看護部
1.看護部 目標
■平成27年度看護部スローガン■
「患者と向き合い、語り、ともに発展させる看護」
看護部では、平成24年より地域へ大きく舵をきり住み慣れた自宅で安心して暮らすことができる地域包括ケアシステムへの取り組みを始めてきた。その結果、これからの看護師は「病院の中にいらっしゃる患者さんの看護」だけではなく「病を抱え人生を歩む方の傍にいる専門職」が求められるという認識が浸透してきた。しかし記録改善委員会、看護質評価委員会、外来入退院センター連携委員会などの各委員会からは情報がないまま看護診断が立てられている、など多くの問題が浮き彫りになった。特に看護質評価委員会が実施している監査ではそれが顕著に現れ長期目標の入力、患者・家族の同意を得た立案、適切なラベル選択などの項目は常に低値であった。当院には先達たちが築いた財産であるマイナースシステムがあり患者・家族の視点に軸足を置いた看護過程の展開を導いている。しかし時を経るに従い形骸化し本来の患者参画とは言い難い状況である。一方、各委員会が実施している事例検討は日々の業務や過去に起こった出来事の真意を探りその経験における自分のあり方を振りかえり、すぐに現場で活用ができている。また新人育成においてもリフレクションの場は自身の看護実践を言語化しメンバーの価値観に触れ整理することにより、よりよい看護の学びとなっている。看護の語りの場は看護のマインドを成長させ人材育成、看護師定着をもたらすことができるといえる。以上のことから平成27年度は看護を語ることで看護観を養い、その看護観を患者参画、パートナーナースによる固定チーム体制でケア提供することによりさらなる上質な看護へと発展させることに努力することに主眼をおき、目標管理を行った。
戦略目標1)患者参画とTPNSによる上質な看護の提供
地域包括ケア体制の整備が進められる中、大学病院の看護師が果たすべき役割は、患者が希望する在宅へ早期に退院支援することにある。このような支援を行うために、看護部では担当ナース役割の見直し、メディカルスタッフや専門・認定看護師などと連携したチームによる医療の提供、フィジカルアセスメントの向上、個別性のある退院支援などに取り組んできた。しかし、平成26年度看護部質評価委員会が行った看護記録の監査では患者目標が退院を想定した長期目標になっておらず、十分な情報を得ないまま習慣化された看護診断、計画立案による看護ケアが提供されていた事例が複数見受けられた。そこで平成27年度は、看護記録改善委員会で事例検討を通して改善に取り組んだ。患者参画とTPNSをさらに充実させ、患者・家族が望む質の高い看護の提供を目指し患者満足につなげる活動を展開した結果、日勤でほぼ全病棟に、さらに夜勤では1病棟を除く全病棟でTPNSを導入することができた。実践のリーダーとして看護システム担当副師長に推進を委ねることで固定パートナー実践率は前年度89%から91%に向上し、TPNSでの担当ナース役割の定着に繋げることができた。さらに入院患者満足度調査の結果においては5段階評価4以上が94%と前年度91%より上昇することができ、特に「看護師から大切にされている」との回答が最も多く、担当ナースの役割の発揮により看護の質に対する高い評価を受けることができた。
戦略目標2)看護の語りによる看護マインドの醸成
平成27年度、全部署で看護を語り合うことで看護の本質や面白さや奥深さを感じ看護観を深め看護マインドの醸成に取り組み、やりがい感を深めることに取り組んだ。取り組みの成果としては、倫理事例検討・ケアカンファレンスの推進、医療安全・患者指導・看護実践場面の看護観を語ることによる看護師満足度は5段階評価4以上99.8%、やりがい感85.8%となった。12月には大阪府立大学看護学部紙野雪香先生を講師に迎え中堅看護師55名がナラティブアプローチについて学び、講師から取り組みについて肯定的な評価を得たことも満足・やりがいにつながったと言える。12月に行った職務満足度調査結果は5段階評価4以上93.2%と前年度63%に比し大幅に上昇し、裁量・権限委譲、技能活用、やりがい感の改善、上司の支援を望む項目は改善が見られた。前年度の課題であった看護師長による内的動機づけと看護の語りを全部署目標に設定したことが職務満足度向上につながったと考える。
2.看護部の主な取り組み
1)褥瘡発生率国立大学病院中、第1位(最も低い発生率)
褥瘡発生率は「医療の質」「看護の質」を客観的に評価するための重要な指標の一つである。当院は、国立大学病院看護部長会議による「平成26年度看護の質評価指標調査」で新規褥瘡発生率が0.19%と、42国立大学病院中最も低い結果となった。専従の皮膚排泄ケア認定看護師が重症患者の多い急性期病棟や褥瘡発生数の多い病棟、手術部を中心に組織横断的に活動し、褥瘡専任看護師と共に予防計画の立案やケアの実践、指導を行ってきた。褥瘡予防の段階からNSTなどの他の医療チームや、リハビリセラピスト、他分野の認定看護師などとカンファレンスなどを通じ、積極的に連携してきた成果であるといえる。また、平成24年度より褥瘡専任看護師の育成として院内認定制度を設け、現在422名が取得している。さらに新人教育、褥瘡ケアコース研修、外部講師による院内全体研修など人材育成にも積極的に取り組んでいる。今後はより質の高い褥瘡ケアが提供できるよう病院全体で取り組みを続けると共に、地域の医療機関などとより一層の連携を図り、鳥取県全体の褥瘡対策の質の向上に向けて努力を続けていきたい。
2)外来中央処置室稼働開始
各外来の処置業務を集約化し、医療・看護の質向上を図ることを目的に外来処置室の稼働を開始した。外来3階にベッド数10床(オープンスペース6床・個室4床)、看護師3名を配置した。1年間の利用件数は2315件で、処置の内訳は注射30%、点滴24%、安静観察20%、安静採血10%等であった。診療科毎の内訳は乳腺胸部外科36%、消化器・腎臓内科18%、循環器・内分泌代謝内科17%であり3階フロアの診療科の利用率が多かった。今後も外来中央処置室をより多く利用できるよう対象患者の拡大や予約方法等検討していきたい。
3)接遇大賞受賞(病棟2階C 救命救急センター)
救命救急センターがBSC(目標管理)で取り組んだ“「全ての人に神対応」をキャッチフレーズとした看護のおもてなしの実現”が2015年日総研 第1回「接遇大賞」を受賞した。受賞理由は、“救急現場ならではの特長を生かし「神対応」の接遇に挑戦している”であった。救急救命センター看護師の特徴を生かした独自の接遇実技試験、自己評価や患者満足度調査結果により改善し続けた活動が認められた。実際に、現場にも評価者が訪れ、スタッフ同士のコミュニケーションが非常にスムーズでわかりやすい、相手を配慮した言葉が交わされており自然な笑顔での挨拶が行われていると高い評価を得た。賞に恥じないよう今後も継続した対応が求められるとともに、全部署へも接遇の重要性が再認識された。
4)ものづくりWG活動
看護部と次世代高度医療推進センターとの連携を強化し、さまざまな製品開発に参入している。看護現場でカイゼンが必要とされる看護用具を中心に、スタッフより様々なアイディアを募集し企画を行い企業に提案し、新たな商品開発が可能と判断されたものから取り組みを開始している。企業との共同開発で作製した“とりりんワゴン”の販売も進めており、医療器具等の展示会で発表した。他の企業から共同開発へのオファーがあり新たにワーキングも立ち上げている。今後は、とりだいブランドとして確立できることを期待している。
開発商品例)
■ 病棟5階A発信 … インスリン注射ラウンド用ケース
■ 病棟8階A発信 … 弾力包帯圧測定器具
■ 内服薬管理ファイル …麻薬、自己管理薬の保管に使用するファイル
5)在宅医療推進のための看護師育成コース開講
平成27年4月に、医療スタッフ研修センターに在宅医療推進支援室が新たに設置され、5月から在宅医療推進のための看護師育成プログラムが開講となった。基礎教育の在宅看護論をHome Oriented Care(病院内における対象者の在宅生活を志向したケア=HOC)の概念に発展させたものである。①在宅生活志向をもつ看護師育成コースでは、新任看護師38名(うち当院看護師37名)がHOCノートを用いた個人課題等により在宅志向を深め、②在宅医療・看護体験コースでは、病院看護師27名(同18名)が訪問看護や退院後家庭訪問を体験し、③訪問看護能力強化コースでは、訪問看護師や潜在看護師の7名(同0名)が訪問看護ステーション実習等により、それぞれの訪問看護能力を強化した。3回の集合研修と日野町文化センターにてケアプロ株式会社事業部長を招いての宿泊研修「ひのセミナー」、淀川キリスト教病院訪問看護ステーション等見学により、病院看護師への在宅志向への涵養という目的を達成した。
6)退院支援調整 在宅訪問開始
平成27年度診療報酬改定により、中重度の要介護者や認知高齢者への対応がさらに強化され、介護人材確保対策の推進、サービス評価の適正化と効率的サービス提供体制の構築が要求された。それを受け、入退院センター看護師と病棟看護師が連携し退院支援を行うことで、退院調整加算取得が平成26年度555件から平成27年度848件に増加した。看護師が訪問した患者は17名で、延べ回数は26回となった。訪問者は、入退院センター看護師が最も多く、ついで皮膚排泄ケア認定看護師、緩和ケア認定看護師、病棟看護師であった。退院前・後、外泊時、入院前、外来通院中とさまざまな場面で患者宅を訪問し、在宅での生活環境、支援状況について、患者・家族、訪問看護師・ケアマネージャー・業者と合同カンファレンス等を重ねていった。診療報酬算定要件を満たしていないため加算対象とはならなかったが、次年度は、看護の専門性を発揮することによる診療報酬算定につなげるために算定要件を満たしていく必要がある。
7)シミュレーションセンター稼働
平成27年度4月にシミュレーションセンターの運用が開始となった。看護部から中堅看護師1名を派遣し運用を支援した。利用実績は、平成26年度3886人から平成27年度は6323人と急増した。最も多いのは学内看護師で延べ3255人が利用した。シミュレーターは92種を管理しており、今後は、管理・補修のため利用料金の設定、院外利用者へのPRなどが課題となる。
8)看看連携強化
平成26年より地域関連病院の看看連携を推進することで、それぞれの病院の機能分化・強化を図り地域医療の充実に繋げることを目的に看看連携のシステム作りに取り組んだ。平成27年度は関連病院から当院へのニーズ調査の結果をもとに取り組んだ活動について看看連携実績報告会を行い看看連携の効果や課題について情報共有を行った。看看連携内容としては、コース研修・新人研修への参加、褥瘡回診・リンクナース会参加、感染認定看護師の病院ラウンド、転院患者の多職種カンファレンス等を実施した。また、担当看護師が転院患者と共に転院先に行き患者情報伝達やカンファレンスを実施するなど当院の看護師が院外で活動する機会が増加した。今後も定期的な情報交換を行い効果的な看看連携を推進していきたい。
9)アドバンス助産師誕生
平成24年日本看護協会の「新卒助産師研修ガイド」「助産師のキャリアパス」「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)」が公表された。それを受け、当院の助産師クリニカルラダーを構築し、各レベルに対応した教育プログラムを作成し実践してきた。分娩介助100例以上、新生児期の健康診査100例以上、妊娠期の健康診査200例以上、産褥期の健康診査200例以上、プライマリーケース20例以上を習熟した「助産師クリニカルラダーレベルⅢ」の認定を受けた看護師5名が誕生した。助産師が継続的に自己啓発を行い、専門的能力を高めることにより、妊産褥婦・新生児に対し、安全で安心な助産ケアを提供でき、社会や妊産婦からの役割期待に応えることが出来る助産師の育成が実現した。
10)学童保育開始
看護部では多くの取り組みにより、毎年、全国平均より離職率が低いという結果がでている。しかし、就学前の子育て支援に比べ、依然として子供が小学生になる時期の離職を防ぐ対策は難しく、キャリアを積んだ中堅看護師が離職せざるを得ない現状が少なからず生じている。そこで、病院職員の仕事の継続を推進し、「頑張って働く職員を応援する」という病院の方針により、平成28年1月18日より学童保育が開始となった。夜間お泊り学童保育、民間学童保育終了後の一時預かりへの利用が可能となり、核家族、ひとり親家庭にとっては安心して働くことができ、さらに離職防止にもつながっている。時間の不規則な勤務形態、夜勤のある看護職員にとっては生涯働き続けられるシステムが構築された。