3-2-10. 皮膚科

皮膚科では、第一に皮膚腫瘍の診断・治療に重点を置き、経験豊富な医師が診療にあたっています。附属病院の鳥取県におけるがん医療の拠点病院化の動きにあわせ、山陰地方の皮膚腫瘍・がんセンターとしての役割を担うべく、努力を重ねており、山陰地方でもトップクラスの治療症例を誇ります。また、内臓の病気に伴う皮膚病の診療にも力を入れており、皮膚病変より数々の内蔵の病気を発見するという、皮膚科医にしかできない“技”の研鑽を続けております。
当科の最大の特色は、皮膚病理組織診断(顕微鏡による細胞や組織の検査)に力を入れていることです。現在までの症例の蓄積だけでなく、病理を熟知した医師による十分な検討・討論が行われており、前医療機関で診断のつかなかった皮膚病を数多く診断しております。この病理診断は、皮膚腫瘍の治療においても、適切な術前診断というだけでなく、病理所見に基づいた手術方法の選択にも役立てられています。
皮膚病は目に見える分、診断が下しやすいように思われます。診断はついていなくても、時に、ある種類の内服や外用剤を使用することにより小康状態を得られる場合もあります。しかし、実は同じ様な発疹に見えても診断が難しい場合が多く、皮膚科学的な根拠に基づいて臨床診断と治療を行っていくためには、皮膚科の研鑽を十分積まなければなりません。皮膚科診療の力が求められているレベル以上に達しているかどうかの指標に「皮膚科専門医」制度がありますので、診察を受ける際の目安と考えて下さい(多くの診療所では免状を診察室に掲げています)。皮膚に現れた病気は、是非皮膚科専門医の肩書きを持つ医師に相談して下さい。専門医取得の有無はなお、鳥取大学附属病院皮膚科勤務の医師のうち認定皮膚科専門医の免状を持つスタッフは6名にもおよびます。

以下に、当科での診療内容について具体的に記します。

皮膚疾患診療

アトピー性皮膚炎において16歳以上の最重症の患者さんを対象としてシクロスポリン(免疫抑制剤)の内服治療が保険適応になりました。悪化時に一時的に内服を行い、改善後は再び外用薬を中心とした治療を行います。尋常性乾癬でもシクロスポリン内服による治療を行うことがあります。シクロスポリンを内服される場合には、定期的に血液検査を行い、薬の血液中の濃度(トラフ値)を測定し、適切な薬の量であるかを確認します。また、既存の治療では十分効果がない尋常性乾癬や関節症性乾癬、膿疱性乾癬では、炎症をもたらす特定の因子に直接作用して症状を改善することのできるいわゆる生物学的製剤による治療も行っています。難治性多発性円形脱毛症においては副腎皮質ホルモン(ステロイド)の局所注射、DPCPによる局所免疫療法や発症6カ月以内であればステロイドパルス療法を行うこともあります。

皮膚腫瘍診療

悪性黒色腫(ホクロのがん、あらゆる臓器のがんの中でも最もたちが悪い)、基底細胞がん(最もありふれた皮膚がん)、日光角化症(お年寄りの顔面に多い早期の皮膚がん、鳥取県に非常に多い)、ボーエン病(早期皮膚がん)、有棘細胞がん(転移しやすい)、パジェット病(湿疹に酷似した陰部に多いがん)などの診療に豊富な経験を持ちます。皮膚がんは早期発見により生命への危険を回避できますので、少しでもおかしいなと思われたら、気軽に大学病院を受診されることを勧めます。経験豊富なスタッフが丁寧に診察いたします。皮膚に生じたこのようないわゆる「出来物」は皮膚専門医が診療すべき対象であることを強調いたします。また、悪性黒色腫においては腫瘍周囲に放射性同位元素及び色素を注射し、シンチカメラや肉眼でセンチネルリンパ節(最初に転移するリンパ節)を同定し摘出を行うセンチネルリンパ節生検が保険適応されることになりました。摘出したセンチネルリンパ節は病理組織学的検査を用いてがん転移の有無を確認します。

美容外来(自費)

大学病院で美容診療を行う最大の利点は、皮膚科専門医が肌の状態を的確に把握し、その上で必要な処置のみを行うことであると考えております。初期の判断や治療過程での判断に誤りがあると、本来改善するはずのシミが逆に悪化したなどということは美容の現場では実際に起こっています。当科では安全性と苦痛のなさを第一に考えたうえで治療方法を慎重に選んでおります。ケミカルピーリング法はシミ(老人性色素斑、肝斑、雀卵斑)、ニキビ、小ジワなどに適応があります。ニキビ治療では、悩み多き若い人を中心に成果を上げております。また、ロングパルスアレキサンドライトレーザー(Gentle LASE)という機器を用いてレーザー脱毛を行っております。

その他特殊治療

陥入爪に対するワイヤー治療(自費)も行っております。これは特殊な金属でできたワイヤーで、手術等の苦痛を伴う手技を駆使することなく湾曲した爪を矯正する方法です。また、難治性皮膚疾患に対する光線療法も行なっております。

ファックス予約制度

当科ではファックス予約制度を積極的に導入しています。開業医の先生から紹介を受ける時に、予めファックスにて診察時間の予約をしていただく制度で、受診時にお待たせすることなく診察させていただきます。是非ご利用下さい。

入院治療の対象疾患は、皮膚腫瘍(良性からがんまですべて)や母斑(ほくろ、あざ)をはじめ、アトピー性皮膚炎、水疱症、乾癬などの難治性疾患、帯状疱疹や丹毒などの感染症から熱傷(やけど)まで多岐にわたります。特に皮膚外科治療に力を入れており、手術室、外来処置室での手術件数は年間468件と山陰地方随一を誇っております。現在医療事故防止の観点などから、手術は小さなものでもできる限り設備の完備した中央手術室で行なう方針にしております。

当科では鳥取県西部・中部および島根県東部地域のみならず、山陰地方全域および岡山県北部をも対象地域としており、地域機関病院皮膚科が担うべき役割を認識し、高齢化や複雑化する社会環境・医療環境のなかで皮膚科医に要求される医療を効率的に提供できるよう、スタッフ一同努力していきたいと思っております。また、当科に限って言いますと、大学病院であるからといって決して敷居の高い診療を行なっている訳ではなく、どなたでも、またご自身がたいしたことがないかも知れないと思われる疾患でも診察いたしますので、お気軽にご相談下さい。
(山田七子)

平成22年診療実績
 外来患者統計  
平成22年 外来患者統計    
外来患者数 12,004人    
新患患者数 2,063人    
再来患者数 9,941人    
FAX予約患者数 766人 


平成22年 疾患別新患患者統計
疾患計(人)疾患計(人)
1  湿疹35615 上皮性良性腫瘍225
2  蕁麻疹・痒疹・皮膚掻痒症14116 上皮性悪性腫瘍132
3  紅斑症・紫斑・血管炎・血行障害8917 非上皮性良性腫瘍133
4  物理・化学的皮膚障害・壊疽10118 非上皮性悪性腫瘍23
5  中毒疹・薬疹12419 発汗異常症29
6  水疱症および膿疱症4120 毛包脂腺系疾患38
7  紅皮症321 毛髪・爪甲疾患91
8  炎症性角化症・非炎症性角化症7022 細菌性疾患77
9  膠原病3123 ウイルス性疾患122
10 代謝異常症1224 真菌症149
11 皮膚形成異常・萎縮症1025 皮膚結核症5
12 肉芽腫・肉芽腫症2926 粘膜疾患1
13 色素異常症3227 動物性皮膚疾患・性病33
14 母斑・母斑症・奇形10428 その他55
 

平成22年 地域別初診患者統計
地域計(人)
米子市777
鳥取県西部(米子市を除く)485
鳥取県中部312
鳥取県東部66
島根県東部318
島根県西部17
隠岐45
岡山県北部17
その他県外24
 

入院患者統計平成22年入院患者統計
 

病名

患者数(人)
湿疹 皮膚炎群(アトピー性皮膚炎を除く)13
アトピー性皮膚炎5
蕁麻疹(アナフィラキシーを含む)13
痒疹群 2
紅斑症 7
血管炎 7
薬疹 中毒疹 21
天疱瘡 3
類天疱瘡 19
その他の水疱症0
紅皮症 5
乾癬 14
その他の角化症0
膠原病 0
細菌性感染症 23
ウイルス性感染症21
真菌性感染症 0
熱傷 13
母斑 母斑症 27
上皮性良性腫瘍32
上皮性 悪性腫瘍日光角化症 ボーエン病36
有棘細胞癌26
基底細胞癌31
パジェット病 パジェット癌3
付属器癌2
その他0
悪性黒色腫29
間葉系良性腫瘍28
間葉系悪性腫瘍(血液系を除く)3
菌状息肉腫 2
成人T細胞性白血病リンパ腫0
その他の悪性リンパ腫0
その他 26
合計426

 


手術患者統計  
手術室手術

手術術式

手術件数(件)
皮膚,皮下粘膜下血管腫瘍摘出術4
皮膚,皮下腫瘍摘出術178
皮膚悪性腫瘍切除術(植皮、皮弁術を伴う)1
皮膚悪性腫瘍切除術(リンパ節郭清術を含む)
皮膚悪性腫瘍切除術(単純切除)36
皮膚悪性腫瘍切除術(植皮、皮弁術を伴う)70
皮弁作成術,移動術(独立手術として行ったもの)1
デブリードマン2
全層,分層植皮術(独立手術として行ったもの)0
デブリードマン 植皮,(人工真皮)8
その他25
合計336
   

外来手術

手術術式

手術件数(件)
創傷処理10
皮膚切開術21
皮膚,皮下腫瘍摘出術94
皮膚悪性腫瘍切除術(単純切除)4
デブリードマン1
全層,分層植皮術(独立手術として行ったもの)1
皮膚腫瘍冷凍凝固切除術70
その他5
合計210