3-2-06. 第一外科診療科群

1.診療科の概要

第一外科診療科群は、消化器外科、小児外科で構成されており、消化器外科は、1)上部消化管、2)下部消化管、3)肝、移植、4)胆、膵、脾の4部門に分かれて活動しています。

2.診療科の理念

「内視鏡外科技術認定医、肝胆膵手術高度技能専門医、食道外科専門医など、高度な技術や技能を備えた専門医を育成し、地域医療に貢献する」を診療科の理念として掲げ、内視鏡手術の充実と拡大、食道癌や膵臓癌などの難手術のハイボリュームセンター化を推進しています。国立がんセンター、癌研有明病院をはじめ全国の大学、病院へスタッフクラスの医師を長期、短期に派遣し、手術手技の技術向上に努めています。

3.診療の特徴

消化器疾患(食道、胃十二指腸、小腸、大腸肛門、肝胆膵)、ヘルニア、小児外科疾患が診療の中心です。上部消化管、下部消化管、肝臓(移植)、胆膵脾、小児外科の5グループが専門性を持って診療に当たっています。症例ごとに徹底した診断、評価、反省を行っており、病-病、病-診連携を心がけ、患者さんの来院時、入院時、手術等の経過、および退院時には紹介もとの先生への返事を徹底しています。患者さんには退院後、御紹介いただいた先生を受診するよう指導しています。新患患者は診療科長ないし診療副科長が責任を持って診察し、検査、治療の方針を決定しています。

表1 外来診療日の一覧

新患若月 池口 池口
一般再来再来医再来医再来医再来医再来医
専門外来小児
乳腺
下部消化管
上部消化管
肝、移植
胆、膵
小児

4.診療および手術治療の基本姿勢

消化器癌治療

癌治療においては根治性とともに、手術後の生活の質を保証できる手術治療を選択し、術後の痛みが少ない腹腔鏡手術や胸腔鏡手術を積極的に行っています。

1) 食道癌

(1)手術治療:手術前化学療法を用いた生存率の向上を目指し、手術はほぼ全例腹臥位胸腔鏡・腹腔鏡を用いた低侵襲手術を行い、術後の痛みの軽減に役立っています。

h22第一外科

(2)化学放射線療法(CRT):高齢者や心肺合併症を有する患者様には放射線治療+制癌剤治療を行い、手術治療に匹敵する良好な成績を得ています。比較的侵襲が少なく、かつ癌が消失、縮小する比率(奏功率)が高いのが特徴で、入院中の食道癌患者の1/2は化学放射線療法(CRT)で治療されています。

2) 胃癌

(1) 低侵襲手術:早期胃癌や一部進行胃癌で低侵襲な腹腔鏡下手術を行います。また、幽門輪を温存し幽門機能を温存した幽門輪温存胃切除により、食後の低血糖などの不快なダンピング症状を防ぐ手術を取り入れています。高度進行胃癌では化学療法と手術を組み合わせた治療を行い、生存率向上を目指しています。

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(2)手術支援ロボット(ダ・ビンチ):ダ・ビンチを胃癌手術に導入しています。日本では消化器癌にダ・ビンチを導入している施設は少なく、鳥取大学は日本における消化器癌ダ・ビンチ手術の先駆けとなっています。胃癌における適応は早期の癌で、腹腔鏡下胃切除術が可能な症例です。現在まで胃癌症例で7~8例の手術を行っていますが、良好な手術成績を収めています。

(3) 術前化学療法(NAC):高度進行胃癌に対しては、手術前に化学療法を行い、転移部位や腫瘍そのものを縮小させ、根治性を高めるNAC治療を採用しています。

3) 大腸癌

(1) 低侵襲手術:腹腔鏡を用いた低侵襲手術を採用しています。

(2) 機能温存手術:直腸癌では、内肛門括約筋切除術を用い、従来では人工肛門となったような例にも肛門温存ができる手術を展開しています。肛門近くにある進行直腸癌に対し、術前に放射線化学療法を行い、できるだけ前立腺や肛門を温存する手術を行っています。

(3) 化学療法:進行再発大腸癌症例に対しては、FOLFOX6の治療を行い、ご家族の期待に応えております。また、アバスチンやアービタックスなどの新規に認可された分子標的治療薬も積極的に使用しています。

(4)手術支援ロボット(ダ・ビンチ):大腸癌手術にもダ・ビンチを応用する予定です。大腸癌、特に直腸癌手術において、ダ・ビンチ手術による神経温存手術が可能となり、直腸癌術後の排尿障害、勃起障害の克服に役立てるものと期待されます。

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4) 肝臓癌

(1) 手術治療:肝切除が基本ではあるが、肝機能が悪い症例には、開腹下マイクロターゼ凝固療法も積極的に展開しています。

(2) 低侵襲手術:肝臓の手術はおなかの傷が大きくなりがちですが、肝左葉に存在する肝臓癌に対しては、腹腔鏡手術を行い、出来るだけ傷を小さくする手術を選択しています。

(3) 生体肝移植:劇症型肝炎、肝硬変症、非代償性肝硬変合併肝臓癌の患者様に対しては、十分な説明のもと生体肝移植も適応としております。

5) 膵臓癌

(1) 手術治療:予後も悪く、手術も合併症が多い疾患ですが、われわれの施設では、合併症を0にする手術に取り組んでいます。また、術後もジェムザールとTS-1の化学療法を行い、予後の向上をはかっています。

(2) 低侵襲手術:膵体部、膵尾部に存在する悪性度の低い膵腫瘍に対しては、腹腔鏡を用いて傷を小さくし術後の痛みを最小限に抑えます。

(3) 化学療法:不幸にして、手術不能であった患者様にもジェムザールとTS-1の化学療法を組み合わせた治療法を選択し、癌の進展を押さえ、良好な生存率を得ています。

良性疾患の手術治療

1)胆石や虫垂炎などの治療には、おへそを切開し、そこから内視鏡手術(SILS)を導入し、手術後の傷がまったく目立たなくしています(図)。

2)鼡径ヘルニアの手術:形状記憶合成膜(クーゲルパッチ)を用いたクーゲル法や組織に吸収される素材を用いた手術を行い、再発が少なく、早期に職場復帰ができる手術を行っています。

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小児疾患の手術治療

心臓大血管をのぞく、新生児奇形、腫瘍、尿路系疾患、ヘルニアなど、あらゆる小児外科疾患を取り扱います。3名の小児外科医が治療を担当し、最近では腹腔鏡手術を導入して、傷を小さく低侵襲な手術治療を心がけております。

5.先進医療ならびに研究的医療

  1. 食道癌に対するタキソテールを用いた化学放射線治療
  2. 胃全摘術後の新しい再建術式:パウチ-ダブルトラクト法再建法
  3. 高齢者の進行胃癌に対するTS-1術後補助化学療法の多施設共同研究
  4. 肝臓癌に対する腹腔鏡手術
  5. 膵臓腫瘍に対する腹腔鏡手術
  6. 食道癌、胃癌、大腸癌に対するロボット手術
  7. 切除不能・進行再発大腸癌に対する多施設共同研究
  8. 末梢血中リンパ球表面抗原を用いた新たな腫瘍マーカーの開発
  9. 手術不能進行膵臓癌患者に対するジェムザール、TS-1併用化学療法
  10. 胆石、虫垂炎などに対するSILS手術

6.産学共同研究

  1. 進行・再発胃癌に対する制癌化学療法の副作用対策として「フコイダン」の有用性と「フコイダン」の抗腫瘍効果の検討:「株式会社 きむらや」との産学協同研究で実施しています。
  2. 進行・再発大腸癌に対するmFOLFOX6治療の副作用軽減に漢方薬(牛車腎気丸)が有効かどうかの全国試験に参加しています。
  3. 幽門保存胃切除術後の食物うっ滞の軽減に漢方薬(六君子湯)が有効かどうかの研究を行っています。

7.平成22年1月1日~12月31日までの手術症例

成人疾患

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小児疾患

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8.学生・研修医教育

山陰の未来の外科医療を担う学生や研修医の教育に力を入れています。日本では外科医不足が深刻です。仕事量の多い消化器外科は特に敬遠されがちですが、教育を通して外科の魅力を伝えていく必要があります。学生・初期研修医はマンツーマン指導を行い、外科医としての基本事項のみならず、癌化学療法、栄養管理、緩和医療や地域連携の大切さを教え込みます。後期研修医は1年間の大学研修を行い、上部消化管、下部消化管、肝胆膵の各領域を3ヶ月毎にローテーションします。その間、マンツーマンの指導を行います。9月間の研修後は、主治医として独り立ちし、腹腔鏡下胆嚢摘除術などの執刀を行います。後期研修2年目では各関連病院へ1~2年出張し、外科専門医取得に必要な症例を経験します。後期研修の3~4年目では大学病院にて研究生活に入るか専門領域に進み、消化器外科専門医を目指します。後期研修医の新しい発想やチャレンジする医療を推進し、一歩一歩確実な充実した研修が出来るシステムを構築しています。

文責 池口正英