看護部

1.看護部目標:「一人ひとりが主体的に取り組み、強みを活かした組織づくり」

2025年を見据えた社会保障制度改革の動きが進み、少子・超高齢・多死社会における保健・医療・福祉体制の再構築は、看護職が立ち向かっていくべき大きな課題である。複数の疾病を抱えながら暮らす人々が増え、それらの人々の療養の場が暮らしの場にシフトする中で、健康・医療と生活、両方の視点を持った看護職には、多様な場で役割を発揮することが求められている。

平成28年度は、看護部理念の改訂を機会として、特定機能病院である鳥取大学医学部附属病院の専門職として組織の中で働く意味を考え、個々の強みを活かし、それぞれの部署が目指すべき目標に、看護職一人ひとりが主体的に取り組んだ。

 

1)教育・人材育成

各部署がそれぞれの目指すべき看護の目標達成のために、フィジカルアセスメントスキル向上、コミュニケーション技術向上、考える力の醸成、専門分野の知識・技術習得、インシデント分析力向上の教育・人材育成に取り組んだ。

2)看護実践

各部署が専門分野での意思決定支援・成長発達支援・難病の受容支援・母乳育児支援などの患者・家族に対する支援、包括的心臓リハビリ、安楽な呼吸管理、鎮静・不安・せん妄ケア、妥当なフィジカルアセスメント、摂食嚥下機能維持・改善、アーリーモビライゼーションを実践し、患者満足度の向上、患者の機能改善・早期離床、看護師のケアへの自信に繋がった。

また、T-HOC開講を機に看護師の在宅志向が高まり、患者の自宅訪問件数は平成27年度の15件から平成28年度は48件に増加した。今後、医療依存度の高い患者や終末期にある患者が地域で療養することが多くなるため、さらに退院調整や在宅支援の能力を高め、患者家族の個別性を考慮した退院支援の役割を果たしていくことが必要である。 

3)患者・家族満足度

患者満足度調査では、平成27年度より満足度がやや低下しており、特に「家族との絆を強める」が平成27年度の82.7%と比較して78.9%と低値になっている。これは、在院日数が短縮されるなかで、患者・家族と個別的な退院支援の話し合いが、まだ十分に実践できていないことが要因と思われる。今後も委員会、各部署での取り組みを継続して退院支援体制を整備し、患者・家族が望む退院支援を推進していくことが必要である。

一方で、「患者への接近」、「看護師の態度」に関しては93%以上の高い満足度となった。これは、固定パートナーにおける担当看護師役割実践状況が平成27年度の83%から、平成28年度は92%に上昇した成果と考える。

4)職務満足度

職務満足度調査では、改善不要の割合が65.8%で平成27年度の63.7%より2.1%上昇した。特に、同僚支援が79.2%、職場環境が73.2%と高かった。これは、個々の強みを活かし、それぞれの部署がやりたい看護・目指すべき看護について語り合い、看護職一人ひとりが主体的に目標に取り組んだ成果と考えられる。しかし、病棟間での差も見られるため、今後も看護部全体として、組織の活性化に努力したい。

 

2.看護部の主な取り組み
1)看護部理念改訂

 今までの看護部理念は大学病院の基本方針に準拠するもののみであり、ビジョンが明確ではなかった。そこで、H28年度国立大学病院、鳥取大学医学部附属病院の理念にベクトルを合わせ、全看護職員の意見を反映し、新たに看護部の理念を完成させた。患者に寄り添い、高い倫理観と人間性豊かな、質の高い看護が実践でき、地域に貢献できる看護師を目指すことに主眼を置いた。以下に理念、基本方針を示す。

<看護部 理念>

  共に歩む看護

 私たちは専門性の高い看護の提供、看護の教育・研究を推進し、地域の人々と共に歩む看護を実践します。

<看護部基本方針>

【看護】私たちは、患者に寄り添い安全で安心できる専門性の高い看護を提供します。

【教育】私たちは、高い倫理観を持ち、人間性豊かなすぐれた看護職を育成します。

【研究】私たちは、研究を推進し、看護の質の向上に寄与します。

【地域・社会貢献】私たちは、地域連携を推進し、社会に貢献します。

【国際化】私たちは、国際交流を推進し、グローバル社会に対応できる看護師を目指します。

2)労働と看護の質データ―ベース(DiNQL)参画による看護の質向上への取り組み

 日本看護協会は、看護職が健康で安心して働き続けられる環境整備と看護の質向上を目指し、DiNQL事業を開始した。目的は、「①看護実践をデータ化することで、看護管理者のマネジメントを支援し、看護実践の強化を図る②政策提言のためのエビデンスとしてデータを有効活用し、看護政策の実現を目指す」である。

看護部では、H8年より看護の質となる指標項目を経年的にデータ化し、毎月、看護部質・評価会議を開催し分析・評価を実施してきた。これまでは、院内のみのベンチマークのみに留まっていたが、DiNQL事業に参画したことで全国の参加病院との比較ができ、当院看護部の看護の質が可視化できるようになった。DiNQL事業開始初年度であり、全国立大学病院の参加に至っていないが今後徐々に参加大学が増加し、より厳密な評価につながることが予測できる。

今年は「転倒転落」「褥瘡」を分析し新たな課題を見出し、業務改善を繰り返し、より質の高い看護実践につなげることができた。今後も継続し看護の質向上に取り組む。

 

3)病棟に事務的業務を行う看護アシスタント(看護助手)配置 

 H22年から50:1急性期看護補助加算が新たに算定開始となり、7:1病棟に看護アシスタント(看護助手)が4~5名配置され、看護師の業務負担軽減につながっている。さらに、H28年度診療報酬改定により、主として事務的業務を行う看護補助者の配置が可能となった。(当該病棟の入院患者数が200またはその端数を増すごとに1以下であることが条件)看護師長、看護師が行っている事務作業に関することを委譲し、さらなる負担軽減に繋がっている。特に、ナースステーションのカウンターに常駐することで、患者・家族への対応、院内外からの電話対応が迅速にできるようになった。看護師長、看護師の超過勤務軽減への効果もみえつつある。今年度は1名のみ配置となったが、次年度より最高10名の配置を目指し、看護職員の負担軽減につなげていきたい。

 

4)ものづくりWG活動

 H26年の情報システム更新に伴い、電子カルテの周辺機器として看護業務に使用するラウンド用ワゴンを企業と共同制作した。通称「とりりんワゴン」である。現在では、商品化し販売にこぎつけた。その後も、新規医療研究推進センター(旧:次世代高度医療推進センター)と協同し“ものづくりWG”を立ち上げ、平成28年度は鳥取県内の企業と2つの製品を共同開発した。また、県外の企業と学会等を通じ交流ができ、とりだいブランドとしての製品化の開発にも取り組み始めた。

 

①くすりがみえ~る … 麻薬の内服薬保管に用いる専用のファスナー付きファイル

くすりがみえーる

 

②たぐりん  … 医療現場のタグ取付器(インシデント防止、ワンタッチのタグ付けで作業効率UP、点滴ルート、シリンジ、試薬の管理に使用)

たぐりん

 

③とりだいブランドユニフォーム

看護師長以上の管理者のユニフォームを鳥大病院看護部オリジナル製品として製作。“高貴な青色”で管理者が一目でわかり、活動的なスクラブタイプとした。また、ジャケットも同時に作製し、イベント、セレモニー時に着用する。スタッフは、ユニフォーム更新時期に合わせ、一般病棟、急性期病棟、小児・母性病棟それぞれで、全スタッフから要望を丁寧に聞きとり、自分たちが着たいユニフォームの完成を目指す。H30年度にはデザインを決定し、H31年度より新ユニフォーム着用予定である。

④コクヨ(株)との共同研究

 病室の限られたベッドサイドスペースを有効に利用し、医療者が使用する物品を適切に管理する収納方法を見出すことが急務となっている。そこで、コクヨ(株)と共同で病棟の実態調査をふまえ環境改善に有用な医療者専用収納・ワゴンの開発に取り組みだした。H29年度完成を目指す。

 

5キャリアアップ支援 海外留学

  院内研修は24研修、54回開催し、延べ2811名が受講した。新人研修は47回開催、他院から7施設24研修、31名を受け入れた。院外研修・学会参加者は968名でそのうち530名が出張対応で受講した。認定看護師育成に関しては、新たに手術看護認定看護師1名が誕生した。現在2領域4名の専門看護師、13領域23名の認定看護師が臨床において実践モデルとして質の高い看護サービスを提供している。また、院外の看護職員へも研修会を通して専門的な知識・技術を指導し、地域の看護のレベルアップにも貢献している。

  また、助産師1名がオーストラリアに4か月間海外留学し、語学留学を通して国際的な視野を広げた。

 

6)看護研究コンサルテーションによる支援

  34件の看護研究に対し延べ87回の看護研究コンサルテーションを行った。しかし承認された研究は24件、病院の倫理審査の承認が得られた研究は10件であった。平成27年度は64件の看護研究の提出があったことから倫理審査申請方法が厳しくなったことが今年度減少した要因と思われる。次年度は倫理審査だけでなく個別に指導できるメンバーを増やし、大学院を修了したスタッフで組織化を図っていく。

 

7)新たな研修 英会話、手話

  外国人患者の増加や、海外留学医学研修生の対応に前向きに取り組む目的で「ベッドサイド英会話」研修を6回コース(60分/回)で開催し21名が修了した。また、聾唖患者さんのコミュニケーションの不安を和らげる目的で「ベッドサイド手話」研修を手話王国鳥取県の予算を得て、5回コース(60分/回)で開催し19名が修了した。看護の専門分野のみでなく、患者とより良い関係づくりを行うためにも有意義な研修となった。

 

8)退院支援の新たな体制整備

  平成28年度 診療報酬改定では、「患者が安心・納得して退院するための退院支援等の充実」が提示された。新設された退院支援加算1は、退院支援業務に専従する職員を病棟配置にする事、連携医療機関との定期的な面会を実施している事、ケアマネージャーとの連携実績などが施設基準となった。そこで、入退院センターに配属となっていた看護師11名を全て病棟配置し、退院支援専任看護師として退院支援促進を図った。

さらに、退院支援促進の体制を構築するため、退院支援副師長会を立ち上げた。退院支援副師長会には退院支援専任看護師をメンバーに加え、病棟看護師と退院支援専任看護師の役割を明記した退院支援フロー図を作成した。退院困難患者には、患者本人・家族の希望を取り入れた退院支援カンファレンスを実施し、退院後は外来受診時に退院支援計画の評価を行った。

このような活動の結果、退院支援加算1の年間算定件数は2046件となった。今後は病棟看護師の退院支援に関する意識向上を図ると共に退院支援専任看護師の人材育成等に取り組み更に退院支援の充実に向けた活動を行っていく必要がある。

 

9) 認知症ケア加算取得体制整備

  平成28年度診療報酬改定で、認知症患者への適切な医療の評価のため新たに認知症ケア加算1と認知症ケア加算2が新設された。認知症による行動・心理症状や意思疎通の困難さが見られ、身体疾患の治療への影響が見込まれる患者に対し、病棟の看護師等や専門知識を有した多職種が適切に対応することで認知症の症状の悪化を予防し身体疾患の治療を円滑に受けられることを目的とした評価となっている。

  看護部師長検討会で認知症ケアマニュアルおよび認知症ケア加算取得フロー図を作成し、平成28年度は認知症ケア加算2の算定から開始した。認知症患者のアセスメントや看護方法等について研修(9時間以上)を受けた看護師を名病棟に複数名配置することが算定基準となっているため研修会参加を推進し、37名が受講した。

このような活動の結果、認知症ケア加算2の年間算定件数は190件であった。高齢患者の増加に伴い、今後増加していく認知症患者のケアを適切に行い、認知症ケア看護の質を向上できるよう活動を継続していく。

 

10) 熊本地震、鳥取県中部地震へのDMAT派遣

平成28年度は4月に熊本地震、10月に鳥取県中部地震に当院災害時派遣医療チーム(以下DMAT)を派遣した。

熊本地震では、DMAT活動拠点本部である熊本赤十字病院での情報収集や、診療継続が困難となった病院の入院患者を避難させるため、入院患者の転院搬送を行った。また、2次隊は、阿蘇地区の避難所の安全性や衛生面、医療ニーズなど調査し、必要な支援の調整を行った。

鳥取県中部地震では、地震による医療ニーズは少なく、活動拠点本部で情報収集を行った。転院搬送が必要な患者の抽出、鳥取県西部、東部県域で転院が受け入れ可能な病院や病床数を確認し、各病院へ搬送依頼の調整を行った。

 今回の派遣は、DMAT本部の活動を主に経験でき、正確な情報取集と情報の共有を行い確実な調整を行うことの重要性が理解できた。