眼科

 平成23年度の当科の現況を振り返る。
手術に関しては、当院手術室の改築工事などの影響もあり、手術件数は大幅な増加のあった前年に比較するとやや減少しているものの、今年度も2400件を超える手術件数となった。
白内障に関しては、前年同様クリティカルパスを適用し白内障手術入院の短期化を図り、充実した白内障手術機材を用いて平日はほぼ毎日白内障手術を主体に眼科手術が行われている状態となっている。
 わが国では近年、加齢黄斑変性や増殖糖尿病網膜症などの眼内新生血管を生じる疾患に対し、血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療が行われているが、当科でも加齢黄斑変性に対する従来の光線力学療法に加え、積極的に眼内新生血管を生じる疾患に対し抗VEGF療法を施行している。それにともなう手術(硝子体内注射)が盛んに行われているが、今年もその件数はさらに増加した(496件)。今後も高齢者や糖尿病網膜症の患者の増加に伴い、これらのニーズはますます増加することが予想され、手術件数増加が期待される。またその治療効果の評価のため網膜蛍光造影検査やOCTといった外来検査の増加も予想されるところである。
また当施設は山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も持っている。臨床所見のみでは診断のつきにくい感染性角結膜疾患に対し、Real-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRは微量のサンプルから病原体を検出でき、病原体の量を数値化できることから治療効果の判定にも有用な検査である。この方法は当科で独自で立ち上げたものである。このため、山陰のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例を多数紹介いただいている。
また角膜移植においても従来主流であった全層角膜移植に加えて、近年注目されている角膜内皮移植もH20年度より導入し行っている。角膜内皮移植は、角膜上が無縫合であるため、全層角膜移植に比べ大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを軽減できるというメリットがある。乱視が軽減できることで、従来の移植方法より患者様の術後の見え方の質(Quality of vision)を向上できることが期待され、今後もその手術件数は増加することが予想される。
以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。高齢化に伴い白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の疾患は更に増加することが予想され、今後のさらなる患者数・手術件数の増加に対応するためには、引き続き十分な設備投資と検査員等スタッフの増員・関連病院との連携などが不可欠である。

(唐下千寿)

23年度手術件数

 
手術名 23年度手術件数
白内障関連手術 703
網膜光凝固術 307
硝子体関連手術 299
硝子体内注射 496
緑内障手術 106
角膜抜糸術 48
眼瞼形成手術 83
エキシマレーザーによる角膜切除術 51
斜視手術 49
涙嚢鼻腔吻合術および涙道狭窄関連手術 33
涙点プラグ挿入術 29
網膜復位術 31
角膜移植 27
翼状片手術 39
角膜潰瘍掻爬術 16
角膜・強膜異物除去術    4
虹彩光凝固術 12
角膜・強膜縫合術 6
その他 68
合計 2,407