3-2-25. 遺伝子診療科
当科では、遺伝性代謝異常症、遺伝性神経筋疾患、先天異常による脳障害、染色体異常などの小児領域に関する患者のみならず、成人領域における遺伝が関係する神経疾患、家族性腫瘍、循環器疾患などの疾患の遺伝カウンセリングを行っています。これらの疾患の患者さんは、それぞれの専門科で診断・治療を受けておられますが、家系内の方々にも同様の病気が発生する可能性や、次のお子様にもリスクがある場合があり、これらに対応するのが遺伝子診療科の役割です。
火曜日の午後に予約制による遺伝カウンセリング外来を開設しています。この外来では、臨床遺伝専門医を中心に、脳神経小児科、小児科、内科などの医師、保健学科の看護師に加え、臨床心理士が加わったチーム医療の体制で遺伝カウンセリングに対応しています。特に、発症前診断、家族性腫瘍、出生前診断などに関しては、臨床心理相談センター(菊池義人センター長)との連携をとり、心理的サポートも充実させながら対応しております。出生前診断は女性診療科(原田省教授)と連携し、絨毛を用いた遺伝子診断の体制を整えています。さらに、遺伝子診断にも積極的に取り組んでいます。原因の遺伝子が見つかっている遺伝病では、病院の特別医療費などを利用して生命機能研究支援センター遺伝子探索分野で、出来る限り遺伝子診断を行うようにしています。
平成22年4月から平成23年3月までの遺伝カウンセリングのクライアントは、家族性腫瘍、筋疾患などの遺伝病を中心に、31回の遺伝カウンセリングが行われました。脳神経小児科、歯科口腔外科、皮膚科、内分泌代謝内科などの診療科からの遺伝子診断依頼も増加しました。病院からの特別経費により、10以上の新たな遺伝病の診断システムを構築し、14の症例の遺伝子診断を実施しました。また、ポンペ病、先天性ミオパチー、先天性白質変性症などの出生前診断も実施しました。
現在、デュシャンヌ型筋ジストロフィー症などの16疾患の遺伝子診断が保険点数化されましたが、遺伝病のほんの一部にしかすぎません。今後、遺伝子診断に関しては、すでに先進医療となっている「筋緊張性ジストロフィー症の遺伝子診断」の実績を元に、さらに先進医療での遺伝子診断を広げてゆく方針です。さらに、出生前診断にも積極的に取り組んでゆける体制を構築してゆく予定です。
また、2011年2月に日本医学会から出された「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」に対応するために、病院内でワーキンググループを作って検討しました。本ガイドラインでは、今まで以上に各診療科での遺伝への対応が求められる内容とおり、来年度からゲノム医療部門などを設置して、さらに充実した遺伝医療を実施する答申を出しております。また、これらの実施のためには院内勉強会などによる遺伝知識の普及が不可欠となります。そのために、1月5日に第一回の院内勉強会を開催しました。これらの取り組みは、2012年1月11日の日本海新聞、さらに1月20日の読売新聞の医療ルネサンスに取り上げられました。さらに、臨床遺伝専門医などの充実も必要ですが、本年度は鳥取大学医学部附属病院では新たに2名の医師が本専門医を取得しました。
アンケート調査により各診療科から50を超える疾患の遺伝子診断の要望も出てきております。さらに、遺伝子診断の体制を充実させるとともに、各診療科でそれらの患者さんのに対応できるよう支援できる体制も整えてゆく予定です。遺伝子診療科は、遺伝子診断を全科に提供するとともに、発症前診断、出生前診断、保因者診断など、病気でない方々の遺伝カウンセリング体制を充実させます。鳥取大学医学部附属病院は、臨床遺伝専門医の研修施設として認定されています。当科は、臨床遺伝専門医を目指す方々の研修にも対応しながら、高度医療の体制の充実を目指します。
遺伝子診療科長 難波栄二