3-2-16. 歯科口腔外科

当科は口腔,顎,顔面,頚部に発生する種々の疾患を対象とし,外科のみならず口腔全般にわたるいわゆる「口腔科」として対応している。具体的な疾患として,歯牙疾患はもとより,口唇・口蓋裂などをはじめとした先天異常,悪性腫瘍,外傷,顎変形症,炎症,嚢胞,顎関節疾患,唾液腺疾患,神経および味覚異常など多岐にわたっている。
口唇・口蓋裂患者においてはすでに650症例に達し,手術や術後治療により機能性および審美性の回復をはかっており,悪性腫瘍治療後の機能性および審美性の向上とともにわが教室の主要な研究テーマの一つとなっている。口唇・口蓋裂の一貫治療については出生直後からの保護者へのオリエンテーションに始まり,口唇形成術および口蓋形成術,それに続く言語治療を行っている。また,口唇・口蓋裂患者は上顎劣成長による咬合不全・咀嚼障害などを合併する頻度が高く,顎および歯列の矯正治療も数多く行っている。
悪性腫瘍の治療では,術前の導入療法を行うことで縮小手術が可能な場合もあり,臓器を温存することで機能性や審美性の向上が得られている。また超選択的動注療法の導入により,舌癌では約6割の症例が手術をせずに完治が得られている。広範囲な切除が必要な症例でも多部位からの皮弁や人工関節頭などの積極的な応用により,良好な成績を得ている。
当科では外傷や炎症,腫瘍などによる顎骨や歯の欠損に対して,顎補綴やデンタルインプラントによる補綴治療を行っている。患者のニーズの高まりとともに骨移植術や上顎洞挙上術なども積極的に取り入れ,近年その適応範囲は増加傾向にある。また骨皮弁移植後や顔面欠損などのエピテーゼ固定源等に使用することにより,QOLの向上を目指している。
また,顎関節症患者の数も年々増加しており,専門外来を設置して対応している。具体的にはスプリント療法を中心とした保存療法を主に行っているが,症例によっては顎関節腔内洗浄なども行い良好な成績をあげている。
顎変形症に対しては術前・術後の歯列矯正と上下顎の骨切り(外科矯正)を一貫して当科で行い,機能性および審美性の回復を得ている。
院内他科からの紹介患者の特徴としては,合併症を有する患者の歯科治療はもちろんであるが,口腔からの二次感染予防が患者の予後とも密接に関係する白血病や悪性リンパ腫などの血液腫瘍患者の口腔管理や,心・血管系疾患患者,骨髄移植患者の術前術後の口腔管理を目的とした紹介が近年増加傾向にある。 さらに本年度より歯周疾患が糖尿病へ及ぼす影響を糖尿病チームと合同で,人工呼吸器関連肺炎や創部感染に対する口腔ケアの効果をICUと共同して臨床研究を行っており,当科が果たすべき役割は今後さらに重要となるであろう。

(雨河茂樹)

疾患別手術件数

疾患名 入院 外来 合計
良性歯原性腫瘍 5 5 10
良性非歯原性腫瘍 4 60 64
悪性腫瘍 88 2 90
外傷 26 70 96
歯性炎症 12 720 732
歯原性嚢胞 23 35 58
非歯原性嚢胞 2
30 32
口蓋裂 5 0 5
唇顎口蓋裂 7
0 7
顎変形症 3 0 3
唾石症 1 10 11
その他 1 154 155
合計 177 1,086
1,263

疾患別入院件数

疾患名 入院
良性歯原性腫瘍 5
良性非歯原性腫瘍 4
悪性腫瘍 88
外傷 26
歯性炎症 12
歯原性嚢胞 23
非歯原性嚢胞 2
口蓋裂 5
唇顎口蓋裂 7
顎変形症 3
唾石症 1
その他 1
合計 177

口腔癌

病気分類 症例数(人) 5年生存率(%)
1期 45 93.3
2期 48 91.7
3期 20 89.1
4期 81 66.2
合計 194 81.4
平成6年~平成16年