3-3-21. 感染制御部

感染制御部は鳥取大学医学部附属病院における質の高い感染症診療の実践を目指し,さまざまな感染症の診断・治療・感染制御を一貫してサポートする日常業務(診療科横断的感染症診療)を行うとともに,感染症予防(ワクチン接種)にも積極的に取り組んでいる。

平成19年7月に感染対策担当看護師が認定管理看護師の資格を取得し,平成20年3月には総合診療外来において海外渡航者向けワクチン接種専門外来を開設した。また,平成19年6月に手術室で一足制を導入する運びとなった。

1.診療科横断的感染症診療

診療科・部門からの多数のコンサルテーション(診断・治療・感染制御)に随時対応するとともに,毎週木曜日に感染症診療カンファレンスを開催し,MRSAや抗菌薬耐性緑膿菌などの抗菌薬耐性菌が新規に検出された症例,血液培養検査で病原微生物が検出された症例,抗菌薬療法が遷延している症例などについて,医師,薬剤師,臨床検査技師,看護師のチーム医療体制のもと,適切な診断・治療・感染制御を推進してきた(表1)。

表1 感染症診療カンファレンスの実績

対 象 症例数
抗菌薬耐性菌新規検出症例(2007年) 診断への介入 34
治療への介入 74
感染制御への介入 136
そのほか 139
血液培養検査陽性症例(2007年) 診断への介入 77
治療への介入 94
そのほか 53
MRSA感染症治療薬長期投与症例 37
リネゾリドによる抗菌薬療法が行われた症例 47

2.高度感染症診療

【1】病原微生物を検出する技術

適切な抗菌薬療法を実践するために,感染制御学講座細菌学分野と連携し,日常の臨床検査では明らかにすることが困難な病原微生物の検出または同定に取り組んできた。平成19年度は血流感染症の起因菌としてRhodococcus equiの同定に成功し,適切な抗菌薬療法の推進に反映することができた。そのほか,ノロウイルス感染症のアウトブレイクへの対応のために7症例で遺伝子検査を実施した。

【2】病原微生物の遺伝子型別

院内伝播が疑われた多剤耐性緑膿菌の伝播経路を解明するために1事例(5検体)でパルスフィールド電気泳動法による遺伝子解析を実施した。

【3】薬物血中濃度モニタリング(TDM)の技術

薬剤部との連携のもと,MRSA感染症治療薬(バンコマイシン317症例,テイコプラニン59症例,リネゾリド7症例,アルベカシン27症例)と抗真菌薬(ボリコナゾール9症例)のTDMを推進し,抗菌薬・抗真菌薬の適切な使用に向けた取り組みを行ってきた(TDM実施症例数は2007年の実績を示す)。バンコマイシン,テイコプラニン,アルベカシンのTDM総実施率は96.7%(234/242症例)であった。

3.海外渡航者向けワクチン接種専門外来

平成20年3月に海外渡航者向けワクチン接種専門外来を開設した。

4.感染制御(病院感染対策)

【1】サーベイランス

平成19年4月より第一外科・第二外科診療群において手術部位感染症統合サーベイランスを開始した。国立大学病院統一サーベイランスとして,8~9月にICUおよびHCUにおける人工呼吸器関連肺炎サーベイランスを実施した。病棟別菌(抗菌薬耐性菌を含む)検出状況,血液培養菌検出状況,抗酸菌検出状況などの病原体サーベイランス,抗菌薬使用状況調査,針刺し・切創・粘膜曝露サーベイランスを継続した。解析データとして‘2007年抗菌薬耐性菌新規検出状況解析データ’を感染制御部ホームページに掲載した。

【2】インフェクションコントロールチーム(ICT)による病棟ラウンド

標準予防策・感染経路別予防策の遵守状況を検証するために,月ごとに病棟を決めてICTのメンバーで病棟ラウンドを継続し,当該病棟に結果のフェイードバックを行った。全病棟を一巡したところで感染制御部ニュースレターを通して結果を公開し(9月25日発行),感染対策の質の向上につなげた。

【3】職員向けワクチン接種プログラムの実践

職員を対象に,B型肝炎,麻疹,水痘,風疹,ムンプス,インフルエンザのワクチン接種を行った。

【4】「病院感染対策のためのマニュアル」の策定と改訂

ノロウイルス感染防止対策(新規),疥癬感染防止対策(新規),院内感染対策のための指針(新規),結核感染予防対策(改訂),手術部位感染防止(改訂),針刺し・切創・粘膜曝露対応マニュアル(改訂),新型インフルエンザ(不安症例)対応(新規)についてマニュアルの策定または改訂を行った。また,鳥取大学医学部廃棄物処理ガイドの改訂に協力した。

【5】感染制御部ニュースレターの発行

平成19年度は感染制御に関するニュースレターを6回発行した。

【6】感染事例への対応

診療科・部門からの感染制御に関する多数のコンサルテーションに随時対応しているが,詳細な疫学調査等を実施して院内伝播防止策を講じた事例やおもな警戒事例として,インフルエンザ(2事例),ノロウイルス感染症(2事例),麻疹(2事例),流行性角結膜炎(3事例),水痘・帯状疱疹(2事例),多剤耐性緑膿菌感染症(1事例),Stenotrophomonas maltophilia感染症(1事例),ESBL産生菌感染症(1事例),結核(4事例),クロイッツフェルト・ヤコブ病疑い(1事例)に対応した。

5.職員向け研修会の開催ならびに地域貢献

職員向け研修会(特定の診療科・部門や病棟を対象に実施したミニレクチャー等は除く)の開催,国立大学附属病院感染対策協議会(国大協)ならびに地域貢献に関するおもな活動実績を表2に示す。地域貢献事業のうち,県西部感染制御カンファレンスでは66名,平成19年度鳥取県院内感染対策講習会では66名の県内医療従事者が参加した。

表2 職員向け研修会の開催,国大協ならびに地域貢献に関するおもな活動実績

年月日 区分 活動実績
平成19年4月2日 職員研修 新採用者オリエンテーションでの教育
6月21~22日 国大協 中国•四国地区ブロック別研修会への参加
7月6日 研修医教育 第1回感染制御講習会の開催
職員研修 第1回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
7月21日 地域貢献 第1回県西部感染制御カンファレンスの開催
7月31日~9月30日 国大協 国立大学病院統一サーベイランスの実施
9月15~16日 地域貢献 平成19年度鳥取県院内感染対策講習会の開催
11月21~22日 国大協 国立大学附属病院感染対策協議会への出席
11月27日 国大協 東京医科歯科大学に対して大学間相互チェック
12月7日 研修医教育 第2回感染制御講習会の開催
職員研修 第2回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
12月14日 国大協 香川大学による大学間相互チェック
3月7日 研修医教育 第3回感染制御講習会の開催
職員研修 第3回鳥取・院内感染対策セミナーの開催
3月12日 地域貢献 海外渡航者向けワクチン接種専門外来の開設

(堀井 俊伸)