泌尿器科

 近年の急激な高齢化社会の到来に伴い,泌尿器科の代表的疾患である,前立腺肥大症,前立腺癌,過活動膀胱,尿失禁などの増加に加え,他科疾患による泌尿器科的処置を必要とする症例も増加している。このような状況の中で,我々泌尿器科に求められている役割はますます多岐にわたり,さらに高度化してきている。また,一人の患者が複数の疾患に罹患していることは少なくなく,他科との密接な連携により診療を進めていくことが今まで以上に必要とされている。このような状況に対応すべく,我々は診療,研究体制の一層の充実に努めている。当科では,平成22年7月に泌尿器科診療科長として,武中篤教授が新しく就任されて約1年が経過し,診療,研究面での教室の方針を実践する年度となった。
外来診療では,月曜日から金曜日まで毎日,初再診(水曜日は紹介初診なし)を行っている。初診は講師以上のスタッフが担当し,それぞれ曜日指定としている。再診には,曜日を指定した専門外来を設置している。専門外来の種類としては,癌外来として腎癌,腎盂尿管癌,膀胱癌,前立腺癌,精巣腫瘍外来を設置しており,癌外来以外には,排尿障害,小児泌尿器疾患,女性泌尿器疾患外来を設置している。これらは,その領域を専門としているスタッフが担当している。月,水,金には血液透析を担当しており,大学病院での治療が必要な維持透析症例や,急性腎不全症例の治療を行っている。治療方針決定と卒後教育のため,週2回のカンファレンスを通じて前週の手術復習と,入院患者,外来問題症例における診療方針を決定している。癌診療に関しては,最新のエビデンスに基づいた,当科における診療指針を平成22年度末に完成し,これを基に各症例での方針決定を行っている。
治療面ではまず手術治療において,平成22年10月に当院初のロボット支援手術である,前立腺癌に対する前立腺全摘除術(RARP)を施行後,月に4~5例のペースでRARPを施行している。また,早期腎細胞癌に対する腎温存かつ低侵襲手術である,ロボット支援腎部分切除術(RPN)も全国に先駆けて開始した。当院ではロボット支援手術を,診療科の垣根を越えた横断的組織である低侵襲外科センターの枠組みの中で行っていて,今年度はセンター機能が順調に起動し始めた年度であった。当センターでは,ロボット支援手術を行っている4診療科を中心に,麻酔科,看護師,MEなど全診療科,全職種に門戸を開いたカンファレンスを月2回行い,術前,術後検討,テーマを決めた勉強会を施行している.また,全国初のロボット支援手術に関する教科書を,全診療科,全職種の立場から発刊した.
昨年度から全面的に当科で担当することとなった副腎に対する腹腔鏡手術に関しては,内分泌内科と連携をとりながら順調に症例数をのばしている。内分泌内科とは月1回副腎カンファレンスを行い,術前,術後症例検討と,テーマを決めた勉強会を行っている。その他については昨年度の病院年報に記載されている手術治療に関して,手技や術式の改良を重ねながら,より多くの症例で実践している。即ち,まず良性疾患に関して述べると,腎尿管結石に対しては,最新鋭の体外衝撃波破砕術(2008年9月導入),ホルミニウムレーザー,超音波砕石装置使用の内視鏡手術を施行している。前立腺肥大症に対しては,従来行っていたバイポーラ電気メスを使用した内視鏡手術から,最新の術式であるレーザーによる前立腺核出術へ完全に移行した。尿失禁に対しては,最新の術式である尿道つり上げ術を導入している。小児泌尿器手術に関しては,症例によっては本邦屈指の著名な専門医を招聘し,直接手術指導を受けながら,手術手技の向上に努めている。次に悪性疾患に関して述べると,膀胱癌に対する内視鏡手術,浸潤癌に対しては尿路変更を伴う開放手術を施行しており,特に代用膀胱適応症例に対しては,積極的にその術式を導入している。前立腺癌に対しては放射線療法にも積極的に取り組んでおり,放射線科との合同治療である密封小線源療法は順調に症例数が蓄積した。腎や尿管などの上部尿路悪性腫瘍に対しては,腹腔鏡下手術をスタンダード治療とし,低侵襲手術を目指して努力している。腹腔鏡下手術に関しては,良性疾患である腎盂尿管移行部狭窄症に対しても積極的に施行し,良好な成績を得ている。
手術以外に治療として,以前より国内では当科が最も早く手がけている,神経因性膀胱患者に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注射を継続して行っている。尿失禁の軽減,自己導尿回数の減少等の良好な成績と高い安全性を得ている。現在,その適応を基礎疾患のない過活動膀胱患者にも拡大しており,高い治療効果と安全性を得ている。薬物治療として,尿路上皮癌に対する多剤併用全身化学療法や,ホルモン抵抗性前立腺癌に対する全身化学療法,進行腎癌に対する分子標的薬治療を積極的に施行し,良好な成績を得ている。その他,他科疾患が原因の尿管狭窄や水腎症に対して,尿管ステント留置や腎瘻造設を行い,腎機能の改善や生活の質の向上に努めている。
今後も診療,研究両面から更なる質の向上を目指し,地域への貢献ができるように,これからの責務を果たしていきたいと考えている。

鳥取大学医学部附属病院 泌尿器科 瀬島健裕