泌尿器科
近年の急激な高齢化社会の到来に伴い,泌尿器科の代表的疾患である尿路性器悪性腫瘍,前立腺肥大症や過活動膀胱に代表される排尿障害疾患,尿路結石症などの増加に加え,他科疾患による泌尿器科的処置を必要とする症例も増加している。このような状況の中で,我々泌尿器科に求められている役割はますます多岐にわたり,さらに高度化してきている。また,一人の患者が複数の疾患に罹患していることは少なくなく,他科との密接な連携により診療を進めていくことが今まで以上に必要とされている。このような状況に対応すべく,我々は診療,研究体制の一層の充実に努めている。
外来診療では,月曜日から金曜日まで毎日,初再診(水曜日の初診は主に術前診)を行っている。初診は講師以上のスタッフが担当し,それぞれ曜日指定としている。再診には,曜日を指定した専門外来を設置している。専門外来の種類としては,癌外来として腎癌,腎盂尿管癌,膀胱癌,前立腺癌,精巣腫瘍外来を設置しており,癌外来以外には,排尿障害,性機能障害,女性泌尿器疾患外来を設置している。これらは,その領域を専門としているスタッフが担当している。治療方針決定と卒後教育のため,週2回のカンファレンスを通じて前週の手術復習と,入院患者,外来問題症例における診療方針を決定している。癌診療に関しては,最新のエビデンスに基づいた,当科における診療指針を平成22年度末に完成し,これを基に各症例での方針決定を行っている。一方,大学病院での泌尿器科疾患が,質および量ともに増拡大していることなどにより,長きにわたり泌尿器科で担当していた血液透析は,平成24年4月より腎臓内科が担当することとなった。
治療面ではまず手術治療において,当科の特質である前立腺癌に対するロボット支援前立腺全摘除術(robot-assisted radical prostatectomy: RARP)は,平成22年10月に当院初のロボット支援手術として施行されて以降,平成25年3月末までに133件の累計となった。平成24年4月よりRARPは保険収載されたため,今後も症例数の増加が見込まれる。また, 全国に先駆けて開始した,腎温存かつ低侵襲手術であるロボット支援腎部分切除術(robot-assisted partial nephrectomy: RPN)の症例数も着実に増加した。当院ではロボット支援手術を,診療科の垣根を越えた横断的組織である低侵襲外科センターの枠組みの中で施行している。当センターでは,ロボット支援手術を施行している外科系4診療科を中心に,麻酔科,看護師,MEなど全診療科,全職種に門戸を開いたカンファレンスを月2回行い,術前,術後検討,テーマを決めた勉強会を行っている。また,全国初のロボット支援手術に関する教科書を,全診療科,全職種の立場から平成24年4月に発刊した。
平成22年度から全面的に当科で担当することとなった副腎に対する腹腔鏡手術に関しては,内分泌内科と連携をとりながら順調に症例数をのばしている。内分泌内科とは月1回副腎カンファレンスを行い,術前,術後症例検討と,テーマを決めた勉強会を行っている。その他については昨年度の病院年報に記載されている手術治療に関して,手技や術式の改良を重ねながら,より多くの症例で実践している。即ち,まず良性疾患に関して述べると,腎尿管結石に対しては,最新鋭の体外衝撃波破砕術(2008年9月導入),ホルミニウムレーザー,超音波砕石装置使用の内視鏡手術を施行している。前立腺肥大症に対しては,最新の術式であるレーザーによる前立腺核出術を基本的術式として施行している。尿失禁に対しては,最新の術式である尿道つり上げ術を導入している。次に悪性疾患に関して述べると,膀胱癌に対する内視鏡手術,浸潤癌に対しては尿路変更を伴う開放手術を施行しており,特に代用膀胱適応症例に対しては,積極的にその術式を導入している。前立腺癌に対しては放射線療法にも積極的に取り組んでおり,放射線科との合同治療である密封小線源療法とIMRT(強度変調放射線治療)を,RARPとともに限局性前立腺癌に対する三大治療法として,個々の症例に応じた適応のもとで施行している。腎や尿管などの上部尿路悪性腫瘍に対しては,腹腔鏡下手術をスタンダード治療とし,低侵襲手術を目指して努力している。腹腔鏡下手術に関しては,良性疾患である腎盂尿管移行部狭窄症に対しても積極的に施行し,良好な成績を得ている。
手術以外の特記すべき治療として,国内では当科が最も早く手がけている,神経因性膀胱患者に対するボツリヌス毒素膀胱壁内注射を継続して施行している。尿失禁の軽減,自己導尿回数の減少等の良好な成績と高い安全性を得ている。現在,その適応を基礎疾患のない過活動膀胱患者にも拡大しており,高い治療効果と安全性を得ている。薬物治療として,尿路上皮癌に対する多剤併用全身化学療法や,ホルモン抵抗性前立腺癌に対する全身化学療法,進行腎癌に対する分子標的薬治療を積極的に施行し,良好な成績を得ている。その他,他科疾患が原因の尿管狭窄や水腎症に対して,尿管ステント留置や腎瘻造設を施行し,腎機能の改善や生活の質の向上に努めている。
今後も診療,研究両面から更なる質の向上を目指し,地域への貢献ができるように,これからの責務を果たしていきたいと考えている。
鳥取大学医学部附属病院 泌尿器科 瀬島健裕