者・家族の意志決定を支援することで、「その人らしさを支える看護」の実現に取り組んだ。
1)教育・人材育成
新たに作成された日本看護協会クリニカルラダーと整合性をとり「鳥大看護師版クリニカルラダー」を再構築した。ラダーレベルはこれまでの新人、一人前、中堅、達人レベルからラダーレベル0から5に変更した。 また、昨年度作成した看護管理者ラダーは副師長・師長が活用を開始した。今後、実践を通した管理者教育体制を構築し、看護管理者の資質向上に繋げていきたい。
2)看護実践
各部署が看護部目標に沿って部署の専門性を活かした、多職種で介入する退院支援、外来・病棟・地域連携、外来継続看護、IC同席、意思決定支援、エンドオブライフケア、急変対応スキル向上などに取り組み、着実に成果を上げている。
今後は看護師の重要な役割であるICの同席、退院支援の場面などにおいて、看護師全員が患者の意思決定のプロセスを十分に支援できるように取り組んでいきたい。
3)患者・家族満足度
患者満足度調査では、満足度が96.8%と昨年度より7.4%上昇した。特に「退院後の治療・通院・生活について話し合った」が7.0%、「注意・関心を向けたか」が5.0%、「尊重してくれたか」が3.2%、「看護についての希望を確認したか」が1.1%、と期待以上の割合が上昇しており、看護師それぞれが、入院前から始める退院支援を実践した成果と考える。
4)職務満足度
職務満足度調査では、働き方改革などの取り組みにより、改善不要の割合が66.7%と昨年度の65.0%より1.7%上昇した。各部署が業務改善やノー残業デーの活用により超過勤務削減に努力した結果、「職場環境」が3.8%、「作業業務改善」が3.2%、「休憩時間・休暇取得」についての満足度が1.2%上昇した。
しかし、その反面、看護師数は年々増加しているにも関わらず、「本来の業務を圧迫するほどの余分な仕事はない」、「人の配置・仕事量の割り当てが適切で負荷が偏らない」が改善の必要な項目の上位となっている。 今後、さらに業務改善を推進し職務満足度の向上に繋げていきたい。
5)医療安全
確認行動の定着を図るために「確認行動の匠」を育成して2年が経過した。心得4か条をもとにモデルナースとして今年度35名、2年で64名の「匠」が誕生した。しかし、患者誤認のインシデントは90件で12件増加した。「確認行動の匠」の育成に積極的に取り組まれ、育成数が多かった部署は確認不足件数が少ない傾向にあった。医療・ケアを提供する最終実施者としての看護職の責任の重さを自覚し、医療安全に努めた組織風土の確立のために引き続き「確認行動の匠」の育成に取り組んでいきたい。
2.看護部の主な取り組み
1)外来看護の質の向上に向けた取り組み
外来∼病棟∼外来・地域など、院内外の継続した看護サービスの提供を目的とした病棟外来の一元化体制をとっている。外来における業務の効率性及び専門性の発揮につなげるため、各診療科を3チームに分け、各チームにリーダーを置き横断的に連携を図っている。
2)入退院センター看護師の応援業務について
外来で限られた人員を効果的に活用するため、各診療科外来において医師または看護師が実施していた処置及び検査(上部内視鏡、CT、MRI)説明業務を、入退院センター看護師が応援業務で実施している。
3)自部署の人的資源を豊かにするキャッチ&リリース研修
看護部には、多様な人材育成のシステムとして、新人のローテーション業務、3ABDCEフロア間の人事交流、4ABDフロア間のリリーフ研修、専門性の高い看護を自病棟に持ち帰るための短期人事交流(ローテーションジャーニー)、院内他部署研修がある。平成29年度院内研修は年間203件あったが、中央診療部門の内視鏡、透析室、外来、がんセンターはほとんど実績がなかった。
そこで、師長検討会グループ企画の「患者さんを主体とした他部署連携強化ならびに担当看護師役割拡大」を目的に院内研修を再考しキャッチ&リリース研修を開始した。
<言葉の定義:キャッチ&リリース研修=自部署の人材をアセスメントし、人的資源を有効に活用し他病棟へのリリーフ研修を勤務計画の段階で計画し実践する院内研修>
平成30年度キャッチ&リリース研修を計画し評価した部署は15部署であった。参加した看護師の目標に対する自己評価平均得点は4.2点、師長評価は4.1点と高かった。自部署と関係ある部署と連携した院内研修により看護技術、知識の拡大が図れた。
次年度は、全部署でキャッチ&リリース研修フロー図を作成し、各部署の専門スキルが習得できる研修プログラムにより積極的に受け入れができるよう体制を整えたい。
4)看護部経営・質評価会議活動および労働と看護の質データ―ベース(DiNQL)参画による看護の質向上への取り組み
〇平成30年度ベンチマーク評価結果
褥瘡推定発生率・新規褥瘡改善率など褥瘡関連のデータは全国レベル、特定機能病院レベルからみても上位に位置していた。転倒・転落発生率は、全国レベルでみた場合は中央値程度であるが、特定機能病院レベルでみると当院は高い割合となっており発生率が高いと言える。必要度Ⅱは全国・特定機能病院平均と比較し低い割合であった。
また、離職率(新人・既卒)も低い割合であった。
〇転倒・転落に関するデータは全国と比較すると発生率が高いことから、認知症の患者の動く理由・意味を理解して見守ること、環境変化に伴う入院や転棟直後の転倒に注意することなど対策の検討が必要である。また看護師のアセスメント力低下も要因のひとつと考えられるため、アセスメントの基本のタイミングを周知していかないといけない。最近は転倒転落予防チームラウンドに施設環境課が入っており、手すり設置 などの環境改善に速やかに対応できるようになった。
〇患者誤認は、病院全体としては23件減ったが、看護部としては増加している。医師のインシデントを発見者として看護師が報告するパターンや、スキャンを出す際に間違えてしまった事例が多かった。今年度は看護助手のインシデント報告件数が減少しており、間違いが起きたら再発防止のために皆で話し合う取り組みを実践している成果と考える。
5)RRSチームの発足
心肺停止6~8時間前に何らかの異常所見があることが、研究成果で報告されている。当院の事例からも同様な状況がある。私たちはこれまで、特定機能病院の看護師に必要なフィジカルアセスメント能力の向上に取り組んできたが、入院患者の急変によるスタットコール件数は24件で、前年度より4件増加しており、患者が重症化する前の兆候を見逃している現状も見受けられる。そのため、昨年度、高次集中治療部医師と急性期病棟看護師によりRRSチームが立ち上げられ、4BD看護師も「KIZUKIチーム」による一般病棟看護師への支援を開始した。病院のセーフティネットとして病院全体で患者を診療、患者を守る文化をつくることを目指していく。
6)身体拘束に頼らない看護へのチャレンジ
金沢大学の「身体拘束を当たり前としない医療・ケア」を参考に身体拘束ゼロに向けた取り組みを始めた。今年度は3か年計画の初年度として師長検討会、看護サービス委員会、倫理委員会、医療安全管理部が協働し、意識改革に向け重点的に取り組んだ。実際に拘束件数の減少は図れたが、スタッフ・看護師長それぞれにアンケート調査を実施した結果、各部署においてスタッフの意識や教育が進まない傾向や管理者の立場上の葛藤があることがわかった。
7)働きやすさへの取り組み
労働安全衛生委員会 看護部担当職場巡視開始
看護部では、第1種衛生管理者を8名育成しており、今年度から毎週、看護部管轄部署の職場巡視を開始した。日頃から患者の安全な入院環境を整えることに目が行きがちであったが、この活動を通して職員の労働環境をチェックすることを当たり前として捉えることができ意識の変化に繋がっている。職場巡視の結果、労働環境を改めて見直す機会となり、主に①整理、整頓で無駄な物品の撤去②安全な環境として、棚などの転倒予防対策の徹底に取り組むことができた。結果は病院の労働安全衛生委員会に報告している。成果として、棚購入時に転倒予防策を同時に行う仕組みができた。今後も引き続き職場巡視は継続していく。
8)キャリアアップ支援
今年度追加した全体研修(レベル共通研修)は、院外講師に依頼し「身体拘束をしない看護」と「認知症看護」で院外施設にも案内し開催した。看護部の目標達成に向けた研修会であり各部署の取り組みへ繋がる研修となった。
認定看護師・専門看護師等によるコース研修は、新規の摂食・嚥下障害と退院支援人材育成コースを追加し13コース研修で、参加者延べ人数は3182名であり専門的な知識・技術の習得に努めた。また、看護管理者研修には外部講師による合計4回のリフレクション研修を追加し、看護管理者間の相互作用により看護管理者の質向上を目的とした。
院内研修は57研修を開催し、延べ6093名が受講した。院外施設からの参加者は延べ1152名(新人研修406名・コース研修645名・全体研修101名)であり、院外の看護職員へ研修を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップに貢献している。
全国学会・地方学会・研修会参加は合計1002回で、出張601回、出張外401回であり昨年度より出張研修参加が増加傾向にあった。さらに院外研究発表も合計97件であり、前年度より20件増加した。今後も計画的な人材育成を目的とした院外研修参加・看護研究発表を推進していく。
専門認定看護師と特定看護師による新たな活動
認定看護師は現在3名の専門看護師、15領域29名の認定看護師が臨床において実践モデルとして質の高い看護サービスを提供している。また、院外の看護職員へも研修会を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップにも貢献している。
特定行為研修終了者は、創傷管理関連の特定行為研修修了者が1名であり、手順書にそった特定行為(壊死組織の除去、創傷に対する陰圧閉鎖療法)を実践している。
今年度、当院の特定行為研修を受講している3名は、呼吸器関連(気道確保に係るもの、人工呼吸療法に係るもの)・血糖コントロールに係る薬剤投与関連、術後疼痛管理関連、循環動態に係る薬剤投与関連の5区分から選択し研修を受講している。また、看護協会特定行為研修受講者1名で合計4名が特定行為研修を受講している。特定行為研修修了者が高い看護の専門性を発揮した活動が展開できるよう体制を整えていく必要がある。
9)1日看護体験・看護サマーセミナー研修報告
1日看護体験は、中学生4名と高校生53名の合計57名の参加があり、看護師の仕事を理解する機会となった。看護学生が参加するサマーセミナーは46名の参加があり、就職先を検討する目的で参加した人が多かった。参加人数の増加や研修生の振り返りより、将来の就業先として医療職への関心の高さが伺えた。
10)自宅訪問・他施設訪問:看護サービスの取り組み
患者が退院後も住み慣れた自宅で暮らせるよう、地域と連携し退院支援を行っている。
退院前または後に自宅訪問を行い、自宅環境の確認や患者の生活状況を確認する事で、より効果的な支援が行えるよう努めている。自宅訪問した患者数は178名(訪問した看護師は309名)であった。また、他施設転院時に看護師が同行し、患者情報を直接伝える事で転院先施設が安心して患者を受け入れる事に繋がった。他施設訪問件数は43件(訪問した看護師は74名)であった。今後も継続した退院支援を実施するとともに、入院前から情報収集を行い必要な患者への退院支援を推進していく。
11)ドクターヘリ運航開始
平成30年3月26日より正式に運行開始、救命救急センターへの急患患者数の増加が予測される。急性期病棟の応援体制をさらに強化し、一般病棟への転棟など含め、病院全体で救命救急センターを支援・協力していく。
12)ものづくりWG活動
企業、新規医療研究推進センターと協同し、新たに平成30年度は以下の製品を共同開発した。
1.シーネ「まがらんネ。」
カテーテル検査後に穿刺部の屈曲を防止するために使用する固定具を業者と共同開発した。3層構造で強度やクッション性、血液の吸収性を考慮し開発した。また、価格も安価で使い捨てのタイプであり衛生的であるというメリットがある。
2.とりだいブランドユニフォーム
H31年度ユニフォーム更新時期に合わせ、H28年より看護部管理室・福利厚生Pメンバーを中心に全スタッフから要望を丁寧に聞きとり、自分たちが着たい、鳥大看護部オリジナルのユニフォームが完成した。一般病棟、小児母性、急性期系でデザインがそれぞれ異なり、全てパンツとなり、色は白と紺色2色で統一感を持たせたデザインとなった。
13)病棟取り組み報告
病棟2階B :看護アシスタント環境整備腕章
看護スタッフによる看護アシスタントへの環境整備以外の業務依頼が多い現状にあったが、腕章をつけ環境整備することで、環境整備中には他業務を依頼しないことを周知した。その結果、環境整備に集中でき、入院患者をいつもきれいなスペースへ案内することができるようになった。
病棟4階BD:感染対策への取り組み
感染予防・拡大防止を図るためVAP(人工呼吸器関連肺炎)件数、手指消毒回数を記入した掲示板導入、また、感染予防対策モデルナースが腕章をつけて業務を行い、感染予防に対する意識強化を行う。
病棟5階A:食事体験
看護師と患者・家族が一緒にデイルームで食事をしながら食事指導を行う方法を取り入れた。治療食を外部より提供していただき、患者は宅配食、家族は宅配食と病院食を見比べながら味付けや量の指導を受けることができるよう環境を整えた。
病棟8階B:モバイルチェア
ラウンド中に廊下、病室で患者の側で記録を行うために導入した。とりりんワゴンに引っ掛けることができる。医療安全の視点でもそばにいることにより速やかに異常に気付き、早期対応が図れる利点がある。
病棟8階B:ピクトグラム
スタッフ間でタイムリーに患者情報を共有し、安全・適切な援助をすることができるよう「ピクトグラム」を作成した。タイミング別で色分けしたマグネットを貼り、患者情報を視覚的にわかりやすくした。
医療安全管理部:注射ラベルの変更
シリンジポンプ薬剤間違いインシデントから新ラベルに変更となった。ラベルの2枚貼りを廃止し、原則大ラベルの1枚貼りに統一した。