3-3-25. 薬剤部

国立大学病院薬剤部の在り方ついては、4月に本院が開催した第11回中国四国地区国立大学病院薬剤部長・副部長会議や、10月に開催された国立大学病院薬剤部長会議で議論した。また、医療の動向については、年2回の日本病院薬剤師会地方連絡協議会や中国四国ブロック会長会議で議論した。地域薬剤師の養成に関係する薬学教育(病院実務実習)については、年に数回開催される中国四国地区調整機構会議や鳥取県病院薬剤師会の理事会や薬学教育委員会で協議のうえ、平成22年度から開始される6年制実務実習生受け入れ体制の整備に努めた。質のよい医療の提供、安全で安心な医療の提供を目標に、薬剤部の果たすべき役割はますます重要となっている。

1.薬剤師の労働環境の整備

薬剤師の業務量は増大する一方だが、退職者の後任と増員分に計7名の新採用薬剤師を迎え業務を開始した。特定任期付(11人)薬剤師は、平成21年度より任期を迎える職員も一定の条件で継続雇用が可能となる制度改革が実現する。なお、欠員の主任薬剤師の後任として、12月に薬剤師2人を主任に昇格させた。
業務料の増大、経験年数の不充分な薬剤師の多さ、体調不良者の発生などに対応して、部門を超えた業務分担と支援体制に努めた。労働環境ついて専門家による評価システムを利用し、次年度早々に現状分析を行うことにした。また、病期、妊娠・産休・育休に備え、超過勤務などについて業務命令を一部免除するシステムを明文化した。
時間外もオンコール体制でTDM業務に当たってきたが、既存試薬の供給不可と機器更新の必要性から検査部と効率化も併せて協議し、次年度より測定は検査部に新機種を設置して行い、解析は薬剤部が担当することになった。

2.薬剤師の養成と確保

新採用薬剤師を対象とした研修は当面3ヶ月のスケジュールで行った。また、薬剤管理指導業務については、専任薬剤師3人が指導者となり10月より1ヶ月を1クールとする3クールの研修を行った。その他の業務も個々の薬剤師の適性を評価のうえ担当業務を決定した。
新薬学教育制度への移行期であり最後の4年制実習生3人を受け入れたが、県下の実習生もここ数年で激減している。新制度は県下の薬剤師不足を解消するに逆行する課題を抱えている。

3.高度医療、チーム医療への貢献

大学院にがんプロフェッショナル養成プランによるがん専門薬剤師養成コースを設け、社会人入学者1人を迎えた。学費を支援する専用の奨学金制度を設けた。日本病院薬剤師会がん薬物療法認定薬剤師1人が誕生し計3人となった。日本静脈経腸栄養学会NST認定薬剤師2人のうち1人が昨年度末退職し計1人、日本糖尿病学会認定糖尿病療養士(薬剤師)も1人であり、さらなる養成が課題である。がん専門薬剤師研修認定施設として、昨年度は外部施設より研修生1人を迎えた(総計3人)。
チーム医療での活動状況は次の通りであった。【NST】NST認定薬剤師が副代表として活動した。毎週水曜のラウンドに、平均患者数3~5人/回をコンサルト、主に輸液の処方設計を担当した。計20名のNST関係の研修生に研修を行った。地域薬剤師に対して2ヶ月に1回症例カンファレンスや研修会を行った。【ICT】薬剤師2人が病棟ラウンド月1回(2~3病棟)、感染症診療カンファレンス(1回/週)、広域抗菌薬使用症例やMRSA感染症治療薬使用症例への介入、血液培養検査陽性症例の検討、抗生剤の適正使用マニュアルを作成した。【緩和ケアチーム】薬剤師3人が週1回カンファレンス、回診参加、病棟担当薬剤師や他職種と連携のうえ、薬学的視点からケアした。【糖尿病チーム】認定糖尿病療養士(薬剤師)1人が院内診療ガイドラインの作成、糖尿病教室で集団指導(毎月第2、4金曜日)、症例カンファレンス(毎週月曜日)、リスクマネジメント研修会などを行った。【心臓リハビリテーション症例カンファレンス】薬剤師2人が再入院心不全患者を対象に週1回カンファレンスに参加、問題点について協議した。

4.安全で安心医療への貢献

関連する会議には、薬剤部長(親委員会)、副部長(実務担当者会議)、主任薬剤師2名(リスクマネジメント担当者)が出席し、事例解析やその防止対策を立案した。その結果、インスリンに関するものは減少した。その他、全職員を対象とした医薬品に関する安全講習会を行った。各部門報告会にも2回報告した。薬剤師の講習会などの出席率は良好であった。
倍量処方が原因と思われる転倒転落事故が発生した。薬剤部門システムでは防ぎ難い事例であり、倍量処方禁止の通知を改めて行った。医師の誤入力、薬剤師の処方監査漏れや看護師の確認漏れが原因と思われるものには、表示や誤入力の警告など薬剤部門システムの改善によりかなり防止できた。患者の取り違いは、照合を怠ったことによるものであった。持参薬鑑別業務を8月より全病棟を対象に開始した。徐々に件数は増えたが、まだ不充分と思われる。関連したインシデントは、患者管理の医薬品管理が課題である。
がん化学療法関連は、新HISと連動したRed man システムの構築により、レジメン管理や検査値などのチェック機能を高め、薬学的管理を行いやすくした。次年度のがんセンター開設に備え、外来化学療法室で薬学的管理を開始した(平均15症例/月曜日)。入院患者についても問題はないが、看護師の適正な時間外調製に向けて注射薬調製にカンするDVDを作成した。
疑義ある処方せんの見落としは、大きな事故に繋がりかねない。薬剤師の当直体制を7月より基本的に2人体制とした。入院外来処方せん監査、注射薬処方せん監査や薬剤管理指導時に発生する疑義照会は、朝礼や部内ランで共有しているが集約・解析するには至っていない。
医薬品管理を強化するため、病棟の麻薬金庫を重点的に整備し、薬剤師の巡視も強化した。医薬品の在庫量をさらに減らす必要がある。医薬品用冷蔵庫の整備と温度管理も懸案である。個人情報の漏洩と医薬品の盗難防止を目的に、注射セット用と病棟在庫用のカートをシャッターと施錠付きカートへの更新について上申中である。

5.病院機能・経営への貢献

患者サービスを目的に電光掲示板を更新した。患者待ち時間はほとんどないが、医薬品の在庫不足から長時間待ってもらうことが何件か発生した。患者予約情報から予め購入することに努めた。
医薬品購入費は医療経費に大きな率を占めることから、この数年病院事務部と協力して適正な購入額に努めてきたが、やっとその成果が得られた。また、物損は避けるためも病棟在庫の有効期限をチェック・回収を行ってきた。なお、後発品への切り換えは、まだ積極的に行うに至っていないが、継続して検討する必要がある。医薬品の発注は、新HISを利用したPDA法の採用により業務の効率化と、発注精度が向上した。
薬剤管理指導料は薬剤師の数少ない技術料であるが、本来は医療の質の向上や安全医療を目的としている。増員の条件とされた指導件数の増大を目的に、専任3人、準専任5人、併任1人とした。月平均650件が今のところ限界である。ハイリスク患者に重きを置くことは一定程度実現できたが、高額請求できるICUでの指導までには至らなかった。
薬剤師も院内で行われる防災訓練などに参加した。災害用備蓄薬品は例年通り、在庫を新規のものに交換し防災時に備えた。医薬品備蓄用倉庫のマスターキー管理は薬剤部とし、医薬品の交換時や非常時に対応し易くした。
(大坪健司)