次世代高度医療推進センター

当センターは、病院長主導のもと、医師や研究者が高度な臨床研究を行うために整備された内視鏡等の医療機器開発を行う医療機器部門、遺伝子診断に取り組むゲノム医療部門、再生医療の応用に取り組む再生医療部門、臨床研究の成果の実用化を促進する産業化臨床研究部門の4部門を柱に、診療科の枠を越えて高度な医療を横断的に行うことを目的としています。また、医療機器の製品化や産業化は病院のバックアップ体制をもとに、経済活動の一翼を担うセンターにしていくべく、積極的な活動を行っています。

♦ゲノム医療部門

全国で130人しかいない認定遺伝カウンセラーのうちの2名を配置し、その他にも臨床心理士などとともにチーム医療による遺伝カウンセリング体制を構築しています。平成25年までの14年間に中枢神経疾患などを中心に、全国から1200検体以上の遺伝子診断を行いました。さらに、日本では施行できる施設が限られる絨毛を用いた遺伝子診断を37例、このうち筋緊張性ジストロフィー症の出生前診断を23例実施するなど、全国でも有数の症例数となっています。今後は、全国の医療施設にも遺伝子診断を提供していきます。また、難病の治療法の開発にも取り組みます。

♦再生医療部門

再生医療では、骨髄ならびに末梢血幹細胞移植による慢性閉塞性動脈硬化症の治療を平成15年から実施し、これまでに13例に施行して良好な成績を上げています。また、万能細胞であるES細胞からペースメーカ細胞を作製し、徐脈性不整脈モデル動物に移植することでその効果を確認し、本年は国際特許を取得しました。また最近は患者からのiPS細胞作製に成功しています。脂肪幹細胞の血管再生に関する研究を行い、臨床への橋渡しも行うことができました。一方、厚生労働省「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」の承認を得て、全国で初めて脂肪幹細胞を使った乳房再建の臨床研究を実施しました。今まで乳がんに対する部分切除による乳房のくぼんだ変形の場合、良い再建方法がないのが実情でした。そこで注目されているのが自己皮下脂肪組織由来細胞移植という方法です。これは脂肪をそのまま注入するのではなく、脂肪から脂肪幹細胞を抽出して、その細胞が豊富な脂肪を移植するという方法です。脂肪組織内には脂肪細胞や血管の壁を作る細胞があり、この細胞を移植することで血管を備えた脂肪組織が作られるといわれています。また、この方法は脂肪の生着率が高い(90%)といわれています。当部門では、平成25年までに5例の乳房再建手術の臨床研究を終了し、術後1年間の定期的な検査により安全性と一定の効果を確認しています。今後、有効性を確認する臨床試験に向けて進む予定です。span>

♦医療機器部門

医療機器部門では、世界の人々の幸せを求め、専門領域の壁を越えて高度な医療及び研究の推進医薬品・医療機器の製品化による地域経済や未来医療への貢献を目指した教育・研究活動を行っています。

平成26年度は、重点プロジェクトとして
 (1) 次世代内視鏡開発の推進
 (2) 「鳥大独自教育プログラム~発明楽の実践~」教育活動の推進
 (3) 厚生労働省国産医療機器創出促進基盤整備等事業の推進 に取り組みました。

1.医療・介護機器開発の推進  医療機器部部門では、医療ニーズにマッチした医療機器の開発とその製品化を目的として数多くのプロジェクトの推進に貢献しました。具体的には、次世代内視鏡、すい臓採取細胞チェッカー(TSCI)、後乗り電動車いす(ロデム)、ロボット歩行器、新型医療用ドリル、内視鏡用新型マウスピース、新しい手術鉗子などの様々な医療・介護機器の開発を進めました。その結果、平成26年 度中には7件の特許出願を行い、民間機関との共同研究を5件実施しました。 上記プロジェクトの中でも、特筆すべき成果としては、すい臓採取細胞チェッカーの開発があります。これは、超音波内視鏡下生検法(EUS-FNA)において、すい臓組織などの生検を効率的に実施するためのデバイスです。従来、EUS-FNAでは検体が採取されても目的とする組織が確実に回収できているかどうかが目視では判別できませんでした。本デバイスは、得られた検体中の組織識別率を高めるための装置であり、血液中のヘモグロビンに特異的に吸収される波長の単色光を照射して観察します。このデバイスを用いることで、組織と凝血塊、血液とのコントラストが強調され、目的とする組織の有無の識別能力が向上しました。臨床現場での使用状況を考慮しつつ筐体の試作を繰り返して改善を繰り返しました。その結果、平成27年2月に(株)アダチから上市することができました。

2.文部科学省未来医療創造人材養成拠点形成事業による「鳥大独自教育プログラム~発明楽の実践~」教育活動の推進

 (1) 発明楽の出張講義  平成26年度は、発明楽の出張講義を以下のとおり実施しました。これらの授業には、内視鏡、(株)テムザックと開発を進めている後ろ乗り車椅子、本田技研工業(株)の歩行アシストとUNI-CUBなどを持ち込み、実演を交えた授業・講演を実施しました。
 ・7月5日:兵庫県雲雀丘学園高等学校
 ・7月15日:島根県立松江南高等学校(理数科クラス1年生38名)
 ・7月17日:鳥取県米子市立伯山小学校(4年生57名)
 ・8月6日:鳥取県立米子東高等学校(鳥取大学医学部内で実施)
 ・8月29日:鳥取県米子市立伯山小学校発表会(4年生57名)
 ・9月13日:とっとりサイエンスアカデミー(鳥取県立図書館)
 ・9月24日:鳥取大学全学共通科目集中講義(学部生72名)
 ・10月27日:鳥取大学医学部(医学科3年生105名)
 ・11月1日:鳥取大学医学部錦祭(受験希望者2名へ次世代高度医療推進センターの説明実施)
 ・11月6日:鳥取大学医学部(医学科1年生111名、生命科学科2年生42名)
 ・12月8日:鳥取大学振興協力会
 ・3月19日:鳥取大学医学部附属病院卒後臨床研修センター(6名)

(2) 大学院生への教育  平成26年10月入学の大学院生に対して「発明楽実践演習」などの講義を実施しました。

3.厚生労働省国産医療機器創出促進基盤整備等事業の推進  医療機器開発人材が医療機関の実臨床部門との往来を可能にするプログラムとして「医療機器開発人材育成共学講座~共に学び、共に育つ~」を開発し、医療機器産業参入準備を進めている企業、参入を希望する企業に対しての勉強会と臨床現場見学会を実施しました。参加企業は15社、参加人数はのべ70名でした。また、医療機器開発人材の交流及び発掘のためのセミナーとして「山陰から医療機器の創出を!~医療機器産業参入のいろは~」をキャッチフレーズにシンポジウムを開催しました。

♦産業化臨床研究部門

本院では、多くの医師や研究者が高度で且つ最先端の研究を行っていますが、研究の実施や継続、研究成果の臨床応用には数多くのハードルがあります。私たちは本院の優秀な研究スタッフがその能力を発揮できるよう、そして研究の成果を臨床現場にいち早く届けられるよう支援を行っています。また、本院の優秀な医療技術や本院が開発した最新の医療機器等を広く海外にも普及できるよう、国際医療連携にも取り組んでいます。

①臨床研究の実施サポート 本院の研究スタッフが適切な臨床研究を行うことができるよう、法律面や倫理面の確認や、先行・関連研究の調査、研究資金の確保、研究協力者との合意取得などの支援を行っています。また、本院で得られた優れた研究成果を臨床応用へとつなげるため、知的財産取得や厚生労働省・関係当局との相談、企業との連携関係構築、応用に向けた研究開発計画の作成支援、臨床試験の手続きなどを支援しています。平成26年は、17件の研究課題について実用化に向けた支援活動を行い、その活動の中で企業32社との共同研究・開発交渉、2件の外部資金の獲得を行いました。

②国際医療連携の推進 ロシア極東地方の大都市ウラジオストクにある極東連邦大学および太平洋医科大学との医療交流を行っています。平成26年度は、太平洋医科大学の医学生に対する「発明楽」の出張授業の実施、極東連邦大学の医療スタッフの本院における医療研修を実施しました。また、台湾の国立研究所 工業技術研究院(ITRI)との学術交流と、医療用ロボットの共同開発を開始するための覚書を締結し、情報交換を行いました。

③研究活動と臨床応用に関する最新情報の発信 活気のある本院の取り組みに関心をもっていただくために、本院で行われている最先端の研究に関する活動内容や、新しい研究成果について、講演会や展示会において合計4回のプレゼンテーションを行いました。
 

♦臨床研究支援部門

①組織替え:7月1日より治験管理センターから次世代高度医療推進センター臨床研究支援部門に組織替えとなり、
 治験のみならず、臨床研究の支援を行っていく事となりました。

②治験支払い制度の変更:組織替えと同時に治験支払いを前払い制度からマイルストーン制に変更しました。 

③スタッフの増員:8月に事務局専任スタッフ1名、10月に CRC1名採用となり、CRCは、計3名となりました。

④地域ネットワークづくりに向けた取り組み:2月に治験ネットワークづくりに向けた医師会を介したアンケート
 調査を行いました。

⑤治験の受入れ推進:6月に院内に向けての新たな治験体制の説明会を行うと共に、治験製薬メーカーへにも
 説明会を開催しました(参加企業:12社)。その後も製薬メーカー開発部門への往訪(7社)あるいは当院
 への来訪(2社)と当院の治験体制について説明後、治験に関する意見交換を積極的に行いました。

⑥治験実施体制の整備と臨床研究支援体制の整備:治験の手順書作成や倫理委員会等の体制の整備に加えて、
 臨床研究に関わる教育(セミナー開催:計4回)、手順書の作成、2015年4月以降の新しい臨床研究の倫理
 指針に対応すべく準備を進めました。

⑦臨床研究支援開始:11月よりCRC による先進医療Bへの支援を開始しました。

⑧治験・製造販売後調査の受け入れ数:新規治験:7件(症例数:24件)、継続治験:22件(症例数:55件)、製造販売後調査:使用成績調査;新規31件、継続43件、特定使用成績調査;新規15件、継続43件