平成29年度の当科の現況を振り返る。

　平成29年度の総手術件数は3,183件で、前年度の2,713件を大きく上まわり、ここ10年間でも最も多い件数となった。
例年通り手術の内訳でウエイトを占めているのが、白内障手術と加齢黄斑変性などに対する硝子体内注射である。29年度は、白内障手術が前年度に比べて約200件も増加し1,000件に迫る数（988件）となり、また硝子体内注射は増加の一途をたどり、ついに1,000件を超える件数（1,060件）に達した。
　今回の白内障手術件数の増加には、以前は週2日ほどであった手術日が近年 週5日（平日毎日）に増えたことが寄与していると思われる。
　また、硝子体内注射は、ほとんどの症例が血管内皮増殖因子(VEGF；Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療である抗VEGF抗体の注射で、加齢黄斑変性などの眼内新生血管抑制以外にも、視力低下の原因となる黄斑浮腫に対しても効果があり、黄斑浮腫を引き起こす糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に対しても適応がある。そのため、高齢化や糖尿病患者の増加に伴い、注射件数は年々増加しており、今後も増加していくと思われる。

　さらに、上記のような薬物治療では対処できない黄斑上膜、黄斑円孔などの外科的な硝子体手術が必要な網膜疾患に対しては、極小切開硝子体手術に対応できるアルコン社のコンステレーション機器を用いて、低侵襲の硝子体手術を行っており、入院期間の短縮や患者さんの早い社会復帰に貢献している。

　そして、角膜疾患においては、従来主流であった全層角膜移植に加えて、近年注目されている角膜内皮移植を当院でも行っている。角膜内皮細胞を含む深層角膜側のみを移植する角膜内皮移植の利点は、全層移植に比べ、角膜上が無縫合であるため大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを軽減できることにあり，移植後の問題点を軽減するという角膜内皮移植を選択することで患者さんの負担を減らすことへと結びついている。　

　また当施設では手術治療以外にも、臨床所見のみでは診断のつきにくい前眼部感染性疾患に対しReal-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRにより微量のサンプルからも病原体を検出でき、病原体の量を数値化できることから治療効果の判定にも非常に役立っている。そのため県内のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例を多数紹介いただいており、山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も担っている。

　以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。白内障のような基盤的手術のみならず、新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。高齢化に伴い白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の疾患は更に増加すると予想され、今後のさらなる患者数・手術件数の増加に対応するためには十分な設備投資と検査員等の増員・関連病院との連携などが不可欠である。

（文責：川本 由紀美）