歯科口腔外科
当科は口腔、顎、顔面、頸部に発生する種々の疾患を対象とし、外科のみならず、口腔全般にわたる、いわゆる「口腔科」として対応しています。具体的な疾患としては、歯牙疾患はもとより、口唇・口蓋裂などをはじめとした先天異常、顎顔面外傷、顎変形症、炎症、嚢胞、顎関節疾患、唾液腺疾患、神経および味覚異常、口腔粘膜疾患、口腔悪性新生物など多岐にわたります。
口唇・口蓋裂は外表奇形として最も高頻度に認められる疾患で、日本人は約1/500人の頻度で発症します。当科で加療した口唇・口蓋裂患者は昭和42年の当科開設以来、660例に達しています。口唇・口蓋裂にて出生し、当科を紹介されると、まずは保護者へオリエンテーションを行います。時期をみて口唇形成術および口蓋閉鎖術を行った後、言語聴覚士による言語治療を開始します。口唇・口蓋裂患者は上顎劣成長による咬合不全や審美障害をきたすため、矯正専門医による顎矯正も行っています。生後から成人になるまで当科で治療を行います。このような一貫した治療を行えるのは当院の特徴です。
近年顎変形症患者に対する顎矯正(上顎および下顎の外科的治療を含む矯正)は全国的に増加傾向にあります。当院は自立支援法顎機能診断施設基準の届出医療機関であるため、保険診療で顎矯正が行えます。本年度より矯正専門医が当科に赴任し、自費の一般矯正および、顎矯正治療を行っています。顎変形症の上下顎骨切り、の治療もレベルの高い治療を行っております。
口腔がんの治療に関しては、咀嚼、嚥下、発語機能温存を目的に、超選択的動注療法をはじめとする化学療法によって、可及的に最小限の手術あるいは保存療法を目指しています。手術をしても、摂食障害が残っては楽しみが減ってしまいます。術後は経口摂取(固形物摂取)ができるまで可能な限り管理をしております。機能温存が困難な場合でも、遊離皮弁や顎補綴、インプラントやエピテーゼを用いることで、機能および整容的な回復に努めています。
また当科は先進医療施設基準をみたしており、腫瘍、骨髄炎および外傷等による広範囲の顎骨欠損患者に対して、骨移植および再建後のインプラント義歯の作成を行うことができます。
その他顔面欠損に対するエピテーゼはとても工程が長く煩雑ですが、作製後に患者は外出する機会が増え、固形物を摂取できるようになることにともない、笑顔もみられるようになります。
齲蝕や歯周炎による歯牙の欠損に対しては、患者ニーズの高まりとともに、上顎洞挙動術(サイナスリフト)なども積極的に行い、デンタルインプラントを私費診療で行っています。近年インプラントによる咬合回復は一般的となってきましたが、トラブル(おとがい部の知覚異常や、上顎インプラント埋入による上顎洞炎など)も増えています。当科ではシムプラントシステムを用いることで、顎骨の重要な神経や空洞をさけて手術を行うことができます。またこのシステムに関しては、患者様により安全にインプラント治療を受けていただけるように、他院にもご利用いただいております。
現代はストレス社会であることから、生活習慣病である顎関節症は増加しており、やや女性に多くみられます。当科では顎関節疾患患者に対し、まず薬物療法や理学療法を行い、場合によってはスプリント療法で対応しております。また症例によっては顎関節洗浄を行うことで、良好な成績をあげています。
最後に、当科は歯科衛生士を中心に、入院患者(糖尿病、心・血管疾患患者、化学療法患者、嚥下障害患者や人工呼吸器管理患者)の口腔ケアを医師・看護師などの多職種との連携の下に積極的に行っております。口腔ケアをすることで口腔由来の合併症を予防し、入院患者様の早期退院に貢献しております。
当科の果たすべき役割は幅広く今後さらに重要になると思われます。
歯科口腔外科 統括医長 木谷 憲典