歯科口腔外科

  当科は口腔、顎、顔面、頸部に発生する種々の疾患を対象とし、外科のみならず、口腔全般にわたる、いわゆる「口腔科」として対応しています。具体的な疾患としては、歯の疾患はもとより、口唇・口蓋裂などをはじめとした先天異常、顎顔面外傷、顎変形症、炎症、嚢胞、顎関節疾患、唾液腺疾患、神経および味覚異常、口腔粘膜疾患、口腔悪性新生物など多岐にわたります。

 口唇・口蓋裂は外表奇形として最も高頻度に認められる疾患で、日本人は約1/500人の頻度で発症します。当科で加療した口唇・口蓋裂患者は昭和42年の当科開設以来、平成27年までに750例以上に達しています。口唇・口蓋裂にて出生し、当科を紹介されると、まずは保護者へオリエンテーションを行います。時期をみて口唇形成術および口蓋閉鎖術を行った後、言語聴覚士による言語治療を開始します。口唇・口蓋裂患者は上顎劣成長による咬合不全や審美障害をきたすため、矯正専門医による顎矯正も行っています。生後から成人になるまで当科で治療を行います。このような一貫した治療を行えるのは当院の大きな特徴です。

 近年顎変形症患者に対する顎矯正(上顎および下顎の外科的治療を含む矯正)は増加傾向にあり、当院は自立支援法顎機能診断施設基準の届出医療機関であるため、保険診療で顎矯正が行えます。また顎矯正と連携した外科矯正(骨切り術)を2004年以降で52例行い、顎顔面の機能的な回復に努めています。

 口腔がんの治療に関しては、機能温存を目的に、超選択的動注療法をはじめとする化学療法によって、可及的に最小限の手術あるいは保存療法を目指しています。手術をしても、摂食障害が残っては楽しみが減ってしまいます。術後は経口摂取(固形物摂取)ができるまで可能な限り管理をしております。機能温存が困難な場合でも、遊離皮弁や顎補綴、インプラントやエピテーゼを用いることで、機能および整容的な回復に努めています。 

 また当科では口腔がん患者以外に,骨髄炎および外傷等による広範囲の顎骨欠損患者に対しても、骨移植および再建後のインプラント義歯の作成を行っています。

 齲蝕や歯周炎による歯の欠損に対しては、患者ニーズの高まりとともに、上顎洞底挙上術(サイナスエレベーション)なども積極的に行い、デンタルインプラントを私費診療で行っています。近年インプラントによる咬合回復は一般的となってきましたが、トラブル(おとがい部の知覚異常や、上顎インプラント埋入による上顎洞炎など)も増えています。当科ではシムプラントシステムを用いることで、顎骨の重要な神経や空洞をさけて手術を行うことができます。またこのシステムに関しては、患者様により安全にインプラント治療を受けていただけるように、他院にもご利用いただいております。

 現代はストレス社会であることから、生活習慣病である顎関節症は増加しています。当科では顎関節疾患患者に対し、まず薬物療法や理学療法を行い、場合によってはスプリント療法で対応しております。超高齢化社会となり、顎関節脱臼により誤嚥をきたすお年寄りも増えています。習慣的に顎関節脱臼をきたす場合には,自己血を顎関節腔に入れる自己血注入療法も行っています。

 最後に、当科は歯科衛生士を中心に、入院患者(糖尿病、心・血管疾患患者、化学療法患者、嚥下障害患者や人工呼吸器管理患者,手術前の患者)の口腔ケアを医師・看護師などの多職種との連携の下に積極的に行っております。口腔ケアをすることで口腔由来の合併症を予防し、入院患者様の早期退院に貢献しております。

当科の果たすべき役割は幅広く今後さらに重要になると思われます。

 

                                                                                                                    土井理恵子