精神科

 鳥取大学では,平成22年以降先進医療「光トポグラフィー検査を用いたうつ状態の鑑別診断補助」が実践してきましたが,全国的な共同研究の成果が認められ,平成26年度より,「抑うつ状態の鑑別診断」の検査として正式に保険適応が認められました.メディアでも問題になっている通り,気分の落ち込みや興味関心や意欲の低下が生じる「抑うつ状態」は狭義のうつ病だけでなく,双極性障害,統合失調症,認知症,神経発達症など,様々な疾患や障害で起こりうる病態です.近赤外光を利用する非侵襲的な手法で,20分程度の短時間で実施可能な光トポグラフィー検査は,異なるうつ状態の精緻な鑑別診断を可能にする補助的手段であるとともに,最も適した治療法を選択する上でも重要な手段となっています.たとえば,狭義のうつ病と双極性障害によるうつ状態(双極性うつ病)とでは,今後は,光トポグラフィー検査の結果とそれぞれの病態の特性との関連性をさらに詳しく解析する予定です.
 最近の当科での診療動向での特徴ですが,入院では摂食障害,特に拒食症が,外来では,神経発達症の特性のために様々な困難や苦痛に悩まれている方の増加があります.これらの病態の治療では,必ずしも薬物療法がそれほど有効とは言えず,ご本人の状態に即した心理社会的治療が重要な役割を果たします.自ら治療意欲をもちにくい場合や,自身と周囲で問題点の認識が異なるなど,治療の動悸付けが難しい場合がおおく,地道な心理的な支援と科学的なアプローチによる治療法の開発が求められる分野です.また,認知症患者数の急増が予想される中,その行動障害の予防や治療も当科の重要な役割と考えております.平成26年度末に,脳神経内科と共同で鳥取県基幹型認知症疾患医療センターの指定を受けたことを契機として,この問題に一層傾注していく必要性を感じています.
 当科では基礎研究と臨床研究をつなぐことを教室の重要なテーマの一つに位置付けています.平成26年度より,その取り組みの一環として,せん妄における脳内炎症系の関与を検討するために,抗炎症作用を併せもつ抗生物質であるミノマイシンの効果検討の臨床研究を開始致しました.当面は,術後せん妄に対する効果を調べるため,外科系診療科の先生方にご協力をお願いしております.
 最後になりますが,近年,精神障害の治療において,精神症状のコントロールのみならず,社会で自立的に生活するための社会機能(労働・学習,自立生活,円滑な対人関係等)や主観的な生活の質(QOL)が重視されるようになっています.患者さん自身の意思や希望を重視するリカバリーという視点に立てば当然の流れと考えられます.当科で統合失調症を対象に実施している神経認知機能リハビリテーション法NEARは,参加者自身の治療に対する動悸付けの向上を重視する特徴をもち,対外的にも高い評価を頂いております.治療や社会参加に対する動機付けは脳の報酬系機能とも関係する重要なテーマで,診断カテゴリーを超えて研究に取り組む価値のある対象です.今後,当科として,脳の機能画像,構造画像,神経生理学的指標を用いた包括的な研究に取り組む予定であり,その成果を日常臨床に還元する高い意識をもって,臨床,研究上の課題にチャレンジして参りたいと考えております.

平成26年度の主要英文論文
1) Pu S, Nakagome K, Yamada T, Yokoyama K, Matsumura H, Mitani H, Adachi A, Kaneko K. Association
 between social functioning and prefrontal hemodynamic responses in elderly adults. Behav Brain Res,
 272:32-39, 2014.

2) Pu S, Nakagome K, Yamada T, Yokoyama K, Matsumura H, Nagata I, Kaneko K. Prefrontal activation
 predicts social functioning improvement after initial treatment in late-onset depression. J Psychiatry Res,
 62:62-70, 2015.  
                                              兼子 幸一