3-3-21. 感染制御部

感染制御部は鳥取大学医学部附属病院における質の高い感染症診療の実践と病原微生物の確実な医療機関内伝播防止を目指し,診療科横断的に様々な感染症の診断・治療・感染制御をトータルにサポートするともに,感染症予防(ワクチン接種)にも積極的に取り組んでいる。また,総合診療科外来において,HIV感染症患者の外来診療や海外渡航者向けワクチン接種外来を担当している。
今後の展望として,感染症診療•感染制御•感染症予防に精通する医療従事者(感染症対策専門家)の養成に一層尽力したいと考えている。

1.感染症診療支援

診療科•部門からの多数のコンサルテーション(診断・治療・感染制御)に随時対応するとともに,毎週木曜日に感染症診療カンファレンスを開催し,MRSAや抗菌薬耐性緑膿菌などの抗菌薬耐性菌が新規に検出された症例,血液培養検査で病原微生物が検出された症例,抗菌薬療法が遷延している症例などについて,医師,薬剤師,看護師,臨床検査技師のチーム医療体制のもとで症例検討を行い,適切な診断•治療•感染制御を推進した(表1)。
抗菌薬耐性への対策として,平成21年7月より,特定抗菌薬(注射用バンコマイシン,テイコプラニン,アルベカシン,注射用•経口リネゾリド,カルバペネム系薬[10日間以上の投与])の処方に対して届出制を導入した。


表1 2009年の感染症診療カンファレンスの実績
対 象 症例数
抗菌薬耐性菌新規検出症例 診断への介入 20
治療への介入 73
感染制御への介入 203
そのほか 146
血液培養検査陽性症例 診断への介入 35
治療への介入 89
そのほか 140
MRSA感染症治療薬長期投与症例 29
リネゾリドによる抗菌薬療法が行われた症例 57

2.高度感染症診療

【1】病原微生物の遺伝子型別
3C(NICU)病棟において,24週齢の新生児がBacillus cereusによる血流感染症(臍カテーテル感染症)を発症した事例を受け,患児の使用したマットやタオルの環境調査を実施した。その結果,タオルから高菌数(10~320 CFU/cm2)のB. cereusの発育を認めた。検出されたB. cereus(患児由来1株と環境由来6株)でパルスフィールド電気泳動法による遺伝子解析を実施し, B. cereusの伝播経路の解析を行った。

【2】薬物血中濃度モニタリング(TDM)の技術
薬剤部との連携のもと,MRSA感染症治療薬(バンコマイシン173症例 [96.1%]),テイコプラニン40症例[100%],リネゾリド24症例 [40.7%],アルベカシン23症例 [92.0%]),抗真菌薬(ボリコナゾール21症例[100%]),アミノグリコシド系薬(アミカシン12症例 [75.0%],ゲンタマイシン5症例[62.5%])のTDMを実施し,抗菌薬・抗真菌薬の適切な使用に向けた取り組みを行ってきた(TDM実施症例数 [TDM実施率]は2009年の実績を示す)。

3.感染症診療

総合診療科外来において,HIV感染症患者の外来診療や海外渡航者向けワクチン接種外来を担当した。また,「鳥取大学と鳥取県との感染症診療の支援業務に関する協定」に基づいて,平成21年5~7月にオンコール体制で鳥取県済生会境港総合病院(第二種感染症指定医療機関)での新型インフルエンザの外来および入院患者の診療を行った。

4.感染制御(医療関連感染対策)

【1】サーベイランス
第一外科•第二外科診療群において手術部位感染症統合サーベイランスを継続したほか,国立大学病院統一サーベイランスとして,平成21年8月に消化器外科における手術部位感染症,平成21年7月~平成22年3月にICU•ICU2•HCUにおける人工呼吸器関連肺炎,平成21年7月~平成22年3月にICU•ICU2•HCUおよび6B病棟におけるカテーテル関連血流感染症のサーベイランスを実施した。また,抗菌薬耐性菌新規検出状況(解析データ)・病棟別菌検出状況・血液培養菌検出状況・抗酸菌検出状況などの病原体サーベイランス,抗菌薬使用状況調査,針刺し・切創・粘膜曝露サーベイランスを継続した。
【2】インフェクションコントロールチーム(ICT)による病棟ラウンド
標準予防策・感染経路別予防策の遵守状況を検証するために,月ごとに病棟を決めてICTのメンバーで病棟ラウンドを継続し,当該病棟に結果のフィードバックを行った。全病棟を一巡したところで感染制御部ニュースレターを通して結果を公開し(8月18日および3月1日の2回発行),感染対策の質の向上に努めた。
【3】職員向けワクチン接種プログラムの実践
職員を対象に,B型肝炎,麻疹,水痘,風疹,ムンプス,インフルエンザ(新型と季節性の2種)のワクチン接種を行った。
【4】「病院感染対策のためのマニュアル」の策定と改訂
平成21年度は,標準予防策(改訂),空気予防策(改訂),新型インフルエンザ(不安症例)対応(新規),新型インフルエンザ(外来)対応(新規・改訂),新型インフルエンザ(入院)対応(新規),人工呼吸器関連肺炎防止(改訂),器具の消毒•保管等(改訂),針刺し・切創・粘膜曝露予防対策(改訂),職員に対する各ウイルス感染症対策(改訂),微生物などによる汚染を考慮した医薬品の安全管理(改訂),抗菌薬•抗真菌薬使用(新規)について,マニュアルの策定または改訂を行った。
【5】感染制御部ニュースレターの発行
平成21年度は感染制御に関するニュースレターを5回発行した(No.40~44)。
【6】感染事例への対応
診療科・部門からの感染制御に関する多数のコンサルテーションに随時対応しているが,詳細な疫学調査等を実施して医療機関内伝播防止策を講じた事例やおもな警戒事例として,平成21年度は,ノロウイルス感染症(4事例),水痘(3事例),医学科学生のインフルエンザ(1事例),流行性角結膜炎(1事例),多剤耐性緑膿菌感染症(1事例),B. cereusによる新生児の血流感染症(1事例),洗濯室における針刺し(1事例)に対応した。
また,新型インフルエンザ対策として,マニュアルの策定ならびに改訂,新型インフルエンザ対策会議の開催,新型インフルエンザ講習会の開催(4回),8月からの外来患者への対応,9月以降の入院患者(48名)への対応,11月から翌年1月にかけて希望する医療従事者全員(1,094名)へのワクチン接種を実施(季節性インフルエンザワクチンの接種も10~11月に並行して実施)したほか,鳥取県主催の新型インフルエンザ対策本部会議や新型インフルエンザ西部圏域医療対応連絡会議などでの協議への参加,メディア(新聞およびテレビ)への取材協力,鳥取大学サイエンス•アカデミー•中海テレビ放送「あなたの保健・医学講座」•公民館健康講座での講演活動を通して県民への啓発活動などを行った。

5.職員向け研修会の開催ならびに地域貢献

職員向け研修会(特定の診療科•部門や病棟を対象に実施したミニレクチャー等は除く)の開催,国立大学附属病院感染対策協議会(国大協)ならびに地域貢献に関するおもな活動実績を表2に示す。鳥取・院内感染対策セミナー(全職員向け研修会)への職員の参加は,第7回398名,第8回297名,第9回306名であった。
地域貢献事業のうち,第3回感染制御総合カンファレンスでは65名,平成21年度鳥取県院内感染対策講習会では59名の県内医療従事者が参加した。また,平成21年9月より,感染制御部が事務局を担当する鳥取県抗菌薬耐性サーベイランス事業(鳥取県との共同実施)を鳥取県西部圏域の4つの医療機関(本院を含む)で開始し,平成22年1月からは鳥取県全域の急性期医療機関17施設に拡大してサーベイランス事業を推進している。
表2 職員向け研修会の開催,国大協ならびに地域貢献に関するおもな活動実績
(特定の診療科•部門や病棟を対象に実施したミニレクチャー等は除く)
年月日 区分 活動実績
平成21年4月1日 職員研修 新採用者オリエンテーションでの教育
5月16日 地域貢献 第3回感染制御総合カンファレンスの開催
5月20日 職員研修 第1回新型インフルエンザ講習会の開催
5月21日 職員研修 第2回新型インフルエンザ講習会の開催
5月22日,6月2日 職員研修 委託業務従事者への感染対策研修会の開催
6月5日 研修医教育 感染制御講習会の開催
6月12日 職員研修 第7回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
6月17日 職員研修 第3回新型インフルエンザ講習会の開催
6月19~20日 国大協 中国•四国地区ブロック別研修会への参加
7月22日 地域貢献 鳥取県西部総合事務所福祉保健局主催の新型インフルエンザ西部圏域医療対応説明会での講演
7月25日 地域貢献 第267回鳥取大学サイエンス•アカデミーでの講演
8月25日 職員研修 第4回新型インフルエンザ講習会の開催
9月4日 職員研修 第8回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
9月11日 地域貢献 鳥取県防災局•福祉保健部主催の新型インフルエンザ図上訓練への参加
10月15~16日 国大協 国立大学附属病院感染対策協議会への出席
11月13日 職員研修 第9回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
11月14日 地域貢献 平成20年度鳥取県院内感染対策講習会の開催
11月30日~12月1日 国大協 富山大学に対して大学間相互チェック
12月10~11日 国大協 佐賀大学•富山大学による大学間相互チェック
12月21日 職員研修 医療安全への取り組みについての報告研修会での報告
平成22年1月22日 地域貢献 米子市健康対策課主催の公民館健康講座での講演
(堀井俊伸)