眼科

 平成28年度の当科の現況を振り返る。

 当科の平成28年度の総手術件数は2713件であった。昨年と同様に2700件を超える手術件数を維持していた。

 手術の内訳で大きなウエイトを占めているのが、昨年同様に白内障手術と加齢黄斑変性などに対する硝子体内注射である。特に硝子体内注射は昨年より約200件の増加があった。

 硝子体内注射は、加齢黄斑変性や増殖糖尿病網膜症などの眼内新生血管を生じる疾患に対し、血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療であり、抗VEGF抗体を硝子体内に注射するものである。近年は、加齢黄斑変性などの眼内新生血管抑制以外にも、視力低下の原因となる黄斑浮腫に対しても効果があり、黄斑浮腫を引き起こす糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に対して保険適用が拡大された。それに伴い、適用患者は増加しており、当科でも積極的に治療を行っている。今後も高齢者や糖尿病網膜症の患者の増加に伴い、硝子体注射のニーズはますます増加することが予想され、手術件数は増加するものと思われる。

 また角膜移植においても従来主流であった全層角膜移植に加えて、近年注目されている角膜内皮移植をH20年度より導入し行っている。角膜内皮移植は、角膜上が無縫合であるため、全層角膜移植に比べ大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを軽減できるというメリットがある。乱視が軽減できることで、従来の移植方法より患者様の術後の見え方の質(Quality of vision)を向上できることが期待され、今後もその手術件数は増加することが予想される。

 また当施設は山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も持っている。臨床所見のみでは診断のつきにくい感染性角結膜疾患に対し、Real-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRは微量のサンプルから病原体を検出でき、病原体の量を数値化できることから治療効果の判定にも有用な検査である。この方法は当科で独自で立ち上げたものである。このため、山陰のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例を多数紹介いただいている。

 以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。高齢化に伴い白内障・緑内障・加齢黄斑変性等の疾患は更に増加することが予想され、今後のさらなる患者数・手術件数の増加に、安全性を維持しつつ対応するためには、引き続き十分な設備投資と検査員等スタッフの増員・関連病院との連携などが不可欠である。そして、視機能を維持・改善することは、生活の質を維持・向上させるうえで極めて重要であることを、スタッフ一同が強く認識し、日々最善を尽くして診療にあたっていきたい。(唐下千寿)

 

H28年度手術実績

白内障手術

775

後発白内障手術

115

硝子体内注射(抗VEGF抗体)

933

硝子体関連手術

244

網膜復位術(強膜内陥術)

27

網膜光凝固術(PDTも含む)

184

緑内障手術

90

虹彩光凝固術

7

眼瞼手術(下垂、内反)

28

斜視手術

33

角膜移植

26

エキシマレーザーによる角膜切除術

31

翼状片手術

31

涙点プラグ挿入術

17

涙道狭窄関連手術

70

角膜・強膜異物除去術

19

角膜・強膜縫合術

9

腫瘍手術

25

その他

49

合計

2713