3-2-11. 泌尿器科

近年の急激な高齢化社会の到来に伴い,泌尿器科の代表的疾患である,前立腺肥大症,前立腺癌,過活動膀胱,尿失禁などの増加に加え,他科疾患による泌尿器科的処置を必要とする症例も増加している。このような状況の中で,我々泌尿器科に求められている役割はますます多岐にわたり,さらに高度化してきている。また,一人の患者が複数の疾患に罹患していることは少なくなく,他科との密接な連携により診療をすすめていくことが今まで以上に必要とされている。このような状況に対応すべく,当科では診療,研究体制の一層の充実に努めている。

当科における今年度の最大の変革は,平成22年7月に泌尿器科診療科長として,武中篤教授が新しく就任されたことである。武中教授は,神戸大学准教授在職中より,手術に密着した骨盤臓器解剖において著明な業績を挙げられており,これらのことが当院におけるロボット手術導入に大きく貢献した結果となった。またロボット手術以外にも,診療,研究面における様々な改良,変革の指揮を執られた。

外来診療では,月曜日から金曜日まで毎日,初再診を行っている。初診は講師以上のスタッフが担当し,それぞれ曜日指定としている。再診には,曜日を指定した専門外来を設置している。専門外来の種類としては,癌外来として腎癌,腎盂尿管癌,膀胱癌,前立腺癌,精巣腫瘍外来を設置しており,癌外来以外には,排尿障害,小児泌尿器疾患,女性泌尿器疾患外来を設置している。これらは,その領域を専門としているスタッフが担当している。月,水,金には従来通り血液透析を担当しており,大学病院での治療が必要な維持透析症例や,急性腎不全症例の治療を行っている。治療方針決定と卒後教育のため,週2回のカンファレンスを通じて前週の手術復習と,入院患者,外来問題症例における診療方針を決定している。癌診療に関しては,最新のエビデンスに基づいた,当科における診療指針を平成22年度末に完成し,これを基礎に各症例での方針決定を行っている 治療面ではまず手術治療においての特記事項として,平成22年8月に手術用ロボット,da Vinci S HDTMサージカルシステムが当院へ導入され,その2ヶ月後の10月13日に,当院初のロボット支援手術である,前立腺全摘除術(RALP)を施行した。以後月に3~4例のペースでRALPを施行している。また副腎に対する腹腔鏡手術を全面的に当科で担当することとなり,内分泌内科と連携を取りながら手術を行っている。その他については昨年度の病院年報に記載されている手術治療に関して,手技や術式の改良を重ねながら,より多くの症例で実践している。即ち,まず良性疾患に関して述べると,腎尿管結石に対しては,最新鋭の体外衝撃波破砕術(2008年9月導入),ホルミニウムレーザー,超音波砕石装置使用の内視鏡手術を施行している。前立腺肥大症に対しては,従来行っていたバイポーラ電気メスを使用した内視鏡手術から,最新の術式であるレーザーによる前立腺核出術へ,H23年度へかけて移行した。尿失禁に対しては,最新の術式である尿道つり上げ術を導入している。小児泌尿器手術に関しては,症例によっては本邦屈指の著名な専門医を招聘し,直接手術指導を受けながら,手術手技の向上に努めている。次に悪性疾患に関して述べると,膀胱癌に対する内視鏡手術,浸潤癌に対しては尿路変更を伴う開放手術を施行しており,特に代用膀胱適応症例に対しては,積極的にその術式を導入している。前立腺癌に対しては先に述べたロボット支援手術(RALP)の他に,皮膚切開を8cmで行う,小切開前立腺全摘除術も積極的に行っている。また主に低リスク前立腺癌に対しては,密封小線源療法を放射線科と共同で積極的に継続している。腎や尿管などの上部尿路悪性腫瘍に対しては,腹腔鏡下手術をスタンダード治療とし,低侵襲手術を目指して努力している。この腹腔鏡下手術に関しては,良性疾患である腎盂尿管移行部狭窄症に対しても積極的に施行し,良好な成績を得ている。
手術以外に治療として,以前より国内では当科が最も早く手がけている,神経因性膀胱患者に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注射を継続して行っている。尿失禁の軽減,自己導尿回数の減少等の良好な成績と高い安全性を得ている。現在,その適応を基礎疾患のない過活動膀胱患者にも拡大しており,高い治療効果と安全性を得ている。薬物治療として,尿路上皮癌に対する多剤併用全身化学療法や,ホルモン抵抗性前立腺癌に対する全身化学療法,進行腎癌に対する分子標的薬治療を積極的に施行し,良好な成績を得ている。その他,他科疾患が原因の尿管狭窄や水腎症に対して,尿管ステント留置や腎瘻造設を行い,腎機能の改善や生活の質の向上に努めている。
今後も診療,研究両面から更なる質の向上を目指し,地域への貢献ができるように,これからの責務を果たしていきたいと考えている。

泌尿器科 瀬島健裕