心理療法室
平成23年度の心理療法室の活動状況を報告致します．
心理療法室では，主として統合失調症圏の患者さんを対象に，本学大学院臨床心理学専攻の最上多美子教授の指導を仰ぎながら，認知矯正療法（NEAR）という神経認知機能のリハビリテーションを実践しています． NEARは言語記憶，作業記憶，遂行機能といった神経認知機能の障害を改善することに焦点を当てながら，就労，学業などの社会機能と呼ばれる，日常生活の基礎となる能力を回復することを目指した認知リハビリテーションの手法です．平成19年1月にNEARを導入して以来，地域の関連病院（養和病院，米子病院，安来第一病院，渡辺病院）の積極的なご協力を頂き，参加人員は延べ150名（ドロップアウトされた方も含みます）となりました．神経認知機能の向上を図るための多様なソフトウェアを課題として利用しています．週2回のソフトウェアを用いた認知課題セッションに週1回の言語セッションを組合せることによって日常生活への般化generalizationを目指しています．また，治療の質を保つために，3ヵ月に1度の頻度で地域ミーティングを行い，情報の共有化にも努めています．現在，米国Yale大学に留学中で，認知リハビリテーションを研究中の池澤聰先生にもミーティングにSkypeで参加して頂き，活発な討論を行っています．こうしたメディアを利用して，山陰以外の地域でNEARを実践されるている方々と地域の枠を超えた形で交流することを計画中です．今後，NEARを保険点数化することが大きな目標になりますが，その効果を，より厳密に検証する必要があるため，無作為割付研究（RCTデザイン：期間6ヵ月）を用いた研究を施行中です．
しかし，神経認知機能を対象とするNEARだけでは，統合失調症の患者さんの真の社会機能（自立した生活，就労や就学，円滑な対人関係等を営める能力）を向上させることが難しいことも最新の研究結果から明らかになっています．この事実は，統合失調症で生じる機能障害がいかに深刻であるかを如実に物語るものです．そこで注目されるようになっているのが，社会認知機能という，脳内では神経認知機能とは別のシステムで処理されている認知機能があります．この認知機能は，人の感情や意図を理解するためのかなり複雑な機能で，患者さんの社会転帰に強く影響することが分かっています．そのため，心理療法室では，社会認知機能の改善を目指した認知行動療法プログラムである“社会認知ならびに対人関係のトレーニング” Social Cognition and Interaction Training，SCITを実践すべく，現在その評価法の全国的な研究班に加わり，評価尺度の検討を行っています．
平成23年度は，NEARの参加者数が増えるとともに論文や学会での発表など研究面での成果が生まれています．今後はNEARのRCTおよび神経機能画像を用いた生物学的効果の研究を推進するとともに，SCITの開始を目指した準備を着実に進めることを予定しています．
・平成23年度の業績（発表論文および訳書）
1) 兼子幸一 認知矯正療法の効果 精神科治療学 26巻，1517-1524，2011．
2) 中込和幸，兼子幸一，最上多美子監訳 社会認知ならびに対人関係のトレーニング (SCIT, Social Cognition and Interaction Training) 星和書店，東京，2011．
3) Ikezawa S, Mogami T, Hayami Y et al., The pilot study of a Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation for patients with schizophrenia in Japan. Psychiatry Research, 195:107-110, 2012.
（兼子幸一）
心理療法室では，主として統合失調症圏の患者さんを対象に，本学大学院臨床心理学専攻の最上多美子教授の指導を仰ぎながら，認知矯正療法（NEAR）という神経認知機能のリハビリテーションを実践しています． NEARは言語記憶，作業記憶，遂行機能といった神経認知機能の障害を改善することに焦点を当てながら，就労，学業などの社会機能と呼ばれる，日常生活の基礎となる能力を回復することを目指した認知リハビリテーションの手法です．平成19年1月にNEARを導入して以来，地域の関連病院（養和病院，米子病院，安来第一病院，渡辺病院）の積極的なご協力を頂き，参加人員は延べ150名（ドロップアウトされた方も含みます）となりました．神経認知機能の向上を図るための多様なソフトウェアを課題として利用しています．週2回のソフトウェアを用いた認知課題セッションに週1回の言語セッションを組合せることによって日常生活への般化generalizationを目指しています．また，治療の質を保つために，3ヵ月に1度の頻度で地域ミーティングを行い，情報の共有化にも努めています．現在，米国Yale大学に留学中で，認知リハビリテーションを研究中の池澤聰先生にもミーティングにSkypeで参加して頂き，活発な討論を行っています．こうしたメディアを利用して，山陰以外の地域でNEARを実践されるている方々と地域の枠を超えた形で交流することを計画中です．今後，NEARを保険点数化することが大きな目標になりますが，その効果を，より厳密に検証する必要があるため，無作為割付研究（RCTデザイン：期間6ヵ月）を用いた研究を施行中です．
しかし，神経認知機能を対象とするNEARだけでは，統合失調症の患者さんの真の社会機能（自立した生活，就労や就学，円滑な対人関係等を営める能力）を向上させることが難しいことも最新の研究結果から明らかになっています．この事実は，統合失調症で生じる機能障害がいかに深刻であるかを如実に物語るものです．そこで注目されるようになっているのが，社会認知機能という，脳内では神経認知機能とは別のシステムで処理されている認知機能があります．この認知機能は，人の感情や意図を理解するためのかなり複雑な機能で，患者さんの社会転帰に強く影響することが分かっています．そのため，心理療法室では，社会認知機能の改善を目指した認知行動療法プログラムである“社会認知ならびに対人関係のトレーニング” Social Cognition and Interaction Training，SCITを実践すべく，現在その評価法の全国的な研究班に加わり，評価尺度の検討を行っています．
平成23年度は，NEARの参加者数が増えるとともに論文や学会での発表など研究面での成果が生まれています．今後はNEARのRCTおよび神経機能画像を用いた生物学的効果の研究を推進するとともに，SCITの開始を目指した準備を着実に進めることを予定しています．
・平成23年度の業績（発表論文および訳書）
1) 兼子幸一 認知矯正療法の効果 精神科治療学 26巻，1517-1524，2011．
2) 中込和幸，兼子幸一，最上多美子監訳 社会認知ならびに対人関係のトレーニング (SCIT, Social Cognition and Interaction Training) 星和書店，東京，2011．
3) Ikezawa S, Mogami T, Hayami Y et al., The pilot study of a Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation for patients with schizophrenia in Japan. Psychiatry Research, 195:107-110, 2012.
（兼子幸一）