第一外科診療科群

1.診療科の概要

第一外科診療科群は、消化器外科、小児外科で構成されており、消化器外科は、1)上部消化管、2)下部消化管、3)肝、移植、4)胆、膵、脾の4部門に分かれて活動しています。

2.診療科の理念

「質の高い医療を地域住民へ提供する」ことが第一外科の理念です。そのために、教室員は、内視鏡外科技術認定医、肝胆膵手術高度技能専門医、食道外科専門医など、高度な技術や技能を備えた専門医取得を目指しています。我々が提供する医療の質の高さは全国屈指であることを自負しており、内視鏡外科手術の充実と拡大、食道癌や膵臓癌などの難手術のハイボリュームセンター化を推進しています。「とことん専門馬鹿となれ」が教室のスローガンで、国立がんセンター、癌研有明病院をはじめ全国の大学、病院へスタッフクラスの医師を長期、短期に派遣し、手術手技の技術向上に努めています。

3.診療の特徴

 消化器疾患(食道、胃十二指腸、小腸、大腸肛門、肝胆膵)、ヘルニア、小児外科疾患が診療の中心です。上部消化管、下部消化管、肝臓(移植)、胆膵脾、小児外科の5グループが専門性を持って診療に当たっています。症例ごとに徹底した診断、評価、反省を行っており、病-病、病-診連携を心がけています。患者さんには退院後、御紹介いただいた先生を受診するよう指導しています。新患患者は診療科長ないし診療副科長が責任を持って診察し、検査、治療の方針を決定しています。

表1  外来診療日の一覧

新患

若月

池口

池口

一般再来

再来医

再来医

再来医

再来医

再来医

専門外来

小児

乳腺

下部消化管

上部消化管

肝、移植

胆、膵

小児

4.診療および手術治療の基本姿勢

  • 食道癌

癌治療においては根治性とともに、手術後の生活の質を保証できる手術治療を選択し、術後の痛みが少ない腹腔鏡手術や胸腔鏡手術を積極的に行っています。

1)  食道癌

(1)手術治療:手術前化学療法を用いた生存率の向上を目指し、手術はほぼ全例腹臥位胸腔鏡・腹腔鏡を用いた低侵襲手術を行い、術後の痛みの軽減に役立っています。

第一外科診療科群1

(2)化学放射線療法(CRT):高齢者や心肺合併症を有する患者様には放射線治療+制癌剤治療を行い、手術治療に匹敵する良好な成績を得ています。比較的侵  襲が少なく、かつ癌が消失、縮小する比率(奏功率)が高いのが特徴で、入院中の食道癌患者の1/2は化学放射線療法(CRT)で治療されています。

 

2)  胃癌

(1)   低侵襲手術:早期胃癌や一部進行胃癌で腹腔鏡下手術を行います。胃癌手術全体の約70%が腹腔鏡手術となっています。また、幽門輪を温存し幽門機能を温存した幽門輪温存胃切除により、食後の低血糖などの不快なダンピング症状を防ぐ手術を取り入れています。高度進行胃癌では化学療法と手術を組み合わせた治療を行い、生存率向上を目指しています。

第一外科診療科群2

(2)手術支援ロボット(ダ・ビンチ):ダ・ビンチを胃癌手術に導入しています。日本では消化器癌にダ・ビンチを導入している施設は少なく、鳥取大学は日本における消化器癌ダ・ビンチ手術の先駆けとなっています。胃癌における適応は早期の癌で、腹腔鏡下胃切除術が可能な症例です。現在まで胃癌症例で20例の手術を行っていますが、良好な手術成績を収めています。

(3)   術前化学療法(NAC):高度進行胃癌に対しては、手術前に化学療法を行い、転移部位や腫瘍そのものを縮小させ、根治性を高めるNAC治療を採用しています。

3)  大腸癌

(1)   低侵襲手術:あらゆる進行度の大腸癌に腹腔鏡手術を応用し、大腸癌手術の80%が腹腔鏡手術となっています。

(2)   機能温存手術

1 肛門温存手術:直腸癌では、内肛門括約筋切除術を用い、従来では人工肛門となったような例にも肛門温存ができる手術を展開しています。肛門近くにある進行直腸癌に対し、術前に放射線化学療法を行い、できるだけ前立腺や肛門を温存する手術を行っています。

2 手術支援ロボット(ダ・ビンチ)を用いた直腸癌手術における骨盤内蔵神経温存手術:従来、進行直腸癌手術において、骨盤内臓神経を温存し、リンパ節郭清を行うことは極めて困難でした。そのため、直腸癌手術後の排尿障害、勃起障害、射精障害は大きな問題となっていました。この直腸癌手術にダ・ビンチを応用することで、骨盤内臓神経を温存し、精緻にリンパ節を郭清することが可能となりました。現在まで20例弱の直腸癌手術をダ・ビンチで行いましたが、全例に排尿障害、勃起障害、射精障害を認めていません。

(3)   化学療法:進行再発大腸癌症例に対しては、FOLFOX6の治療を行い、ご家族の期待に応えております。また、アバスチンやアービタックスなどの新規に認可された分子標的治療薬も積極的に使用しています。

 

4)  肝臓癌

(1)   手術治療:肝切除が基本ではあるが、肝機能が悪い症例には、開腹下マイクロターゼ凝固療法も積極的に展開しています。

(2)   低侵襲手術:肝臓の手術はおなかの傷が大きくなりがちですが、腹腔鏡手術を積極的に行っており、出来るだけ傷を小さくする手術を選択しています。

(3)   生体肝移植:劇症型肝炎、肝硬変症、非代償性肝硬変合併肝臓癌の患者様に対しては、十分な説明のもと生体肝移植も適応としております。

 

5)  膵臓癌

(1)   手術治療:予後も悪く、手術も合併症が多い疾患ですが、われわれの施設では、合併症を0にする手術に取り組んでいます。また、術後もジェムザールとTS-1の化学療法を行い、予後の向上をはかっています。

(2)   低侵襲手術:膵体部、膵尾部に存在する悪性度の低い膵腫瘍に対しては、腹腔鏡を用いて傷を小さくし術後の痛みを最小限に抑えます。

(3)   化学療法:不幸にして、手術不能であった患者様にもジェムザールとTS-1の化学療法を組み合わせた治療法を選択し、癌の進展を押さえ、良好な生存率を得ています。

 

6)  巨大な後腹膜腫瘍手術

巨大な後腹膜は、図のように腹部大動脈、静脈や尿管を巻き込み、手術不能と診断されたり、腎臓や尿管の合併切除を受ける例がほとんどです。このような高度進行後腹膜

腫瘍は、制癌剤治療がほとんど効かず、平均6月の寿命と宣告されます。しかし我々は、このような症例も決して諦めることなく、重要臓器を温存しつつ腫瘍の完全摘出を行ってきました。

 

第一外科診療科群3

第一外科診療科群4

このような後腹膜腫瘍は極めて高率に再発をきたすため、この手術の要点は、重要臓器をできる限り温存し、R0の手術を目指すことにあると考えています。

  •  良性疾患の手術治

1)胆石や虫垂炎などの治療には、おへそを切開し、そこから内視鏡手術(SILS)を導入し、手術後の傷がまったく目立たなくしています(図)。

2)鼡径ヘルニアの手術:形状記憶合成膜(クーゲルパッチ)を用いたクーゲル法や組織に吸収される素材を用いた手術を行い、再発が少なく、早期に職場復帰ができる手術を行っています。

 第一外科診療科群5

  •  小児疾患の手術治療

心臓大血管をのぞく、新生児奇形、腫瘍、尿路系疾患、ヘルニアなど、あらゆる小児外科疾患を取り扱います。2名の小児外科医が治療を担当し、最近では腹腔鏡手術を導入して、傷を小さく低侵襲な手術治療を心がけております。

5.先進医療ならびに研究的医療

1)  高齢者の進行胃癌に対するTS-1術後補助化学療法の多施設共同研究

2)  大腸癌術後補助化学療法の有用性に関する多施設共同研究

3)  高度先進医療の取得を目指す:胃癌、大腸癌に対するロボット手術

4)  肝臓癌に対する腹腔鏡手術

5)  膵臓腫瘍に対する腹腔鏡手術

6)  切除不能・進行再発大腸癌に対する多施設共同研究

7)  末梢血中リンパ球表面抗原を用いた新たな腫瘍マーカーの開発

8)  高度肥満患者に対する腹腔鏡下減量手術

6.産学共同研究

1)進行・再発胃癌に対する制癌化学療法の副作用対策として「フコイダン」の有用性と「フコイダン」の抗腫瘍効果の検討:「株式会社 きむらや」との産学協同研究で実施しています。

2)進行・再発大腸癌に対する分子標的治療薬の皮膚障害副作用軽減に漢方薬(温清飲)が有効かどうかの医師主導臨床研究を計画しています。

3)幽門保存胃切除術後の食物うっ滞の軽減に漢方薬(六君子湯)が有効かどうかの研究を行っています。

7.平成24年1月1日~12月31日までの手術症例

2012年 第一外科診療科群 手術実績一覧

成人疾患群

疾患

術式

例数

総数

食道疾患

食道癌

腹臥位胸腔鏡下食道切除

20

45

左開胸、開腹

2

開腹

1

咽喉食摘、遊離空腸移植

6

試験開胸

1

下咽頭、喉頭癌

食道二次的再建、遊離空腸移植

13

食道GIST

腹臥位胸腔鏡下摘出

1

特発性食道破裂

左開胸下食道縫合

1

胃・十二指腸疾患

胃癌

LADG(ダビンチ)

30 (11)

96

LAPPG

3

LAPG

8

LATG

6

開腹胃切除

9

開腹胃全摘

10

試験開腹

1

審査腹腔鏡検査

1

バイパス

2

GIST

腹腔鏡下胃局所切除

6

開腹噴門側胃切除

1

十二指腸SMT

膵温存十二指腸切除

1

胃・十二指腸潰瘍

腹腔鏡下大網充填

2

開腹大網充填

5

開腹切除

1

経口摂取不良

胃瘻

6

その他

4

肝疾患

原発性肝癌

葉切除

9

38

区域切除

8

部分切除

1

腹腔鏡下肝切除

5

転移性肝癌

葉切除

1

区域切除

4

部分切除

5

腹腔鏡下肝切除

4

その他

区域切除

1

胆道疾患

胆管癌

PD, PPPD, SSPPD

3

55

胆管切除

1

肝葉切除

5

胆嚢癌

胆嚢悪性腫瘍手術

2

胆石

SILS

1

腹腔鏡下胆嚢摘除

26

開腹胆嚢摘除

15

総胆管結石手術

2

膵疾患

膵癌

PD, PPPD, SSPPD

11

20

DP

3

PNET

PD, PPPD, SSPPD

1

腹腔鏡下DP

1

MCN

DP

1

他癌

PD, PPPD, SSPPD

1

嚢胞

DP

1

嚢胞空腸吻合

1

脾疾患

ITP

腹腔鏡下摘脾

5

7

外傷

腹腔鏡下摘脾

1

脾腫瘍

開腹摘脾

1

小腸・結腸疾患

結腸癌

LAC

28

139

開腹結腸切除

10

バイパス

1

人工肛門

2

虫垂粘液腫

腹腔鏡下虫垂切除

2

小腸腫瘍

開腹小腸切除

1

腹腔鏡下小腸切除

1

他臓器癌

人工肛門

2

イレウス

開腹小腸切除

14

腹腔鏡下小腸切除

1

人工肛門

4

癒着剥離

8

バイパス

2

外傷

小腸・結腸切除

4

穿孔

腹腔鏡下腸切除

2

開腹腸切除

2

人工肛門

5

ハルトマン

4

S状結腸捻転

開腹腸切除

1

腹腔鏡下腸切除

1

術後

人工肛門造設

4

人工肛門閉鎖

9

虫垂炎

腹腔鏡

8

開腹手術

7

血栓症

小腸、結腸切除

2

人工肛門

1

栄養障害

腸瘻

4

その他

小腸切除

9

直腸・肛門疾患

直腸・肛門癌

腹腔鏡下低位前方切除

(ダビンチ)

16 (9)

34

腹腔鏡下直腸切断

4

開腹低位前方切除

1

人工肛門

2

他臓器癌

ハルトマン

1

人工肛門

1

直腸潰瘍

人工肛門

1

直腸脱

Gant-三輪

2

腹腔鏡下直腸固定

3

肛門ポリープ

経肛門的切除

1

痔手術

2

ヘルニア

鼠径

25

36

2

大腿

2

腹壁

7

後腹膜

後腹膜腫瘍

後腹膜腫瘍手術

5

12

後腹膜リンパ節

郭清

5

外傷

止血

2

腸間膜

腸間膜リンパ節、腫瘍

摘出(腹腔鏡)

4 (3)

4

乳腺

乳癌

乳房切除(温存)

2 (1)

2

その他

30

30

総 計

466

518

小児疾患群

疾患

術式

例数

総数

頚部疾患

甲上舌管嚢胞

嚢胞摘出

1

2

頸部リンパ節腫脹

リンパ節生検

1

食道疾患

食道閉鎖

食道閉鎖症手術

1

10

食道狭窄

食道拡張

1

食道静脈瘤

食道カメラ

8

胃・十二指腸疾患

食道裂孔ヘルニア

開腹Nissen

5

7

血管腫

胃カメラ

1

栄養障害

胃瘻

1

胆道疾患

胆道閉鎖

胆道閉鎖症手術

4

4

小腸・結腸疾患

憩室炎

腹腔鏡下切除

1

15

イレウス

癒着剥離

1

小腸切除

1

ヒルシュスプルング病

根治手術

1

腸回転異常

根治手術

1

虫垂炎

開腹虫垂切除

10

直腸・肛門疾患

鎖肛

人工肛門

1

2

肛門ポリープ

経肛門的摘出

1

腎疾患

ネフローゼ

腎生検

4

8

CVカテ挿入

1

腎不全

CAPDカテ挿入

3

尿路・生殖器疾患

VUR

尿管膀胱新吻合

7

23

尿道下裂

尿道下裂形成術

2

陰嚢水腫

陰嚢水腫手術

3

精巣捻転

精巣摘出

1

停留精巣

停留精巣手術

7

尿膜管洞

摘出

1

神経因性膀胱

膀胱皮膚瘻

1

膀胱炎

膀胱鏡検査

1

ヘルニア

鼠径

35

40

5

その他

25

総 計

136

第一外科診療科群手術総計:654件(重複は含めていない)

8.学生・研修医教育

山陰の未来の外科医療を担う学生や研修医の教育に力を入れています。日本では外科医不足が深刻です。仕事量の多い消化器外科は特に敬遠されがちですが、教育を通して外科の魅力を伝えていく必要があります。学生・初期研修医はマンツーマン指導を行い、外科医としての基本事項のみならず、癌化学療法、栄養管理、緩和医療や地域連携の大切さを教え込みます。後期研修医は1年間の大学研修を行い、上部消化管、下部消化管、肝胆膵の各領域を3ヶ月毎にローテーションします。その間、マンツーマンの指導を行います。9月間の研修後は、主治医として独り立ちし、腹腔鏡下胆嚢摘除術などの執刀を行います。後期研修2年目では各関連病院へ1~2年出張し、外科専門医取得に必要な症例を経験します。後期研修の3~4年目では大学病院にて研究生活に入るか専門領域に進み、消化器外科専門医を目指します。後期研修医の新しい発想やチャレンジする医療を推進し、一歩一歩確実な充実した研修が出来るシステムを構築しています。

 

                                           文責  池口正英