看護部

 平成22年度、看護部では「看護でみせる療養生活支援トップクラス」を目指し、療養生活支援に視点をおいた看護の実践による、顧客満足を得るための取り組みを行ってきた。平成23年度は、看護部に求められる多様な役割を確実に果たすこと、そして個々の役割を統合し、看護部の蓄積されたシステムを機能させ、組織力を強化していくことを課題とした。スローガンを「役割の遂行と統合―蓄積した看護システムの活性化による組織力の強化―」と掲げ、以下の4つを重点目標として取り組み成果を得た。

  • 目標1:新教育体制(教育臨床循環型グローアップシステム)による人材育成を展開し看護師(新人看護師・指導者)が満足する
     複数の領域を体験するローテーション研修を中心とした新教育体制は、新人の看護実践能力を向上させ、スーパーナースの育成は看護実践能力と指導力を備えた教育指導者の育成・教育担当副師長の負担軽減となり、これまでの新人教育の課題解決に繋がると考えた。
     そこで、平成23年度は全看護師が新教育体制について理解し、それぞれの役割を発揮し新人教育プログラムを実践することで、新人看護師の看護実践能力の向上をはかり、新人看護師および指導者の満足を得ることを目標として取り組んだ。
     各病棟では、新教育体制と各役割について理解し、各役割別のチェックリストに沿って新人指導役割を実践したことで、新人基礎看護技術到達率は98%と平成22年度より5%上昇した。また、指導者の満足度達成率は83%でやや低値であったが、新人看護師の満足度は93%の高い達成率となった。
  • 目標2:看護サービスシステム(固定チーム ナーシング・マイナース・看護過程)を活性化し、ベッドサイドケアの充実により患者が満足する
     稼働率・病床回転数増加、平均在院日数の短縮、手術件数増加により、患者の入退院、転入・転出は頻繁であり担当看護師を中心とし、チームメンバーの連携したケアが提供されることが重要であり、個々が与えられた役割を自覚し責任を持って遂行することが求められる。
    そこで、平成23年度は既存の看護サービスシステム(固定チームナーシング、マイナースシステム、看護診断)とベッドサイドケアの活性化を図るために、各部署における実践状況や個人の役割行動を再評価し、改善する取り組みを行った。看護サービス委員会では担当ナース役割29項目の見直し、固定チームナーシングにおける事例検討会の推進、チーム会・リーダー会の定期的な開催を支援し、各セクションの取り組みをバックアップした。その結果、患者満足度調査結果は88%と平成22年度に比較し4%の上昇を図ることができた。
  • 目標3:「これだけは誇れる」質の高い接遇スキルを向上させ顧客(看護職・患者・家族)が満足する
     平成22年度、療養生活トップクラスを目指し患者満足度向上を図った結果、感謝のご意見が増え、看護師にフィードバックされた。しかし、その一方で看護師の接遇を見直してみると、適切な接遇スキルが十分発揮されていない現状が見られた。そこで、平成23年度は、各自の接遇スキルの向上と各看護単位のホスピタリティを決定し、上質な看護実践を提供することで、看護職自身や患者・家族の更に高い満足につなげることができた。取り組みの結果から、接遇の基本は身だしなみであるが、時がたてばルーズになるため、管理者の指導、注意しあう職場風土作りとホスピタリティ;おもてなしの心は継続して取り組むとともに、安心して医療を受けられる倫理観を持った看護職としての対応を心がける必要がある。
  • 目標4:転倒・転落事故防止対策の実践で影響レベル3b以上の事故0を目指す
     看護部では転倒・転落事故防止のためにアセスメントシート・坐位バランスシートによるアセスメントを行い、RCA・4M4Eマトリックス・KYTを活用した分析と
    対策を実践している。また、平成22年度度より転倒・転落チームを結成し他職種で転倒・転落予防に取り組んでいる。
     平成23年度はこれまで看護部が取り組んできた転倒・転落事故防止対策を総括的に実践していくとともに患者教育用DVDの使用、転倒・転落予防チームとの連携を図り、骨折・頭部外傷事例などの影響レベル3b以上の事故発生の減少に取り組んだ。
     各病棟で、転倒・転落予防フローチャートを作成し、病状変化時を明文化するなどアセスメントタイミングをより明確にした。その結果、転倒・転落事故3b以上の報告数は9件と目標達成はできなかったが、転倒・転落件数は387件で平成22年度の455件から15%減少させることができた。また、全患者のうちの転倒された患者の割合も平成22年度の0.24%から0.18%に減少した。
     

平成23年度の新たな取り組み

  1.  パートナーシップ・ナーシングシステムの導入
    パートナーシップ・ナーシングシステムは、持ち味や得意分野の異なる看護師がパートナーを組み看護業務をしていくことで、互いの特性・能力を活かし、かつ互いの資源を共有補完しあい相乗効果の業務が提供できるシステムである。目的を ①継続受け持ち看護師役割の遂行 ②患者・家族のニーズに沿った迅速なケアの提供 ③業務の効率化 ④超過勤務の削減 ⑤OJTの活性 ⑥スタッフ間のコミュニケーションの充実 ⑦インシデント予防 ⑧実践力の一定化として、6セクションに10月から導入した。その結果、超過勤務の短縮、インシデント発生の減少など人材育成に期待できる結果が得られた。次年度は看護ケアの質の向上をめざし、全セクションに導入を試みたいと考える。
  2. 素晴らしい看護発見箱の設置
     看護を振り返る中で悪かったことに対する振り返りは多いが、良かったこと、素晴らしい対応(看護)などの評価は少ない。看護職という仕事の幅は医療の他の専門職よりはるかに広く看護が複雑性を増していけばいくほど仕事の全容はますます見えにくくなってくる。このような状況を阻止するために、「素晴らしい看護発見箱」を各セクションに設置し、看護師の素晴らしいと感じる行為を書きとめ、言語化することで「看護の見える化」と「スキルアップ」「モチベーションの向上」に繋げた。  
    5件/月程度の投函があり「いつも笑顔でとても仕事が早い」「丁寧ですどんな忙しい時でも敬語で対応」「患者さんにとても親身に話を聞かれる」「入室前に室温を上げベアハッガーでベッド、掛物を温め、体温低下予防に努めている」などが報告されている。
  3. ベッドコントロールセンター開設
    入院患者の速やかなベッド確保と空床の公平かつ有効活用を図ることを目的としてベッドコントロールセンターを12月に開設した。
    組織体制を管理運営組織部門に位置づけ、退院調整を行っている医療福祉支援センターの看護師長を併任とした。これまで看護部が行っていたベッドコントロールで効率的であったフロア間の調整を活かしたグループで調整していく体制とした。
    各グループには看護師長のリーダーとサブリーダーを置き、リーダーは月曜日から金曜日の毎日、16時45分から医療福祉支援センター看護師長が開催するベッドコントロール会議へ出席している。会議では当日と翌日の入院患者の入床病床の確認、緊急入院の場合の後方病床の決定、前日の緊急入院患者のベッドコントロールの必要性の有無または調整、退院延長患者のリストアップ及び医療福祉支援センターへ退院調整の依頼等を行っている。
    その成果として、平均稼働率を90%以上に上昇することができた。
  4. 看護の実践モデルとして質の高い看護サービスを提供する認定看護師
    現在、がん専門看護師 1名、糖尿病看護、感染管理、皮膚・排泄ケア(2名)、不妊症看護、新生児集中ケア、救急看護、手術看護、疼痛緩和、緩和ケア(2名)の合計12名の専門・認定看護師が活躍している。専門・認定看護師は現場の実践モデルとして質の高い看護サービスを提供し、院内だけでなく、地域の看護職員へも研修会を開催し指導を行っている。また、認定看護師が毎月1回集まり「専門・認定看護師会」を開催し活動状況の情報交換を行うことで連携を深めている。
    *現在の看護専門外来
    ・フットケア外来、リンパ浮腫外来、不妊看護相談外来、助産外来、ストーマケア外来
  5. オープンスクール(とりだい看護・手術看護)の開講
     平成23年度より病棟スタッフの専門的知識と技術習得のために開催している分散教育を院内スタッフ、地域看護師にも拡大し看護師のブラッシュアップをはかる目的で「鳥大看護オープンスクール」を開講した。院内の看護師をはじめ、地域看護師も参加し専門的な技術を体験できる機会となった。
    また、手術部では、麻酔介助をはじめとし、診療科ごとのチーム制による手術介助を実践することで、根拠に基づくより質の高い手術看護の提供を目指している。 
    こうした活動を、多くの手術に携わる看護師と共有し深めることで、さらに質の向上をはかっていくことを目的として、他施設の手術に携わる看護師の手術部見学や体験を積極的に受け入れる活動を開始した。鳥取県全域の手術室看護師が参加し、手術看護の質の向上に貢献できた。
  6. RST(呼吸ケアサポートチーム)活動
     呼吸器装着患者の早期抜管、院内全体での呼吸療法における医療安全と呼吸器ケアのレベルアップを図ることを目標に発足した。メンバーは、医師、看護師(集中ケア認定看護師)、臨床工学技士、理学療法士、歯科衛生士で構成。集中ケア認定看護師を中心に院内を組織横断的に活動していく。
  7. 現場の意見を業務改善に活かす
    ① 若手看護師と看護部長が語る会
     10名の若手看護師と看護部長が毎月定例会を行い、さまざまなテーマで意見交換を行った。管理者の視点でなく、現場の生の声が反映され業務改善へつながった。
    ② 副看護部長の担当部署を決め定期的なラウンド
    現場業務状況の確認、申し送り時間・内容の改善、接遇実態評価、火災発生時シミュレーション確認などを行なった。直接タイムリーに指導ができ組織活性化につながった。
  8. 看護師のモチベーションアップ
    処遇改善として、看護師に係る特殊勤務手当に、手術部勤務手当、HCU勤務手当、認定看護師、専門看護師手当を新たに支給した。

継続した取り組み

  1.  継続教育  
    院内研修は99回開催し、新人研修は15回開催した。特に、リーダー育成研修、副看護師長育成研修に力を入れた。看護研究業績は93演題(昨年度83演題)をまとめ、院内発表31演題、院外発表62演題であった。院外研修・学会の参加は総数857人(昨年度571人)で毎年増加している。
  2. 院内認定看護師制度
    安全で確実な看護技術が実践できる看護師育成のために、院内認定看護師制度を設けている。これまで、静脈注射、末梢静脈留置針、男性導尿の認定を行ってきました。平成23年度より造影剤静脈注射、輸液ポンプ・シリンジポンプ指導者、褥瘡専任の認定を設け、新たにそれぞれの技術に認定バッチを配布した。
    当院の認定試験に合格した院内認定看護師は、認定バッチを付けエビデンスに基づいた看護技術を日々実践している。
  3. 働きやすい職場づくり
    看護職員の定着化に向け、労働時間管理として時間外勤務時間削減に向けた活動を行った。時間外勤務データ分析と各部署の聞き取り調査から様々な現状の問題点が抽出され以下の対策を実施した。①特定入院料算定の部署より入院患者数に応じ、応援システムによるリリーフ体制の強化②IC記録、退院支援に関するテンプレートの見直しで、効率的かつ記録時間の短縮③日勤、準夜業務の補完のため、遅出勤務、早出勤務を組み合わせた勤務計画の推奨④病棟配置看護助手による看護ケア補助業務への拡大や、薬剤搬送の業務見直しなどにより減少につながった。
  4. 災害対策
    東日本大震災の教訓から、鳥取大学医学部附属病院災害時マニュアル(72時間患者・家族・職員対応)を事務部・看護部協働により作成した。交通遮断時・停電時それぞれに対し、食事、生活用品、宿泊対応など具体的行動や対応策を盛り込んでいる。
  5. 山陰男性看護師情報交換会
     平成23年度より山陰男性看護師情報交換会を発足。組織的な活動により男性看護師にとって魅力的な職場環境づくりをめざす目標のもと、男性看護師のやりがい感や個人的な成長と質の高い看護を提供するための具体的な方法を検討した。山陰地区より10病院から28名の参加があった。