3-2-13. 頭頸部診療科群

耳鼻咽喉科頭頸部外科が扱う領域は非常に範囲が広く,機能別では聴覚,平衡,味覚,嗅覚,咀嚼・嚥下,呼吸機能,発声,構音などの社会生活に必要不可欠な機能が含まれ,また,疾患別ではこれらの機能障害のほかに,花粉症などのアレルギー疾患,中耳炎や副鼻腔炎などの炎症性疾患,頭頸部腫瘍など様々な疾患が含まれる.したがって特定機能病院としての高度な医療水準と研究水準を維持するために,外来診療では専門外来制を充実させ,また入院治療では専門医をチーフとするチーム医療を行っている.
最近の特色としては、頭頸部腫瘍症例に対して適応を十分に考慮し、内視鏡手術を施行していること、悪性腫瘍では、根治性のみならず機能温存を考慮し、手術治療、全身化学療法、放射線治療、超選択的動注療法を組み合わせることで良好な結果を得ている。耳科領域では、人工内耳植え込み術に始まり、側頭骨・頭蓋内の進行腫瘍に対しても、当院脳神経外科との協同で根治手術に積極的に取り組んでいる。睡眠時無呼吸に代表する睡眠障害診療では、専用の睡眠検査室・検査システムを有し、中国四国地方の大学病院で唯一の学会認定を取得していることなどがあげられる。

手術

耳科手術(鼓室形成術,あぶみ骨手術,顔面神経減荷術,人工内耳),鼻副鼻腔手術(鼻内内視鏡手術,鼻涙管形成術),頭頸部癌手術(遊離移植再建を伴う拡大切除術,縦隔切開を伴う甲状腺癌手術等),音声外科手術(喉頭微細手術,甲状軟骨形成術,披裂軟骨内転術),嚥下機能改善術(輪状咽頭筋切断術,喉頭吊り上げ術),扁桃摘出術(咽頭形成術を含む),頭蓋底手術(前頭蓋底手術,側頭骨亜全摘手術等)等総ての領域に万遍なく取り組みほとんどの耳鼻咽喉科頭頸部外科手術に対応できるよう取り組んでいる.手術総数も年間約700例の手術を行い,ナビゲーションシステムを用いた鼻内視鏡手術,中耳手術など先端の手術手技に取り組んでいる。

各領域別の診療内容・トピックスを以下に示す。

(1)めまい・難聴

めまいに関わる様々な検査を集約的に行ない,時間経過と共に変化する症状・所見を早期に捉えることを目標にしている.中央検査部門にイクイセンターを立ち上げ、平衡神経グループがバックアップしながら平衡機能検査全般を生理検査部に依託するシステムで行っている。センターから得られたデーターを基に平衡機能障害患者の診断、治療、リハビリなどを行っている。

(2)耳科(中耳疾患)

中耳手術の主な対応疾患は,真珠腫性中耳炎・耳硬化症・人工内耳適応症例・頭蓋底外科である.鼓室形成術は年間約70例行っており、短期間の入院で積極的に聴力改善手術を行っている.ナビゲーションシステムはコールブリとステルスステーションの2種あり、教育・臨床に効果をあげている.小児では、人工内耳埋め込み術を行い、良好な経過をたどっている。

(3) 幼児難聴・補聴器

0歳からの小児の聴覚スクリーニング(他覚的聴力機能検査)を発達とともに行い、難聴の診断や補聴器フィッティング,人工内耳手術後のリハビリテーションを行っている.教育関係・福祉関係者とも密に連携して難聴児により良い環境を提供できるよう努力している.

(4) 鼻科(鼻・副鼻腔・アレルギー)

鼻・副鼻腔手術では,年間150例以上の内視鏡下鼻副鼻腔手術を行っている.アレルギー性鼻炎の治療法については抗原特異的免疫療法についての治療,研究を行っている.特に短期間で維持量まで到達する急速免疫療法は現在までに100例以上の症例に行い,高い有効性と安全性を認めている.内視鏡下に鼻内を観察することで、確実・安全に手術を進めることができる上に、教育的にも優れた手術法である。併せて旧来の鼻副鼻腔手術と比べて入院期間は短縮され、術中や術後疼痛も軽減しているため、患者の得られるメリットは明らかに大きい。現在は、良性手術のみならず早期の悪性腫瘍手術にも応用は拡大している。

(5) 睡眠障害,睡眠時無呼吸

日本人の睡眠時無呼吸の原因は肥満よりも,上気道疾患や小顎症などによることが多い.日中の眠気を誘発するナルコレプシーなどの睡眠障害も取り扱っている。2008年6月より米国の睡眠学会の基準も満たす2ベッドの終夜睡眠ポリグラフ検査システムを稼動させている。睡眠時無呼吸患者では、上気道の詳細な評価と睡眠検査データーを基に、個々の患者に手術適応ならび保存適治療など最適な治療法を選択している。

(6) 口腔・咽頭疾患

味覚障害,胃食道逆流症,扁桃炎などの疾患を対象とし,特にIgA腎症や掌蹠膿疱症を合併した扁桃病巣感染症に対する口蓋扁桃摘出術を積極的に行っている.

(7)喉頭・音声

主に音声障害を来す患者さんを対象としている.経鼻軟性ファイバースコープ、ストロボスコピー、発声機能検査装置、音声分析システム、さらにNBIシステムを導入し、高い診断精度を有している。手術には、1.声帯ポリープ、声帯結節、ポリープ様声帯、声帯嚢胞、喉頭癌などに対する喉頭微細手術。2.声帯麻痺に対する音声障害には、甲状軟骨形成術,披裂軟骨内転術。3.気管・声門下狭窄に対しる気管形成術などを行っている.保存的治療として言語聴覚士による音声治療も積極的に行っている.喉頭・音声科学領域で、全国的にも専門医の少ないこの領域での治療効果向上に期待が持てる。

(8)唾液腺

唾液腺腫瘍を中心に年間約30例の手術を行い,顔面神経麻痺に対する治療,大耳介神経耳介枝の温存を積極的に行っている.平成16年からは術前に表面コイルを用いた3テスラMRIを施行し,耳下腺腫瘍と顔面神経の評価を行い,有用性を確認している.

(9)嚥下障害

VF,VEなどの診断からリハビリ,嚥下改善術や誤嚥防止術を含めた嚥下手術を行っている.VFはリハビリ部言語聴覚士とともに行い,管理栄養士,薬剤師なども含めたチーム医療を積極的に行っている.年間のVF検査回数は約300件と,他科からの紹介患者が急増している.

(10)頭頸部腫瘍

頭頸部癌患者は、山陰はもとより兵庫県,岡山県北部からも多数来院している。治療方法には,手術治療,放射線治療,化学療法(抗癌剤)の3つの柱がある.治療法の選択には癌の根治性とともに、音声、咀嚼、嚥下などの機能温存を考慮して決定している.癌の摘出術後には再建術を要することが多く形成外科,外科など他科と共同し機能回復をめざした治療を行っている.頭頸部腫瘍領域では、内視鏡下手術の臨床応用を進めている。2010年3月にChinese University of Hong Kongと共同で,手術支援ロボットda Vinciを使用した前胸部アプローチによる完全内視鏡下甲状腺摘出術に成功した.当病院でも8月にda Vinciが導入され,頭頸部外科分野での今後の内視鏡手術が期待されている.鏡視下手術に習熟するためにトレーニングセンターを利用し、安全な手術を実践できるように努力している。この術式は、最小の切開範囲で最大の効果を生み出すことを目標としていて、術後創部の状態は他の方法に比べて卓越していると考えている。臨床応用でいる頭頸部外科領域の施設は全国的にも限られているため、今後も積極的に推進していく方針である。

(11) 外来化学療法

近年,癌化学療法は医療改革に伴い,入院から外来へと移行しつつある. 患者には社会生活を続けていただきながら,外来化学療法を安全,円滑に受けていただけることをめざしている.

教育・研修

後期研修生を対象に毎週医局会後にミニレクチャーをするなど研修プログラムを組んでいる。また、研修機関として日本耳鼻咽喉科専門医研修施設,日本気管食道科学会専門医認定施設,日本アレルギー学会教育施設,日本睡眠科学会睡眠医療認定医療機関に認定されている. 卒後研修として,環中海耳鼻咽喉科医会,日本耳鼻咽喉科学会地方部会,大山頭頸部癌研究会,大山めまい研究会,など積極的に研究会を開いている.これまで全国から数多くの著名な先生方に講演に来ていただいた.

統括医長 竹内 英二