3-3-18. 心理療法室
平成22年度の心理療法室の活動状況を報告致します。
心理療法室では,主として統合失調症圏の患者さんを対象に,鳥取大学大学院臨床心理学専攻の最上教授の指導を仰ぎながら,認知矯正療法(NEAR)を行っています。 NEARは記憶,注意力,問題解決機能といった認知機能の障害を改善することに焦点を当てながら,就労,学業などの社会機能と呼ばれる,日常生活の基礎となる能力を取り戻すための認知リハビリテーションの手法です。
平成19年1月にNEARを導入して以来,地域の関連病院(養和病院,米子病院,安来第一病院,渡辺病院)の積極的なご協力を頂き,参加人員は延べ130名となりました。設備面では,コンピュータを6台揃え,多様な神経認知機能に対応する様々なソフトウェアを課題として利用しています。週2回のソフトウェアを用いた認知課題セッションに週1回の言語セッションを組合せることによって日常生活への般化generalizationを目指しています。また,治療の質を保つために,3ヵ月に1度の頻度で地域ミーティングを行い,情報の共有化にも努めています。現在,山陰以外の北海道,関東,関西などの地域でもNEARが実践されるようになっており,地域の枠を超えた形での交流の必要性が高まっており,現在,その形式を検討中です。今後,保険点数化を目指すためにも,広範囲でのネットワーク作りが重要になると考えられます。
NEARの活動の拡がりとともに,研究成果も着実に生まれています。統合失調症圏の患者さんに認知矯正療法を実践して頂くことによって,対象とする神経認知機能6領域のうち,言語記憶,作業記憶など5領域において有意な改善が認められました。この成果は平成21年に精神医学誌に掲載されました(池澤聰ほか,2009,第51巻:999‐1008)。対象者を51名に増やした結果が英文誌Psychiatry Researchに投稿し,受理されました。さらに,認知矯正療法の効果を,より厳密に検証する必要があるため,無作為割付研究(RCTデザイン:期間6ヵ月)を用いた研究を開始し,現在5名の方が修了しておられます。
NEARの結果や,今後試行予定である社会認知機能の改善を目指した認知行動療法プログラムである“社会認知ならびに対人関係のトレーニング” Social Cognition and Interaction Training,SCITについて,第32回日本生物学的精神医学会のシンポジウム「精神疾患の認知機能障害」で発表しました(平成22年10月,小倉)。
平成22年度は,NEARの参加者数が増えるとともに論文や学会での発表など研究面での成果が生まれています。今後はNEARの効果判定の精度を上げるとともに,社会機能,QOL,脳機能への影響を探る予定です。さらに,精神症状,罹病期間,薬物,内発的動機付け,メタ認知などの臨床的背景因子を用いて,NEARの治療効果の予測因子の同定も行っていきたいと思います。