3-2-11. 眼科

平成20年度の当科の現況を振り返ると、注目すべきは19年度も前年度に比較し手術件数の増加を見たが、今年度も更に手術件数の大幅な増加をみたことである。19年度の総手術件数は1,601件であったが、20年度は2,184件と前年度比36%, 583件の増加となった。特に手術件数の大幅増加をみた白内障関連手術では前年度比54%増となった。特に眼科手術において基盤となる水晶体再建術の件数が伸びていたが、この増加に大きく貢献したのはクリティカルパスの導入・普及に伴う白内障手術入院の短期化と手術室における局所麻酔手術枠拡大によるものと思われる。これにより平日はほぼ毎日眼科手術が行われている状態となっている。

わが国ではここ数年、加齢黄斑変性や増殖糖尿病網膜症などの眼内新生血管を生じる疾患に対し、血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療が行われるようになっている。当科でも加齢黄斑変性に対する従来の光線力学療法に加え、積極的に眼内新生血管を生じる疾患に対し抗VEGF療法を施行しており、それにともなう硝子体注射が新たにおこなわれるようになり、かなりの件数となった(139件)。今後高齢者や糖尿病網膜症の患者の増加に伴い、これらのニーズはますます増加することが予想され、手術件数増加が期待される。またその治療効果の評価のため網膜蛍光造影検査やOCTといった外来検査の増加も予想されるところである。

また当施設では臨床所見のみでは診断のつきにくい前眼部感染性疾患に対しReal-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRにより微量のサンプルからも病原体を検出でき、また治療効果の判定にも非常に役立っている。そのため県内のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例が多数紹介されてきており、山陰における難治性前眼部感染症治療センター的一面も持っている。そして角膜移植においては従来主流であった全層角膜移植に加えて、角膜内皮細胞を含む深層角膜側のみを移植する角膜内皮移植が注目されているが、当院でもこの角膜内皮移植を20年度より導入した。角膜内皮移植の利点は、全層移植に比べ、角膜上が無縫合であるため大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを大きく軽減できることにあり,今後その手術件数増加を見込んでいる。

以上,前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。白内障のような基盤的手術のみならず、新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると思われる。高齢化に伴い白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の疾患は更に増加すると予想され、今後のさらなる手術件数の増加のためには十分な設備投資と検査員等の増員が必要と思われるが,それに対応できるよう努力していきたい。

(石倉涼子)

平成20年度手術件数
手術名 手術件数
白内障関連手術 757
網膜光凝固術
276
硝子体切除術
231
硝子体注入・吸引術
139
緑内障手術
135
角膜抜糸術
106
眼瞼形成手術
65
エキシマレーザーによる角膜切除術
58
斜視手術
58
涙嚢鼻腔吻合術および涙道狭窄関連手術 58
涙点プラグ挿入術
43
網膜復位術
40
角膜移植
32
翼状片手術
31
角膜潰瘍掻爬術
29
角膜・強膜異物除去術
28
虹彩光凝固術
12
角膜・強膜縫合術
5
その他
81
合計
2,184