鳥取大学医学部病態制御外科は個々の患者の立場にたって日常医療に貢献することを心がけ、難疾患にも果敢に挑戦し、山陰地域の医療の充実に資することを目標としています。

消化器疾患(食道、胃十二指腸、小腸、大腸肛門、肝胆膵)、ヘルニア、小児外科疾患が診療の中心です。

上部消化管、下部消化管、肝臓(移植)、胆膵脾、小児外科の5グループが専門性を持って診療に当たっています。主治医は、専門グループと連携し実地診療にあたり、症例ごとに徹底した診断、評価、反省を行っており、病-病、病-診連携を心がけ、患者様の来院時、入院時、手術等の経過、および退院時には紹介もとの先生への返事を徹底しています。患者様には退院後、御紹介いただいた先生を受診するよう指導しています。新患患者は基本的に診療科長が責任を持って診察し、検査、治療の方針を決定しています。

癌治療においては根治性とともに、手術後の生活の質を保証できる手術治療を選択しています。

1)食道癌

(1)手術治療:手術侵襲を軽減する目的で、胸腔鏡を用いたHALS手術を採用しています。この手術では開胸部の切開創を小さくすることができ、患者様の術後の疼痛を軽減させることが可能です。

(2)化学放射線療法(CRT): 高齢者や心肺合併症を有する患者様には放射線治療＋制癌剤治療(タキソテールを現在使用している)を行い、手術治療に匹敵する良好な成績を得ています。比較的侵襲が少なく、かつ癌が消失、縮小する比率(奏功率)が高いのが特徴で、入院中の食道癌患者の1/2は化学放射線療法(CRT)で治療されています。

2)胃癌

(1)機能温存手術:幽門機能を温存した幽門輪温存胃切除やパウチを作製した噴門側胃切除を採用し、根治性と術後の生活の質を損なわない手術治療を選択しています。さらに、胃を全摘された人は、逆流性食道炎や食後の低血糖などの不快なダンピング症状に悩まされることが多く、このような不快な症状の解消を目的とし、我々は、新しい胃を小腸で作るパウチ-ダブルトラクト法再建を開発しました。この方法により胃全摘術後の患者様の良好な生活の質を確保しています。

(2)低侵襲手術:早期胃癌に対しては、腹腔鏡を用いた低侵襲手術を採用しています。2006年の術後合併症は3%に認めましたが、手術関連死亡は0で、合併症0の手術を心がけ、安心の医療を提供しています。

(3)スキルス胃癌に対する新しい治療戦略

難治性のスキルス胃癌に対して、手術療法だけでなく、腹膜転移予防のために腹腔内化学療法を導入しています。

(4)腹膜播種を有するような進行胃癌に対する新しい治療法の開発腹膜播種を有するような進行胃癌患者様には、全身化学療法のみならず、タキソテールを用いた腹腔内化学療法を併用しています。さらに、現在、タキソテールに遺伝子治療を加味して、より効果の高い治療法の開発に取り組んでいます。

3)大腸癌

(1)低侵襲手術:腹腔鏡を用いた低侵襲手術を採用しています。

(2)機能温存手術:直腸癌では、内肛門括約筋切除術を用い、従来では人工肛門を付けざるを得なかったような症例に対しても肛門温存ができる手術治療を展開しています。肛門近くにある早期の直腸癌に対しては開腹手術ではなく、TEMの治療法を採用し、経肛門的な癌の切除を行っています。

(3)化学療法:進行再発大腸癌症例に対しては、FOLFOX6の治療を行い、ご家族の期待に応えております。また、アバスチンやアービタックスなどの新規に認可された分子標的治療薬も積極的に使用しています。

4)肝臓癌

(1)手術治療:肝切除が基本ではあるが、肝機能が悪い症例には、開腹下マイクロターゼ凝固療法も積極的に展開しています。

(2)生体肝移植:劇症型肝炎、肝硬変症、非代償性肝硬変合併肝臓癌の患者様に対しては、十分な説明のもと生体肝移植も適応としております。

5)膵臓癌

(1)手術治療:予後も悪く、手術も合併症が多い疾患ですが、われわれの施設では、2005年は7例の膵臓癌切除手術を行い、合併症を0に押さえています。

(2)化学療法:また、不幸にして、手術不能であった患者様にもジェムザールとTS-1の化学療法を組み合わせた新たな治療法を選択し、癌の進展を押さえ、良好な生存率を得ています。

良性疾患の手術治療にも術後の生活の質を落とさない配慮を行っています。

1)胆石症治療:腹腔鏡下の手術が基本です。

2)鼡径ヘルニアの手術:形状記憶合成膜(クーゲルパッチ)を用いたクーゲル法を行っています。クーゲル法の利点は、術後の疼痛が少ない、再発が少ない、早期に職場復帰が可能な点であります。

1)食道癌に対するタキソテールを用いた化学放射線治療

2)胃全摘術後の新しい再建術式:パウチ-ダブルトラクト法再建法

3)キルス胃癌に対する腹膜播種再発の予防法としての腹腔鏡下反復腹腔内化学療法。

4)樹状細胞と癌細胞の融合細胞による新規癌免疫療法の展開。

5)消化器癌(特に胃癌)腹膜転移に対するNFκB siRNAを用いた新たな遺伝子治療の試み。

6)切除不能進行再発大腸癌に対するmodified FOLFOX6 stop and go + ァバスチン治療の試み

7)末梢血中リンパ球表面抗原を用いた新たな腫瘍マーカーの開発

8)手術不能進行膵臓癌患者に対するジェムザール、TS-1併用化学療法

1)進行・再発大腸癌に対する制癌化学療法の副作用対策として海藻由来フコイダンの有用性の検討を「株式会社 きむらや」との産学協同研究で実施しています。

進行・再発大腸癌に対しては、現在、5-FU、オキサリプラチン、CPT-11、アバスチンなどの制癌剤が種々の組み合わせで使用され、めざましい成果をあげております。しかし、これらの制癌剤には、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状の他、白血球減少、神経毒性などの多彩な副作用が一定の割合で発現し、そのため、制癌剤の継続を断念せざるを得ない例も多くみられます。副作用のため制癌剤の継続使用が出来ない症例では、制癌剤の持つ効果が発揮できず、患者さんにとって大きな不利益となっています。臨床研究に用いるものは、モズクやメカブなどの海藻から抽出されたフコースを主鎖とし、硫酸基を含む多糖であるフコイダンです。現在、フコイダンは食品として流通しています。副作用は報告されておりません。最近、このフコイダンが、胃癌培養細胞の増殖を抑制し、抗癌剤である5-FUの正常細胞に対する毒性を軽減する可能性があることが示されました。現在、進行・再発大腸癌の患者さんで制癌化学療法が実施される場合、制癌剤の副作用をフコイダンが軽減することができるか否か調べる研究を行っています。