泌尿器科

当科で最も精力的に取り組んでいる領域はロボット支援手術、腹腔鏡手術に代表される低侵襲手術である。当院ではロボット支援手術を、診療科の垣根を超えた横断的組織である低侵襲外科センターの枠組みの中で施行している。当センターでは、ロボット支援手術、腹腔鏡手術等の内視鏡手術を施行している外科系8診療科を中心に、麻酔科、看護師、臨床工学技士など全診療科、全職種に門戸を開いたカンファレンスを月2回行い、術前および術後症例の検討を行っている。平成30年1月から12月までのロボット支援手術実績は、保険収載されているロボット支援前立腺全摘除術、ロボット支援腎部分切除術、ロボット支援膀胱全摘除術が、それぞれ74件、27件、11件であった。また、これら以外にも腎盂尿管移行部狭窄症に対するロボット支援腎盂形成術を継続して施行してきている。平成30年度から膀胱癌に対するロボット支援膀胱全摘除術は保険収載されており、今後飛躍的に症例数が増えていくものと考えている。

腎、尿管、副腎などの上部尿路悪性腫瘍に対しては腹腔鏡手術を標準的治療とし、その他の良性疾患に対する腹腔鏡手術も導入しており、科として低侵襲手術導入を積極的に進めている。近年は、ロボット支援手術、腹腔鏡下手術、内視鏡手術等の低侵襲手術件数が全手術件数の約90%を占めており、今後もこの傾向は続いていくものと考えている。副腎疾患に対する腹腔鏡手術、開放手術に関しては、内分泌内科と2か月に1回、副腎カンファレンスを行い術前および術後症例の検討を行っている。また、器官病理学教室、放射線科と1か月に1回、病理カンファレンスを行い術前診断や手術手技のさらなる向上を目指した検討会を行っている。

尿路性器悪性腫瘍に対する手術療法以外の治療法にも精力的に取り組んでいる。前立腺癌に対しては、放射線科との合同治療である密封小線源療法、IMRT(強度変調放射線治療)を、ロボット支援前立腺全摘除術とともに限局性前立腺癌に対する三大治療法として、個々の症例に応じた適応のもとで施行している。尿路上皮癌に対しては、高齢者に対しても多剤併用全身化学療法を積極的に行い、かつ可能な限り外来化学療法を行っている。去勢抵抗性前立腺癌に対しては従来の全身化学療法に先行し、新規内分泌療法や新規抗癌剤を用いた全身化学療法を積極的に導入し予後の延長を図っている。進行性腎癌に対しては、手術療法とともに、各種分子標的薬および免疫チェックポイント治療薬を用いた治療を行っている。副作用対策として薬剤師、他科医師の協力のもと全身管理を行い、多職種によるチーム医療により、安全かつ有効な治療に努めている。

前立腺癌診断に必須となる前立腺生検においては、新規超音波診断装置「KOELIS UROSTATION TRINITY」を平成29年8月から山陰地方で初めて導入している。本機器導入により、事前に撮影した骨盤部MRI画像を生検時の超音波画像に融合させることが可能となり、前立腺癌の診断精度のさらなる向上につながると考えている。

良性疾患に関しては、腎尿管結石に対する最新鋭の体外衝撃波破砕術、ホルミウムレーザーによる経尿道的尿管結石摘出術、超音波砕石器・レーザーによる経皮的腎結石摘出術を施行している。前立腺肥大症に対しては、最新術式であるホルミウムレーザーによる経尿道的前立腺核出術を基本術式として施行している。男性不妊領域では、精索静脈瘤に対する顕微鏡下手術、腹腔鏡下手術を施行している。女性泌尿器科領域では、腹圧性尿失禁に対する尿道スリング手術、膀胱瘤、子宮脱等の骨盤臓器脱に対する経膣メッシュ手術を行っている。また、難治性神経因性膀胱および難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法は国内で最も早く開始しており、経験症例も国内有数で高い安全性とともに良好な治療効果を得ている。平成29年度から平成30年度にかけ行われた、難治性神経因性膀胱および難治性過活動膀胱に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注入療法の第III相臨床試験に参加した。

さらに、移植医療として生体腎移植を行っている。腎臓内科や院外の血液透析施設と協力し移植医療の啓蒙にも努めている。当科の果たすべき重要な領域として、今後、徐々にその症例数を増やしていく予定である。

令和元年度は、腎腫瘍に対するロボット支援腎摘除術、腎盂尿管腫瘍に対するロボット支援腎尿管全摘除術を新たに開始する予定であり、また、前立腺癌放射線治療の直腸障害予防を目的とした「space OAR hydrogel」の使用を放射線治療科と協力し開始する予定である。

鳥取大学医学部附属病院 泌尿器科 本田正史