3-3-18. 心理療法室

現在、心理療法室は開設以来10年目を迎えました。平成19年4月1日から平成20年3月31日までの活動状況を報告致します。

平成18年度途中(H19年1月)より導入された認知矯正療法は、参加人員が当初の3名(1グループ、週に2回)より徐々に増え、6名から9名(2グループ、それぞれ週に2回)に増えました。それに伴って、治療に用いるコンピュータも6台そろえ、課題として用いられるソフトウェアの種類も徐々に増やしていき、それぞれのソフトウェアが関連する認知領域の検討も頻繁に行いました。中断する患者さんも若干いらっしゃいますが、平均出席率は約90%ときわめて高い値を示しました。参加の動機付けを高めるために、ニューズレターも患者さん主体で発行し、認知矯正療法に関する情報を積極的に外部にアピールしていきました。

認知矯正療法は、認知障害を持つ個人の認知機能を改善することを目的とした技法や過程であります。認知とは、幅広い複数の能力領域を含み、情報を感知、処理、操作、反応する機能を示すものです。認知機能の例としては、注意、記憶、問題解決、視空間解析などがあげられます。多くの精神疾患患者において、認知障害は日常生活や社会生活を円滑に進める上で、最も重要な症状であることが指摘されています。患者の積極的な社会参加を支える認知機能の改善を目指した治療は精神科臨床において最重要課題の一つと考えられております。認知矯正療法は、爾来高次脳機能障害に行われている認知機能リハビリテーションを精神疾患に適応した様式を用いて応用したもので、とくに当治療室で用いているNEAR(neuropsychological educational approach to remediation)は内発的動機付けを重視し、患者さんがリハビリ活動自身を楽しみに、積極的に参加できることを目指した様々な工夫が凝らされています。

H18年度は、近隣の関連病院(養和病院、米子病院、安来第一病院、渡辺病院)でも認知矯正療法が立ち上がり、個人ごとにその日常生活活動において成果が出始めています。当治療室では、精神症状、認知機能、社会機能、QOLなどの指標を用いて、それぞれどのような変化がみられるかについて検討できるように、患者さんの了解を得て、データを記録しております。近隣の関連病院のデータとともに、来年度のNew Yorkで開催される認知矯正療法学会で発表する予定です。

平成19年度は、ようやく認知矯正療法が軌道に乗り出した年となりましたが、まだ参加者が統合失調症圏患者にほぼ限定されているため、今後は気分障害患者をはじめ、広範な精神疾患への応用を検討していきたいと考えております。

(中込 和幸)