精神科
平成24年度の精神科の活動状況を報告致します.
当科の病床は閉鎖病棟24床,開放病棟9床で構成され,多様なこころの病に対する治療およびリハビリテーションを行っています.閉鎖病棟では,精神症状のために治療と保護が必要な方を対象として,主として統合失調症,気分障害(単極性うつ病,双極性障害),認知症,強迫性障害,摂食障害,物質依存,広汎性発達障害などの患者様に対応しています.また,様々な身体合併症のために,その治療を受けられる方にも対応しております.他方,開放病棟では,主として神経症圏の患者様の静養入院を行っています.
また,主に外来診療で,最先端の機能的神経画像検査の一つである近赤外線スペクトロスコピーを用いた先進医療『近赤外線スペクトロスコピーを用いたうつ状態の鑑別診断補助』に取り組んでいます.最近,主要メディアが,社会問題化している抑うつ状態の鑑別診断に対する有用性を取り上げたこともあり,先進医療を求めて受診される患者様が急増し,平成24年度だけで100名以上に上りました.そのうち,山陰2県以外の方が全体の84%を占め,基礎疾患が多様である抑うつ状態の鑑別診断の難しさが改めて浮き彫りになった感があります.特に,薬物療法の方針が全く異なる単極性うつ病と双極性うつ病の鑑別に対する有用性が期待されており,実際,長らく難治性うつ病と診断され,症状に苦しまれてきた患者様が,NIRSの結果,双極性うつ病である可能性が高いことが判明し,気分安定薬等への変薬によって改善する例が複数認められました.しかし,NIRSによる脳血液量の時間変化パターンは疾患間に重複があり,綿密な臨床経過の把握と組合わせる必要があることも痛感しております.研究面でもNIRSを用いて,うつ病患者群では前頭葉機能の活性化と肯定的なストレス対処様式あるいは社会機能の程度が正の相関を示す等の知見を得ています.
また,当科では,教育用ソフトウェアを用いた統合失調症に対する認知リハビリテーションである認知矯正療法NEARを行っています.この治療法は,はじめ,個人ごとに,記憶,作業記憶,注意,遂行機能などの神経認知機能のプロフィールを確認します.その上で,ご本人の意向を取り入れて標的とすべき認知機能を同定し,その改善に有効なソフトウェアを選定します.その際,ソフトウェアをマスターするだけでは日常生活での改善が期待できないため,言語セッションというグループミーティングを取り入れ,ソフトウェアの学習を通じて学んだ様々な認知スキルを日常生活での社会機能の向上に橋渡しするプロセスを重視しています.当科の受診患者数における統合失調症の割合が低いため,地域の病院と連携し,RCT等の臨床研究にも励んでいるところです.
外来診療では,1日平均90~100名の患者様の治療を行っています.通常の精神疾患に対する一般診療に加え,平成22年4月に開設した発達障害児・者に関する専門外来を受診される患者数が増加傾向を示しています.広汎性発達障害には適応障害やうつ病が併存し易く,薬物療法だけでの改善が難しいため,その特性に合った治療と周囲の方々への心理教育に力を入れてまいりたいと考えております.
当科は,今後もメンタルヘルスを担う地域の中核医療機関として,多様な精神障害に対して複合的な視野をもちながら,その治療・リハリビリテーションに努めて参りたいと考えております.
兼子 幸一