精神科

平成30年度の精神科の活動状況を,入院診療,外来診療,精神科リエゾン診療、研究に分けて報告致します.

1.入院診療

大学病院としての高度医療を担うべく,当科病棟の中心的役割は他の精神科医療機関で対応困難な精神疾患の診断・治療にあります.平成30年度の新規入院患者数は122人と前年度比で11人減少しましたが、最近5年間程の平均に近い値となっています。主な疾患は、治療抵抗性を示す統合失調症や気分障害,外来治療が困難な重症の神経性やせ症,発作または精神症状が顕著な症候性局在関連てんかん、発達障害の特性が関係する抑うつ状態や適応障害などです。また、身体合併症を併せもった精神科患者さんの入院治療も当病棟の重要な使命と認識しております。

従来の抗精神病薬では症状の改善が乏しい統合失調症の患者さんには,非定型抗精神病薬クロザピンおよび修正型電気痙攣療法が有効です。鳥取県西部および島根県東部(松江市まで)で両方の治療が可能なのは鳥取大学病院だけであり、この地域では最後の砦となっています。平成30年度は新規にクロザピンによる治療を導入した方は4名で,全例で有効性を認めました。また、統合失調症やうつ病の昏迷状態では緊急の治療的介入が求められます.そうした場合には,麻酔科との協働の下,修正型電気痙攣療法を行っています.今年も,地域の連携病院からの御紹介例を含めた6名の患者さんに実施し,多くの場合に著効を得ています.

2.外来診療

平成30年度の外来の新規患者数は311人と前年度比で57人減少しました。地域の精神医療における病院・診療所の役割分担が明確になり、軽症の方の受診が減ったことに起因すると推定されます。今年度も高齢者のうつ病、神経発達症の特性が関係する抑うつ状態や適応障害の患者さんの受診が多い傾向が続いています。特に、発達障害の「閾値下特性」という、過去の健診で問題を指摘されなくても、対人コミュニケーションや認知機能の困難を抱える方が多く、適切な診断・治療・支援が求められています。当科では、生活歴の聴取や心理検査の結果を踏まえ、個人ごとに適したコミュニケーションの在り方を模索することが問題の軽減に役立つと考え、日常診療での実践を試みています。

3.リエゾン診療

当科では平成29年4月に精神科リエゾンチームを立ち上げました。看護師、精神保健福祉士、薬剤師、精神科医で構成される本チームは、身体科病棟に入院中の方に生じるこころの問題にスムーズに対応することを目的にしています。平成30年度の新規依頼患者数も前年同様200人を超えています。せん妄や抑うつ状態などの精神疾患が合併すると元の身体疾患の予後にも影響を及ぼす可能性があります。そのため、こうした患者さんにも迅速に対応して参りたいと考えております。

当科は,今後も精神科救急を含む地域の中核医療機関としてその診療やリハビリテーションに取り組んで参りたいと考えております.

平成30年度の主要発表論文

1) Pu S, Nakagome K, Itakura M, Ohtachi H, Iwata M, Nagata I, Kaneko K. Right frontotemporal cortex mediates the relationship between cognitive insight and subjective quality of life in patients with schizophrenia. Front Psychiatry. doi: 10.3389/fpsyt.2018.00016.
2) Kaneko K. Negative Symptoms and Cognitive Impairments in Schizophrenia: Two Key Symptoms Negatively Influencing Social Functioning. Yonago Acta Medica 2018; 61:91-102.

文責 兼子 幸一