眼科

当科の平成27年度の総手術件数は2,746件であった。
例年通り手術の内訳でウエイトを占めているのが、白内障手術と加齢黄斑変性などに対する硝子体内注射である。特に硝子体内注射の件数は年々増加傾向であり、今年は白内障手術件数(739例)とほぼ同数(738例)であった。血管内皮増殖因子(VEGF;Vascular endothelial growth factor)を標的とした治療である抗VEGF抗体の硝子体内注射は、加齢黄斑変性などの眼内新生血管抑制以外にも、視力低下の原因となる黄斑浮腫に対しても効果があり、黄斑浮腫を引き起こす糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症に対して保険適用が拡大されたため、適用患者はますます増加していくと思われる。また、硝子体内注射において、
当科では、従来の一泊入院に加え、H25年度から手術室における清潔操作という安全性を維持した日帰り手術の体制を整えたことにより、患者さんのニーズにあわせて入院もしくは日帰りを選択できるようになっている。

 

さらに、上記のような薬物治療では対処できない黄斑上膜、黄斑円孔などの外科的な硝子体手術が必要な網膜疾患に対しては、極小切開硝子体手術に対応できるアルコン社のコンステレーション機器を導入することによって、手術による侵襲を少なくし、入院期間の短縮や患者さんの早い社会復帰に貢献している。

 

山陰地方における角膜移植のセンターを担っている当院での角膜移植においては、従来主流であった全層角膜移植に加えて、角膜内皮細胞を含む深層角膜側のみを移植する角膜内皮移植が注目されているが、当院でもこの角膜内皮移植をH20年度より導入した。角膜内皮移植の利点は、全層移植に比べ、角膜上が無縫合であるため大きな乱視を生じないこと、縫合糸に関連した感染が生じないこと、拒絶反応のリスクを軽減できることにあり,移植後の問題点を軽減するという角膜内皮移植を選択することで患者さんの負担を減らすことへと結びついている。


 また当施設では手術治療以外にも、臨床所見のみでは診断のつきにくい前眼部感染性疾患に対しReal-time PCRを用いた病原体の検出を積極的に行っている。Real-time PCRにより微量のサンプルからも病原体を検出でき、また治療効果の判定にも非常に役立っている。そのため県内のみならず近隣の県より診断・治療に苦慮する前眼部症例が多数紹介されてきており、山陰のみならず中国地方における難治性前眼部感染症治療センター的一面も持っている。

 

以上、前眼部から後眼部まで幅広い領域で偏りなく加療を行っているのが当科の特徴ともいえる。白内障のような基盤的手術のみならず、新規あるいは先端医療の導入も積極的に行っており、山陰における基幹施設としての役割を十分に果たしていると自負している。

 

                                       (文責:川本 由紀美)

H27年度手術実績
白内障手術 739
後発白内障手術 108
硝子体内注射(抗VEGF抗体) 738
硝子体関連手術 256
網膜復位術(強膜内陥術) 32
網膜光行後術(PDTも含む) 379
緑内障手術 83
虹彩光凝固術 13
眼瞼手術(下垂、内反) 65
斜視手術 55
角膜移植 27
エキシマレーザーによる角膜切除術 34
翼状片手術 43
涙点プラグ挿入術 14
涙道狭窄関連手術 60
角膜・強膜異物除去術 18
角膜・強膜縫合術 4
腫瘍手術 19
その他 59
合計 2746