看護部
1.看護部目標
「患者・家族・医療者・地域の強みを引き出し、その人らしさを支える看護の実践」
医療機能の分化により急性期医療の場では、緊急・重症な状態の患者の生命を救うこと、そして、回復期・慢性期病床や暮らしの場に移行できる状態にまで回復を図ることが大きな役割となる。特定機能病院である当院の看護師には、病態の変化や疾患を包括的にアセスメントする能力や、治療内容を理解し安全に医療・看護を提供する能力をさらにレベルアップすることが求められる。
平成29年度、私たちは「やりたい看護」を提供するだけでなく、患者が持つ夢や希望の実現に役立つ強み、患者に関わる家族・医療者・地域の持つ強みを引き出し、暮らしの中のその人の価値を尊重し、尊厳を擁護し、その人自身がよりよく生きる力を引き出す、「その人らしさを支える看護」の実践に取り組んだ。
1)教育・人材育成
目標達成のためには、部署をまとめる看護管理者の役割発揮が重要であり、看護管理者育成とその資質向上は看護部の課題である。平成27年度から副師長ラダー、看護師クリニカルラダーを作成し、平成29年度は師長ラダーが完成した。
今後は、クリニカルラダー・副師長ラダー・師長ラダーの活用と実践を通した管理者教育体制を構築し、看護管理者の資質向上に繋げていきたい。
2)看護実践
各部署では、看護部の目標に沿った部署特有の目標を設定し、ストレングスモデルの活用、家族アセスメントの実践、地域に繋ぐケアの共有、他職種と同じ目標の共有、その人らしく暮らせる外来継続看護、外来からの意思決定支援等について具体的に計画し実践した。当院の平均在院日数は昨年度13.6日であり、年々短縮しており、患者の「その人らしさ」を理解することは困難な状況となっている。しかし、患者のこだわっている生き方や持っている強みを理解するために、看護師が患者をもっと理解したいという強い意志を持ち働きかけていくように取り組んでいくことが必要である。
3)患者・家族満足度
患者満足度調査では昨年度より満足度がやや上昇した。特に「看護についての希望を確認したか」が4.7%、「注意・関心を向けたか」が1.6%、「退院後の治療・通院・生活について話し合ったか」が3.3%と期待以上の割合が上昇しており、看護師それぞれが、患者・家族の望む看護、退院支援を実践した成果と考える。
4)職務満足度
職場環境改善では、看護事務補助者を一般病棟に配属し、師長および看護師の事務業務の負担軽減に繋げることができた。また、超過勤務時間短縮のため、各部署が業務改善や「かえるバッチ」等の運用により超過勤務削減に努力し成果が見えてきている。その結果、職務満足度調査では改善不要の割合が64.9%と昨年度の63.7%より1.2%上昇した。特に、休憩時間・休暇取得についての満足度が1.8%上昇し、技能活用・やりがい感も2.2%上昇した。
5)医療安全
医療安全においては、確認行動の不足によりインシデントの減少が図れず、今年度も継続して患者誤認防止を目標に取り組んだ。これまでの医療安全のモデルナースを改め、新たに「確認行動の匠」とし、心得4か条をもとにチェックリストを改正、H29年度は30名の「匠」が誕生した。スタッフの見本となり、正しい確認行動の指導や定着を図ることができた。また各部署において、指さし呼称のマーカーの導入や注意喚起のための腕章、バッジの導入など工夫がなされた。
その結果、今年度は年々増加していた患者誤認のインシデントが72件となり、昨年度より7件減少させることができた。重大事故につながる事例もあるため今後も医療・ケアを提供する最終実施者としての看護職の責任の重さを自覚し、医療安全への意識改革と確実な確認行動を実践する組織風土の確立に努めて行きたい。
2.看護部の主な取り組み
1)人材育成・キャリアアップにつなげる多様な配置異動
看護部では、適した人材が適した部署や職務に就けること、看護の質・量の調整、業務の円滑化、労働条件を平均化することで職場全体の活性化につなげることを目的に毎年定期配置異動を行っている。しかし、近年臨床経験年数を増すごとに部署異動を望まない職員が増えており、定期配置異動とは異なるキャリアアップ支援する多様な配置異動の運用を開始した。いずれも、師長との目標面談で異動者の承諾を得た。
- 短期間部署人事交流(ローテーションジャーニー):対象3年目以上、2か月間
- 体験型期間限定:対象2年目以上、1~2年間
- 急性期集中治療室限定:対象2年目以上、6か月以上
- 小児・母性系限定:対象2年目以上、1~2年間以上
- 院内留学(放射線治療棟限定):対象ラダーレベル2以上、4週間。
ローテーションジャーニーは短期間だが、他部署で専門性を学び、自部署へ活かせる看護を見出すと同時に業務改善の視点での学びもあった。急性期や小児母性系は少人数からの開始で、成果にはまだいたっていない。ただし、得意分野としてジェネラリストを目指すためスムーズな異動受け入れにつながった。今後も、主体性のある多様な部署間での配置移動、人事交流を継続し、キャリアップを支援していきたい。
2)看護部経営・質評価会議活動および労働と看護の質データ―ベース(DiNQL)参画による看護の質向上への取り組み
H29年度は、DiNQL事業参加の全国の病院と「褥瘡発生データ」をベンチマークした。
褥瘡発生率と実労働時間数は関連性がなかった。皮膚排泄ケア認定看護師が少ないが褥瘡率は低い結果であった。国立大学の褥瘡発生率順位が徐々に下がる傾向があり、今後も継続的に研修会を実施し、一人一人の観察力、判断寮、アセスメント力を高める必要がある。
3)働きやすさへの取り組み
超過勤務対応
超過勤務時間の削減に向け、主任師長会を中心にワーキングを立ちあげた。管理者の超過勤務対策は数年前も実施したが明らかな成果とはいいがたく、労務管理の責任者である師長の意識改革に踏み出した。
また、他施設の働き方改革の取り組み事例を参考に、申し送り改革を実施した。勤務前の情報取集を勤務開始と同時にスタートさせ、勤務前超過勤務を段階的に無くしていった。
出勤に余裕ができた反面、情報収集方法に工夫が必要という課題もあり、引き続き改善に取り組む。
さらに、休日の病棟内会議、委員会・リンクナース会の参加が常態化されており、看護部としての超過勤務扱いの範囲を明確にした。業務以外で病院に出ることを極力なくす方向で取り組みを勧め、休み中の出勤時間は呼び出し対応とした。次年度も引き続き「働き方改革」に取り組んで生きたい。
結婚・育児支援パスの改訂
今までの育児支援パスは、産休・育休者のアンケート調査結果から66%がスムーズな手続きに繋がっていたが、反面、記載してある内容が実践できてない現状や、事務手続き上わかりにくい項目があり困った経験をしていた。看護部・人事係・職員係で検討し、書類を提出する係や提出時期をさらにわかりやすく改訂した。名称は、「結婚・育児支援パス」と変更し、結婚した時から必要な手続きの流れがよりわかりやすくなった。
4)キャリアアップ支援
院内研修は59研修、207回開催し、延べ5051名が受講した。新人研修は35回開催し、他院から6施設27研修、21名を受け入れた。院外研修・学会参加者は1219名でそのうち514名が出張対応で受講した。認定看護師育成に関しては、新たに救急看護認定看護師1名と緩和ケア認定看護師が誕生した。現在2領域4名の専門看護師、15領域29名の認定看護師が臨床において実践モデルとして質の高い看護サービスを提供している。また、院外の看護職員へも研修会を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップにも貢献している。
認定看護師による新たな活動
精神科認定看護師のリエゾンナースとしての活躍
リエゾンチーム加算算定に必要なカンファレンス運営や、コンサルテーション(患者および看護師)を主に活動を行っている。看護師の暴力被害などのメンタルヘルスケアの介入も行う。精神科リエゾンチーム加算件数は50~60件/月であった。
アピアランスケア外来の新設
がん看護専門看護師と乳がん看護認定看護師が行う「アピアランス外来」を開始した。手術療法、化学療法、放射線療法、内分泌療法の副作用による見た目に悩む患者・家族の相談を受けている。相談件数は約10件/月であった。
5)1日看護体験・看護サマーセミナー研修報告
1日看護体験は、中学生30名と高校生71名の合計101名の参加があり、看護師の仕事を理解する機会となった。看護学生が参加するサマーセミナーは19名の参加があり、就職先を検討する目的で参加した人が多かった。参加人数増加や研修生振り返りより、将来の就業先として医療職への関心の高さが伺えた。
6)標準化された指標による看護実践能力の評価
鳥大版管理者ラダーの作成
現行の副看護師長ラダーと看護師長ラダーを統合し、鳥大版管理者ラダーを作成した。管理者育成に向け管理能力を段階的に評価することを目的としている。
鳥大版看護師クリニカルラダーの開発
鳥大の目指す看護実践能力が高い看護師の育成を目的とし、日本看護協会のクリニカルラダーを基盤とし鳥大版看護師クリニカルラダーを作成した。
7)自宅訪問・他施設訪問
患者が退院後も住み慣れた自宅で暮らせるよう、地域と連携し退院支援を行っている。退院前または後に自宅訪問を行い、自宅環境の確認や患者の生活状況を確認する事で、より効果的な支援が行えるよう努めている。自宅訪問した患者数は200名(訪問した看護師は315名)であった。また、他施設転院時に看護師が同行し、患者情報を直接伝える事で転院先施設が安心して患者を受け入れる事に繋がった。他施設訪問件数は52件(訪問した看護師は64名)であった。今後も継続した退院支援を実施するとともに、入院前から情報収集を行い必要な患者への退院支援を推進していく。
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8) 他部署研修報告
看護師のスキルアップや知識向上を目的とした「他部署研修」は188件の報告があった。研修者受け入れの多い部署は、手術部92名・AIMIT24名・救命センター23名であり、研修時間は1日または半日の研修者が多かった。手術を見学する事で術後観察項目の重要性が再認識できた等、看護実践に活かす事ができた。今後も他部署研修を継続し看護の質向上に繋げたい。
9)ものづくりWG活動
企業、新規医療研究推進センターと協同し、新たに平成29年度は以下の製品を共同開発した。
①水対応簡易シーネ「ぬれてもいいからっ。」
病棟8階A(整形外科)のスタッフからの発案で作成。頸椎患者術後の入浴時に使用する。特長:スポンジ製で軽く、水に強く、付け外しが簡単にできる。
②訪問用ポロシャツ、訪問用かばん
患者宅、他施設訪問時に着用する。ポロシャツの背中のデザイン画は病棟3階Cの看護師が担当。かばんも同様の絵柄とした。
③とりだいブランドユニフォーム
H31年度ユニフォーム更新時期に合わせ、H28年より看護部管理室・福利厚生Pメンバーを中心に全スタッフから要望を丁寧に聞きとり、自分たちが着たい、鳥大看護部オリジ ナルのユニフォームが完成した。統一感のあるデザインに仕上がった。
10)病棟取り組み報告
病棟2階CD(救命救急センター)
医療安全腕章 BSCで医療安全を強化した取り組みを実施している。スタッフがデザインした腕章を各勤務帯でリレーしている。
病棟8階A
カートドッグ 電源ピット ものづくりWGの活動のひとつ。職場環境改善でナースステーションにワゴン用の電源ピットを導入。中央の机を廃止したことでナースステーションが広く感じられることや、PCをカウンターに移動し師長、リーダーが患者、来訪者の方へ迅速な対応ができるようになった。(その後、8B7AB6AB5AB3AB2ABに導入)
病棟3階AD
分娩室改装:新たにリニューアルされた分娩室、陣痛室、重症処置室。
病棟8階A
転倒予防指導士、骨粗鬆症マネージャー資格者を中心に「転倒予防体操」を考案。水戸黄門の音楽に合わせ行う。依頼があれば病棟訪問し指導を実施している。
病棟7階A
病棟廊下の歩行訓練リハビリ用に13の山の標高を表示し、患者さんの意欲が出るよう工夫をした。病棟、理学療法士、施設環境課と協働で設置。
有名な山々がずらっと並んでおり、楽しく歩行訓練をしてもらえるよう工夫。
写真の山が病棟廊下を何日歩いた高さか、目安を記載している。